週末A班と準備
週末。
秋季野外訓練に向けた準備の日。
倉庫の前に集まるA班は、表面だけ見れば、いつも通りだった。
道具の確認。
保存食の点検。
簡単な役割分担。
「これ、前回使ったやつだよね」
「刃、少し欠けてる」
「研ぎ直すか」
声はある。
動きもある。
でも――空気が、違う。
「セナ」
名前を呼ばれて、私は一瞬だけ間を置いてから振り向いた。
「なに?」
返事はした。
声のトーンも、普段通り。
でも、距離が――半歩、遠い。
レックは気づいた。
気づかないふりができないほど、はっきりと。
「それ、重いだろ」
自然な流れで伸びてきた手。
以前なら、何の躊躇もなく預けていたはずの距離。
――でも。
「……あ、大丈夫」
私は、反射的に一歩引いた。
避けた。
完全に、無意識だった。
レックの指が、宙で止まる。
「……そっか」
笑おうとした口元が、ほんの一瞬だけ、歪んだ。
倉庫の奥で、シアンとファルケがやり取りをしている。
二人は、変わらない。
自然に隣に立って。
自然に視線を合わせて。
(……余計に、目立つ)
私とレックの間にある、見えない線。
以前は、なかったもの。
準備は進む。
でも、触れない。
触れさせない。
肩がぶつかりそうになれば、避ける。
道具を渡す時も、距離を取る。
「……セナ?」
もう一度、呼ばれた。
「ほんとに、大丈夫?」
「うん」
即答。
「ちょっと、考え事してるだけ」
嘘ではない。
でも、真実でもない。
――考えないように、している。
それが、正しい。
はずなのに。
昼時になって、自然と流れは食堂へ向かった。
トレイを持って、列に並ぶ。
席に着く。
A班で囲むはずの食卓。
なのに。
視線が、勝手に動いた。
(……)
入口。
人の流れ。
その中に、淡い金色が混じる。
ラウル。
戦闘魔術科の制服。
以前よりも、少しだけ近寄りがたい雰囲気。
私は、自覚するより早く、目で追っていた。
一瞬。
ほんの一瞬。
それだけでいいと、思った。
でも。
「……」
隣で、レックの動きが止まった。
箸を持つ手。
視線の向き。
全部、見てしまった。
「……セナ」
低い声。
私は、はっとして視線を戻す。
「なに?」
問い返す声が、少し遅れた。
レックは、何も言わなかった。
責めない。
問い詰めない。
ただ、静かに、理解してしまった顔をしていた。
――ああ。
気づかれてしまった。
何が変わったのか。
誰を見ているのか。
はっきり言葉にしなくても、
“何かが終わって、何かが始まっている”ことを。
食堂の喧騒が、やけに遠い。
「……準備、午後も続ける?」
「うん」
短い会話。
以前なら、並んで座っていた距離が、
今は、微妙に空いている。
恋人だった頃よりも、遠い。
その事実が、胸に刺さる。
(……ごめん)
心の中で、何度目かの謝罪を繰り返しながら、
私は、食堂の外へ向かうラウルの背中を――
もう一度だけ、目で追ってしまった。
その視線を、
レックが、見逃すことはなかった。




