触れられないまま迎える朝
朝は、容赦なく来る。
窓の隙間から差し込む光が、薄く床を染めて、
夜の名残を一つずつ剥がしていく。
――眠れなかった。
隣に、人がいる。
それだけで、こんなにも神経が研ぎ澄まされるなんて知らなかった。
呼吸。
寝返り。
布が擦れる、わずかな音。
全部、分かる。
触れなかった。
一晩中。
触れられなかった、の方が正しい。
少し腕を伸ばせば届く距離。
それなのに、伸ばせない。
昨夜、言われた言葉が、まだ胸に残っている。
「今は距離が欲しい」
拒絶じゃない。
でも、受け入れでもない。
一番、残酷な線引きだ。
――失う恐怖。
それを、ようやく、はっきりと自覚した。
今までは、どこかで思っていた。
何をしても、戻れる場所がある、と。
黙っていれば、隣に来る。
手を伸ばせば、受け入れられる。
そうじゃなかった。
壊したのは、俺だ。
代わりを抱いた夜。
わざと見せつけた視線。
選ばれる側じゃないと、証明したかった愚かさ。
全部、全部。
その代償が、これだ。
朝の光の中で、隣にいるのに、
一番遠い。
布団の中で、指先が小さく震えた。
触れたい。
抱きたい。
確かめたい。
――それが、許されない。
許されないと分かっているのに、
欲が消えない。
だから、動かない。
呼吸を整えて、
目を閉じたまま、朝を待つ。
「……」
微かな気配。
隣の人が、起きたのが分かった。
体を起こす音。
髪が、肩を滑る気配。
声を掛けたい。
おはよう、と。
昨日の続きがあるみたいに。
でも。
喉が、動かない。
掛けたら、終わる。
何かを、決定的に失う。
そう分かっているから。
布団越しに、背中だけを感じながら、
俺は、ただ目を閉じ続けた。
少しして、立ち上がる気配。
足音が、距離を取る。
――離れていく。
その現実が、胸を締め付ける。
朝の空気は、冷たくて、
やけに現実的だった。
触れないまま迎えた朝は、
罰みたいに静かで。
でも、それでも。
逃げない。
逃げたら、もう二度と、
この距離にすら、立てなくなる。
だから、俺は、
何もできないまま、朝を迎えた。
壊したものの重さを、
初めて、ちゃんと抱えたまま。




