お菓子とをかし
「をかし」
それは、面白い、かわいい、趣がある――
胸の奥がふっと明るくなる、あの感じ。
私は今、夕食後のお菓子タイムだ。
我が家の居間には、灯りが柔らかく満ちている。
卓の上には、今日のお土産――
という名の、ほぼ自分用のお菓子。
美味しい。
美味しい。
……しかし、ペースがはやい。
「自分で調節すれば?」
そう言われたら、確かにその通り。
――それが、
私の手でお菓子が口に運ばれていなければ、の話だ。
「ちょ、ペースはやい」
抗議すると、低い声が返る。
「セナのせいだ」
なんで!?
ラウルを見ると、
彼は私を、うっとりと見ていた。
一拍置いて、ふぅっと息を吐く。
それから、淡々と。
「……もぐもぐしてるの、可愛い」
「餌付け!」
口を尖らせると、
両親がそろって微笑む。
「あらあら、まぁまぁ」
「お前たちに、新居がいるな」
「いらないよ!?」
思わず即答。
ラウルは少し考えるように、
顎に指を添えてから言う。
「まずは、養えるようにですね」
父が、穏やかに頷く。
「選択肢は、色々ある」
冒険者。
農業。
酪農。
魔術師。
錬金術師。
この世界は、可能性が多い。
母は懐かしそうに笑う。
「ママはね、パパとは学園で出逢ったのよ~」
「一目惚れだ」
……。
…………。
見つめ合う両親。
……長いな。
見つめ合いが。
「こほーん!」
咳払い一つで、現実に引き戻す。
「セナなら、大丈夫よ~」
「進路は、考えておくように」
なるほど。
赤子から成人式へ一気に飛んだけれど、
前世で言えば――
進路に悩む、高校生や大学生みたいなものか。
どうしよう。
せっかく魔術のある世界だ。
目指すなら――
ぽそっと、口をつく。
「……大規模魔術、ぶっぱなしたい」
ラウルが、ピクッと反応した。
両親は立ち上がりながら言う。
「また決まったら、聞かせておくれ。今からは夫婦の時間だからね」
「もう!子供たちの前で!」
……早く家を出なきゃいけない気がする。
お風呂。
歯磨き。
「おやすみー!」
ベッドへ、だーいぶ。
今日は、楽しかった。
ふわふわに包まれて、
このまま――
……。
コンコンコン。
……。
コンコンコンコンコンコン。
……チッ。
「はーい。ちょっと待ってねー」
カチャ。
立っていたのは、
少しだけ髪が濡れたラウル。
湯上がりの水気が、
淡い金髪に影を落とす。
雫が一筋、首筋を伝い、
灯りを反射して、静かに光った。
肩に落ちる髪は、まだ柔らかく、
動くたびに、ほのかな香りが揺れる。
低い声が、夜に溶ける。
「おまたせ」
……色っぽい。
「うん!おやすみ!」
扉を閉めようとした、その瞬間。
ガッ。
足。
……また、足。
「危ない!」
「なにが!?」
「泣くよ!?」
「……クッ。仕方ないな」
八十年、ラウルを守ってきた私としては、
彼の泣き顔に、めっぽう弱い。
守ってやらなきゃ、死ぬからね。
……成長しても、変わらないな。
同じベッドに入って、
布団をかぶる。
「進路どうするー? ラウルはー?」
一拍。
「セナについて行く」
――間。
「(俺から、逃げられないように)」
「責任、重大すぎる」
くすっと笑って、
わちゃわちゃ話す。
でも、瞼が重い。
重みに、耐えられない。
意識を手放す、その時。
「おやすみ、セナ」
低音が、優しく落ちる。
唇に、
温かいものが、そっと触れた……気がした。
さらに、小さく。
「……逃がさないよ。セナ」
問い返す前に、
眠りが、すべてを包んだ。




