悶えてる君に声を
本屋は、静かだ。
紙の匂い。
インクの気配。
背表紙が並ぶ規則的な色の列。
その中で、
一箇所だけ、空気が揺れた。
「~~~~っ」
声にならない声。
……なんだ?
視線を向けると、
セナが棚の前で固まっている。
背筋が、わずかに伸びて。
肩が、こわばって。
指先だけが、忙しなく動いている。
本を、開いたまま。
ふぅん。
なるほど。
表紙。
タイトル。
位置。
……そういう棚か。
誰の声を、
頭の中で当てて読んでるんだ?
一歩、距離を詰める。
セナは、気づかない。
文字に、引き込まれている。
口元が、かすかに動いた。
呼吸が、浅くなる。
……俺の声で、反応しろよ。
思うより先に、
身体が動いていた。
耳元へ。
距離は、ぎりぎり。
触れない。
でも、逃げられない。
声を、落とす。
低く。
ゆっくり。
熱を、少しだけ含ませて。
「――君に、
熱く猛る想いを沈めたい……」
言葉が、空気を伝う。
次の瞬間。
「ぎゃあーーーーーー!!」
……店内が、揺れた。
ああ、これは――
いい。
反応が、正直すぎる。
周囲がざわつく前に、
俺はセナの手を引いた。
力は、最小限。
でも、迷いはない。
魔術書コーナーまで、
一気に移動。
「……クク」
喉の奥で、笑いが漏れる。
振り返ると、
セナはしゃがみ込んでいた。
耳まで、真っ赤だ。
「……人生二週目、
終わった……」
そう呟く声が、
やけに小さい。
俺は、何も言わない。
ただ、隣に立つ。
本屋の静けさが、
また戻ってくる。
……この距離で、
この声で。
どれだけ揺れるか、
ちゃんと、わかった。
悪くない。
むしろ――
これは、いいな。




