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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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帰る場所を失った女

玄関を出た瞬間、空気が変わった。


――冷たい。


昼間の陽気が嘘みたいに、胸の奥まで冷える。

立派な家。

整えられた庭。

完璧に手入れされた敷地。


そして私は、そこから「出ていく側」だ。


鞄を持つ手に、力が入らない。

肩に掛けた紐が、やけに重い。


……帰る場所?


そんなもの、最初からなかったのかもしれない。


応接室での会話が、頭の中で何度も再生される。


静かな声。

逃げない視線。

誤魔化しのない言葉。


「代わりにしていた」

「恋愛感情はない」

「将来は考えていない」


あまりにも、正直で。

あまりにも、残酷だった。


――じゃあ、あれは何だったの?


一緒に過ごした夜。

縋るように抱き合った体温。

名前を呼ばれた瞬間の、胸の高鳴り。


「選ばれた」と、思っていた。


少なくとも、

“選ばれなかった側”じゃないと、

信じたかった。


でも。


あの家に入った瞬間、

すべて、わかった。


視線。

空気。

距離。


彼が、どこを見ているのか。


自分が、

どこに立っているのか。


似ている。

声も。

背格好も。


それが、誇りだった。


――あの人の代わりになれる。


そう思った。

思ってしまった。


でも、違った。


似ているから、選ばれたんじゃない。

似ているから、代わりにされた。


その事実が、

じわじわと、骨に染みる。


「……居ないでください」


あの言葉。


拒絶じゃない。

怒りでもない。


――終わりの宣告。


誰かを守るための言葉でもない。

ただ、線を引かれただけ。


私は、

彼の“内側”に行けなかった。


どれだけ近づいても、

触れても、

名前を呼ばれても。


帰る場所は、

最初から、そこじゃなかった。


門を出る。


振り返らない。


振り返ったら、

何かを期待してしまうから。


でも、歩きながら、

どうしても思ってしまう。


……あの人は。


本当に、幸せになれるんだろうか。


あんなふうに、

ひとりの人間だけを見て、

それ以外を切り捨てて。


壊れないのだろうか。


――壊れているのは、私か。


選ばれなかった女。

代わりだった女。


それでも、

「何もなかった」なんて、

思えないくらいには。


私は、

本気だった。


だからこそ。


これ以上、縋らない。


責任を求めない。

未来を押し付けない。


愛されなかった事実を、

受け取って、終わる。


……強がりだ。


でも、

これ以上、ここにいたら、

もっと惨めになる。


鞄の持ち手を握り直す。


背筋を伸ばす。


選ばれなかったとしても、

私は、私だ。


誰かの代わりで終わる女じゃない。


たとえ、

帰る場所を失っても。


歩き出す。


足音が、ひとつ、ふたつ。


その先にあるのは、

何も決まっていない未来。


それでも。


あの家に戻らないことだけは、

はっきりと、決めた。



リーネ・ノエル

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