魔術書を求めて
「ねぇ、お母さん。
我が家にも魔術書、あるよね?」
朝食の片づけが終わった後、
何気ない顔で聞いてみる。
母は、すぐに頷いた。
「あるわよ?
書庫にいっぱい」
父が、少し考えるように顎に手を当てる。
「ただし、我が家にあるのは応用以上だな。
展開理論、複合詠唱、環境干渉――」
「ま、待って!
わかった!」
専門用語が洪水みたいに押し寄せてきたところで、
全力で遮断する。
ラウルが、横からさらっと言った。
「村の図書館、行く?」
「書き込みしたいから、
できれば買いたいかなー」
視線が合う。
「じゃあ、本屋だな」
即決。
ということで。
やってきました、本屋さん。
扉を開けた瞬間、
紙とインクの匂いが鼻先をくすぐる。
神殿の静謐な書庫とは、まるで違う。
棚はぎっしり。
背表紙の色も大きさも、ばらばら。
……楽しい。
魔術初級。
魔術中級。
属性別基礎講座。
「これを読めば、あなたもチート級!」
みたいな煽り文句に、思わず足が止まる。
地味に惹かれる。
棚から棚へ。
端から端まで。
歩いて、
……通り過ぎて。
――戻る。
二歩戻って、
もう一度、目を凝らす。
「夜が来るたびに狼に」
「淫らなお嬢様はミルクが好き」
「禁断の魔術に縛られて」
……。
はぁ。
はぁはぁ。
こ、これは……。
この世界にも、
あるのか……!!
心臓が、変な音を立てる。
周囲を確認。
もう一度、確認。
念のため、上下も確認。
……誰も見てない。
ぺらっ。
「~~~~っ」
声にならない声が、喉の奥で詰まる。
こ、これは……
読んでは、いけないのでは……!?
その瞬間。
耳元で、低く、熱を帯びた声。
「――君に、
熱く猛る想いを沈めたい……」
朗読。
正確で、落ち着いた、
お腹の下に届くような声。
「ぎゃあーーーーーー!!」
店内に響き渡る、
私の絶叫。
「どうした!?
どうした!?」
周囲がざわつく。
ラウルは、状況判断が早かった。
さっと私の手首を掴み、
魔術書コーナーへと移動する。
「……っ、ククク」
肩を震わせて、
明らかに楽しんでいる。
「顔、真っ赤」
しゃがみ込む私。
「……人生二週目、
終わった……」
知的好奇心は、
時に身を滅ぼす。
でも。
魔術書コーナーに戻ると、
心はすぐに回復した。
ちゃんとした本を、
ちゃんと選ぶ。
それが、今日の目的。
……二度と、
あの棚には近づかない。
たぶん。
やっぱり欲しい……。




