隣にいるのに眠れない
目を閉じても、眠れなかった。
隣で、規則正しい呼吸が聞こえる。
同じ部屋。
同じベッド。
触れていないのに、距離だけは近い。
――近すぎる。
背中合わせのまま、天井の暗闇を見つめる。
まぶたの裏に浮かぶのは、今日のことじゃない。
あの光景だ。
植え込みの向こう。
絡み合う影。
聞こえてしまった声。
ラウルが、他の誰かを抱いていた事実。
逃げ場もなく、鈍器で殴られたみたいに、強制的に理解させられた。
――奪われた。
その言葉が、今になって胸に突き刺さる。
私は、ラウルが好きだ。
ずっと。
最初から。
疑いようもなく。
「嫁」だって言葉も、
冗談みたいに口にしていたけれど、
本当は、心のどこかで信じていた。
帰る場所。
隣にいるのが当たり前の人。
それが、
当たり前じゃなかったと知った瞬間。
胸の奥が、壊れた。
喉の奥が、きゅっと詰まる。
息を吸うのも、少しだけ苦しい。
――気づくのが、遅すぎた。
でも。
私は、もう一人じゃない。
頭の中に、別の顔が浮かぶ。
真っ直ぐで、迷いがなくて、
一緒にいると、安心できる人。
レック。
私は今、
レックと交際している。
軽い気持ちじゃない。
「お試し」なんて言葉で誤魔化しているけど、
向き合おうとしている関係だ。
だから。
今、ここで、
ラウルの気持ちに応えることはできない。
できないし、
してはいけない。
わかってる。
――それでも。
身体が、勝手に覚えている。
隣の温度。
呼吸の間。
夜になると、自然に腕が回ってきた感覚。
触れられない今が、
こんなにも、つらいなんて思わなかった。
「……」
声にならない息が、零れる。
私は、弱い。
自覚した恋心は、
消えるどころか、形を持って疼く。
でも。
今は、耐える。
先に、向き合うべき人がいるから。
先に、終わらせなきゃいけないものがあるから。
自分で選んだ線引きだ。
自分で引いた距離だ。
だから――
私は、動かない。
隣で、少しだけ寝返りの気配がした。
それだけで、心臓が跳ねる。
触れない。
振り向かない。
ぎゅっと目を閉じて、
自分に言い聞かせる。
――今は、まだ。
今は、まだ、応えられない。
どれだけ好きでも。
どれだけ大切でも。
隣にいるのに眠れない夜は、
そうやって、静かに過ぎていった。




