今日も抱き枕
窓辺から、朝日が差し込む。
薄いカーテンを透かした光が、部屋の輪郭をゆっくりと撫でていく。
眠りの名残がまだ残る空気は、ひんやりしていて、でも優しい。
……そして。
ズシッ、と。
腰に回された腕が、やけに安定している。
逃げ道を塞ぐでもなく、離す気もない、絶妙な重さ。
首元に、規則正しい吐息。
「……抱き枕の気持ちが、わかった」
小さく呟いた瞬間、
すぅ、と息が吸われて、ふぅ、と吐き出された。
くすぐったい。
「くすぐったいわ!!!」
抗議の右手が、目を覚ます。
ぺし。
ぺしぺし。
ぺしぺしぺし!
「重い! トイレ行きたい! 漏れる!」
「……もらしちゃえ」
寝起きの低音。
あまりにも適当。
「もらすかっ!!」
私は前世の記憶もちだ。
泣いて、指さして、ちゃんと意思表示して、
ポッティで用を足す賢い赤子だったのである。
成人してから、そんな失態――
ないわー。
布団から抜け出そうとすると、
なぜか、ぎゅっ。
腕に、力が入る。
「……?」
理由は、聞かない。
聞いたら、負けな気がする。
身支度を済ませて、朝の匂いがする方へ。
食卓には、すでに両親がいた。
「おはよう」
「おはよう」
にこやかな挨拶。
……と、母の視線が一瞬、私たちの間を往復した。
艶々してるな。
昨夜はお楽しみでしたね、みたいな顔。
ちがうから。
「私、魔術師を目指そうと思う」
朝の空気に、言葉を落とす。
母が、ぱっと表情を明るくした。
「まぁ! じゃあ私たちと一緒ね」
そう。
実は両親、魔術科を卒業している。
ということは――
遺伝子的に、そこそこの可能性がある、はず。
父も、満足そうに頷いた。
「基礎から積めば、道は開ける」
「ラウルは、どうするのかしら?」
母の問いに、
一拍。
「セナについてく」
即答。
「え!? そんな軽く決めちゃっていいの!?」
思わず声が裏返る。
ラウルは、じっとこちらを見る。
視線を逸らさない。
「離れちゃうと、俺……死ぬかもしれない」
……あ。
妙に、説得力がある。
「だ、大丈夫……死なせない!」
慌てて、手を握る。
私の預かり知らぬ場所で、ぽっくり天に召されたら、
八十年の日々が無駄に――
こほん。
大事な幼馴染だからね!!
握った手は、自然に握り返された。
力は、強くない。
当たり前みたいに、そこにある距離。
朝日は、もう部屋の奥まで届いていた。




