両親の本音
エリオス/マリン視点
扉が、静かに閉まった。
その音が、やけに大きく聞こえた。
応接室に残ったのは、三人。
泣き崩れる来客と、向かいに座る青年。
そして――私たち。
マリンは、すぐには口を開かなかった。
泣いている女の子に、そっと視線を向ける。
責める目ではない。
哀れむ目でもない。
ただ、「起きてしまったこと」を見つめる目だ。
「……今日は、疲れたでしょう」
マリンが、やっと言った。
「お茶を、淹れ直しますね」
立ち上がる音。
カップが触れ合う小さな音。
その間、エリオスは黙ったまま、ラウルを見ていた。
若い。
痩せた。
肩に、余計な力が入っている。
――昔から、変わらない。
抱え込む時ほど、動かなくなる。
「ラウル」
低い声で呼ぶ。
呼び捨てにするのは、昔からだ。
「……はい」
返事はあった。
でも、視線は上がらない。
「ひとつ、確認していいか」
エリオスは、淡々と続ける。
「お前は今、“正直だった”と思っているか」
一瞬、間が空いた。
「……思っています」
「そうか」
否定しない。
肯定もしない。
「では、次だ」
一拍。
「その正直さは、誰を救った?」
ラウルの喉が、動いた。
答えは、出ない。
マリンが、静かにカップを置く。
「正直でいることと、誠実でいることは、同じじゃないのよ」
責める口調ではない。
教えるようでもない。
ただ、事実を置く。
「あなたは、自分を偽らなかった。でも――誰も、楽にはなっていないわ」
リーネが、小さく息を詰めた。
マリンは、そちらにも視線を向ける。
「あなたが本気だったことは、わかる」
逃げ場を、与えない言葉。
「だからこそ、ここに居続けるのは、あなたのためにもならない」
エリオスが、続ける。
「ここは、セナの帰る場所だ」
その一言で、空気が変わった。
「今の状態で、ここに居続ければ」
静かに。
「お前も、この子も、あいつを傷つけ続ける」
“あいつ”。
娘の名を出さないところに、距離がある。
「……」
ラウルは、何も言わない。
エリオスは、それを許した。
沈黙を破らせない。
「お前は、選ばなかった」
淡々と。
「選ばなかったのに、繋ぎ止めようとした」
過去形。
「その結果が、今だ」
マリンが、最後に言った。
「セナはね」
一度、言葉を選ぶ。
「優しすぎるの。だから、自分から離れるの」
その言葉が、深く刺さる。
「追いかけてくれない相手を、責めない代わりに」
「自分を守るために、距離を取る」
それは、責めではない。
性格の説明だ。
「だから」
マリンは、はっきりと言った。
「今、追いかけないなら――あなたは、もう“外側”よ」
逃げ道は、ない。
怒鳴られない。
否定されない。
でも。
“許されてもいない”。
応接室の空気は、重く、静かだった。
その沈黙の中で、
ラウルは、初めて理解した。
これは裁きじゃない。
――見放される手前だ。
その自覚だけが、
遅れて、胸に落ちてきた。
次に来るのは、
誰にも止めてもらえない時間。
そして、
選ばれなかった側の孤独だ。




