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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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秋季野外訓練初日

地獄絵図だった。


ほんとうに、文字通りの。


朝。

集合。

空気は澄んでいて、空は高く、雲ひとつない秋晴れ。


――ここまでは、最高だった。


「よし! では行軍開始!」


教官の声が、やけに明るい。


嫌な予感は、的中する。


歩く。

ひたすら歩く。

坂。

坂。

また坂。


「……あの、地図間違ってません?」


誰かが呟いた。


間違っていない。

ただし、容赦がない。


変成科は後方配置。

いつも通り。

支える側。

補給。

修復。

整備。

再構築。


「はい次! 壊れた魔術具、修復!」

「地面えぐれてる! 足場再構成!」

「水源、汚染確認! 浄化お願い!」


――待って。


まだ昼前。


なのに、もう一日分働いた気がする。


汗が、背中を伝う。

息が、浅くなる。


「……ちょ、ちょっと待って」


誰かが膝に手をついた。


「待たない」


教官の即答。


「ここは魔物が出る区域だ。立ち止まる=死ぬと思え」


ですよね!!!!!


内心で全員が叫んだ。


騎士科が前方で魔物を捌く。

魔術科が派手に焼き払う。

治癒魔術科が走って回収、治癒。


その全部の後始末が――


変成科。


壊れた地面。

焦げた大地。

崩れた防壁。

血と魔力で汚れた装備。


「はい次!」

「まだあるよ!」

「終わったら次来るから!」


終わらない。

次が来る。

永遠に。


「……野外訓練って、もっとこう……」

「キャンプ的な……」

「自然と触れ合う感じじゃ……」


甘い。

前回で学んだはずだった。


変成科にとっての野外訓練は、


戦場の裏方・完全体験版である。


「セナ! こっち来て!」


呼ばれて、駆ける。

地面が割れている。

魔力の流れが乱れている。


頭が、勝手に切り替わる。


――考えるな。

組め。

直せ。

支えろ。


指が動く。

魔術式を描く。

地面が繋がる。


「助かった!」

「次、あっち!」


はい次。


休憩?

そんなものはない。


「……っ」


ふと、息が詰まる。


視界の端に、

別の動きが映った。


戦闘魔術科。


一瞬だけ、

淡い金色が見えた気がした。


――見ない。


考えない。


今は、

前だけを見る。


それでも。


胸の奥に、

小さな違和感が引っかかる。


集中しきれない。

魔術の精度は落ちていないのに、

気持ちが、ほんの少しだけ遅れる。


「……っ」


歯を食いしばる。


(今はダメ)


昼。


ようやく、

「五分休憩」の声。


五分。


地面に座り込む。

背中から、どっと疲労が落ちてくる。


「……生きてる?」

「たぶん……」

「前回よりキツくない?」


誰かが笑う。

笑うしかない。


「秋季は魔物ありだからな」

「春はまだ優しかったんだ……」


そうだ。

これは、本番寄り。


視線を上げると、

遠くで戦闘が続いている。


――別の世界みたいだ。


同じ学園。

同じ訓練。

なのに、

立っている場所が違う。


「……」


胸の奥が、

きゅっと鳴った。


その音を、

誰にも聞かれないように、

深く息を吸う。


「よし! 再開!」


現実が戻る。


午後も、

地獄は続く。


修復。

補強。

再生。

浄化。


手は止めない。

止めたら、誰かが怪我をする。


夕方。


拠点予定地に辿り着いた時には、

全員、顔が死んでいた。


「……テント、張る?」

「いや……もう……」

「……家、作る?」


誰かが言って、

全員が一瞬、黙る。


――ああ。


変成科だ。


「……最低限でいい」

「今日は……最低限で……」


そう言い合いながら、

それでも、手は動く。


生き残るために。


夜。


焚き火が上がった頃には、

もう、何も考えられなかった。


地獄絵図。


間違いない。


でも。


(……やるしかない)


ここにいる限り。

この役割を背負った限り。


秋季野外訓練、初日。


地獄は、

まだ始まったばかりだった。



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