抱き枕は…
シャワーを終えて、寝支度をする。
髪を乾かして、部屋着に着替えて。
いつもの動作なのに、今日はやけに一つ一つが意識に引っかかった。
宿では――
当たり前みたいに、一緒に過ごしていた。
同じ部屋。
同じベッド。
同じ夜。
でも、ここは実家だ。
……どうするんだろう。
いや、
どうするかは、私次第か。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
コンコンコン。
……。
待つ。
……。
次が、ない。
あれ?
いつもなら、
もう一度、控えめにノックがあるのに。
ほんとに……ない……?
胸がざわついて、
私はそのまま、ドアを開けた。
そこにいたのは――
俯いたまま、立っているラウルだった。
「……ラウル?」
顔を上げた瞬間、
ぽろ、と。
一粒、
また一粒。
涙が、止めどなく零れていく。
ああ。
これ、知ってる。
デジャブだ。
神殿から帰った、あの初日。
あの時の言葉が、ふっと蘇る。
――「君はそんな薄情者だったの!?」
……懐かしいな。
胸に込み上げたものを、そのまま言葉にした。
「私は薄情者ではない!」
ぴくっと、ラウルの肩が揺れた。
ゆっくり顔を上げた目は、
赤く腫れて、ひどく弱っている。
「……寒いから」
私は、視線を逸らしたまま言った。
「布団、あっためて」
一瞬の間。
それから、震える声。
「……はい」
素直すぎて、胸が痛い。
ベッドに横になって、
布団に包まれる。
少し遅れて、温度が近づいた。
私は、ぽつりぽつりと話し始めた。
夏季休暇のあと、
学園で学んだこと。
秋季野外訓練のこと。
上級生たちの凄さ。
変成科が、どれだけ過酷か。
取り留めもない話。
でも、止めなかった。
ラウルは、ただ聞いている。
「……うん」
「そうなんだ」
「それは、大変だったな」
相槌は少なくて、
でも、ちゃんとそこにある。
たまに、私の言葉に小さく笑う。
それが、やけに懐かしくて。
安心してしまって。
瞼が、重くなってきた。
……眠い。
ラウルが、何か言っている気がする。
低くて、
少し震えた声。
でも、意味を追う前に、
私はもう、抗えなかった。
「……好きにして」
そう言ったつもりだった。
たぶん。
そのまま、
意識が、ふっと落ちる。
最後に感じたのは、
布団の中に広がる、静かな温度と。
泣き止もうと必死に息を整える、
すぐそばの気配だった。




