冬季休暇
冬季休暇。
その言葉は、学園の石畳よりも冷たく、はっきりとした区切りだった。
神殿前の広場。
吐く息が白く、朝の光がやけに眩しい。
馬車の準備を待つ間、私は手袋の中で指を握ったり開いたりしていた。
落ち着かない、というより――考えすぎないようにしている、が正しい。
レックとのお試し交際は、円満に終わった。
それは本当だ。
泣かなかったし、責められなかったし、笑って別れられた。
それがどれだけ幸運なことかも、ちゃんと分かっている。
あれは、レックだから出来た終わり方だった。
……ありがとう、レック。
そう思いながら、視線は勝手に横へ流れる。
幼馴染。
同じ馬車に乗る予定の、その人。
外套の影に半分隠れるように立っているラウルは、
以前よりも明らかに痩せたように見えた。
顔色が、よくない。
目の下に、うっすらと影がある。
(……戦闘魔術科、ほんとにきついんだな)
野外訓練を肌で感じた今なら、分かる。
あの過酷さを、彼は日常として生きている。
怪我は?
魔力の消耗は?
それ以外の――精神的な、何かは?
考え始めると、止まらない。
私は、少しだけ近づいた。
近づいた、というより、無意識に距離が縮んでいた。
「ラウル」
声を掛けた瞬間、こちらを向いた瞳が、少しだけ揺れた。
「……大丈夫?」
自分でも驚くほど、静かな声だった。
心配しているのが、丸見えだったかもしれない。
ラウルは、すぐには答えなかった。
一拍。
それから、ほんの少しだけ口角を上げる。
「……大丈夫だよ」
嘘だ、と分かる答え。
声は落ち着いているのに、
目が、全然笑っていない。
「無理してない?」
問いかけると、彼は視線を逸らした。
「慣れてる」
短い言葉。
それ以上、踏み込ませない壁。
胸の奥が、ちくりと痛む。
昔なら、
「慣れてる」で済ませる人じゃなかった。
「慣れてるけど、平気とは限らないでしょ」
そう言い返して、無理やりでも引きずって、
隣に座らせて、話をさせていた。
――今は、出来ない。
それを分かっているから、私は一歩引いた。
「……そっか」
それ以上、追及しなかった。
馬車の御者が、準備完了を告げる。
革の軋む音。
扉が開く。
席は、隣同士だった。
偶然か、配慮か、分からない。
でも、以前のように腕が回ってくることはない。
触れない距離。
触れられない距離。
馬車が動き出す。
窓の外を流れる冬の景色を見ながら、
私は思った。
――聖誕祭が、終わった。
それは、
何かが終わった、という意味で。
同時に、何かをちゃんと考え直す時間が始まった、という意味でもある。
隣から、微かな体温は伝わってくるのに。
心は、まだ遠い。
それでも。
同じ馬車に乗っている。
同じ帰路にいる。
それだけで、
今は、十分なのかもしれない。
私は、そっと息を整えた。




