それぞれの学びへ
学園の門が見えた瞬間、空気が変わった。
馬車が減速し、石畳の音がはっきりと耳に届く。
朝の学園は、もう動き出している。
荷を降ろす生徒、再会を喜ぶ声、慌ただしい足音。
――戻ってきた。
そう思ったのに、胸は軽くならなかった。
馬車を降りる。
風が外套を揺らし、夏の匂いが混じる。
変わらないはずの場所なのに、立ち位置が、どこかずれている。
少し離れたところで、こちらを見ている気配があった。
視線を向けると、そこに立っている。
淡い金色の髪。
背筋を伸ばした姿。
以前なら、当たり前のように隣に並んでいた距離。
今は、一歩分、空いている。
「……ここでいいよ」
声に出した瞬間、自分でも驚くほど、普通だった。
小さく頷く気配。
「頑張ってね」
励ますつもりだった。
昔から、何度も言ってきた言葉。
魔術科へ向かう背中に。
危険な訓練に向かう幼馴染に。
――いつもの言葉。
返事が、来ない。
少しだけ、空気が張り詰める。
視線を上げると、翠の瞳が、こちらを見ていた。
何か言いたそうで、でも、言わない目。
胸の奥が、ちくりと痛む。
「……外套」
言いかけて、言葉が止まる。
夜の約束。
冗談みたいに交わした、交換の話。
香りの話。
当たり前だった距離の名残。
「約束は……」
続きを探して、言葉を選ぶ。
守れない約束なら、口にしない方がいい。
でも、なかったことにするほど、強くもない。
一拍。
「……覚えてる」
低い声が、短く落ちた。
それだけ。
否定も、肯定も、しない。
先を、言わせない。
胸が、きゅっと縮む。
「……じゃあ」
言葉を切って、笑ってみせる。
「それぞれ、学びに行こ」
逃げじゃない。
線引きだ。
そう言い聞かせる。
頷く気配。
一歩、距離が開く。
踵を返して、変成科の方へ歩き出す。
背中に、視線が残っているのが分かる。
振り返らない。
振り返ったら、
きっと、歩けなくなる。
教室が近づくにつれて、
頭の中が、少しずつ切り替わっていく。
今は、学ぶ時間だ。
考えるのは、その後。
魔術科へ向かう足音が、
別の方向へ、遠ざかっていく。
同じ学園。
同じ朝。
でも、進む道は、分かれた。
――それぞれの学びへ。
そう言い聞かせながら、
セナは、教室の扉に手を掛け




