戦闘魔術科訓練
地獄だ。
朝から、息が詰まる。
訓練場の空気は乾いていて、
砂と金属と焦げた魔力の匂いが混じっている。
足元の地面は、何度も踏み固められて硬い。
――ここに来れば、忘れられると思った。
忘れられるはずだった。
「次! 間を詰めろ!」
号令が飛ぶ。
身体が、勝手に動く。
詠唱。
展開。
圧縮。
放つ。
魔術が、狙い通りに着弾する。
威力も、速度も、判断も、申し分ない。
周囲が、一瞬、静かになる。
ざわりとした視線。
空気が、わずかに変わる。
……どうでもいい。
評価も。
称賛も。
首位だとか、化け物だとか。
全部、どうでもいい。
欲しいのは、ひとつだけだ。
セナ。
――触れないと、決めた。
あの夜。
あの扉が閉まった瞬間に。
だから、抱いて眠れるものもない。
香りも。
体温も。
腕の中の重さも。
全部、消えた。
ベッドに横になっても、
手は、空を掴む。
目を閉じれば、
いないはずの気配を、探してしまう。
――何も、残っていない。
訓練が再開される。
魔物想定の幻影が、次々と現れる。
上級生が混じる、高負荷の実戦形式。
「来るぞ!」
反射で前に出る。
考えるより早く、身体が反応する。
避ける。
斬る。
焼く。
潰す。
幻影が消えるたび、
胸の奥に溜まったものも、一緒に削れていく。
……違う。
削りたいのは、これじゃない。
息が荒れる。
喉が、ひりつく。
「おい、大丈夫か」
誰かの声。
返事をする余裕もない。
魔術を、重ねる。
限界まで、詰める。
そうしていないと、
頭の中に、声が浮かぶ。
――大丈夫?
あの声。
――無理しないで。
あの手。
それを思い出した瞬間、
胸が、壊れそうになる。
歯を食いしばって、
次の詠唱を叩き込む。
戦闘魔術に、没頭するしかない。
考えるな。
感じるな。
ここでは、強ければいい。
壊れるまで、使い切ればいい。
……それでも。
一瞬の隙間に、
祈りみたいな言葉が、漏れた。
セナ。
助けてくれ。
誰にも届かない声は、
魔力の衝撃に掻き消されていく。
地獄の訓練は、
まだ、終わらない。




