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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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胸の奥の違和感

扉を閉めた瞬間、外の気配が途切れた。


赤子部屋は、静かだった。

音を吸い込むような壁。

足音が反響しない床。

意図してそう設計したから、当たり前なのに。


――静か。


深呼吸をひとつして、図面を広げる。

すでに完成しているはずの設計図。

それでも、線をなぞる。


角。

段差。

視界の死角。


「……ここ」


鉛筆で、小さく修正を入れる。

ほんの数ミリ。

誤差と呼ばれる程度。


でも、誤差は事故になる。


魔術式を展開する。

淡い光が床に浮かび、線が走る。


……歪んだ。


理由はわかる。

集中が足りない。


無言で解除。

もう一度、展開。


今度は、床材の反発が少し強すぎた。

赤子が転んだ時、跳ね返りすぎる。


解除。

再展開。


「……安全」


呟いたつもりはなかった。

でも、声に出ていた。


安全。

安心。


この二つだけが、今は必要だった。


壁を叩いて、強度を確認する。

指先に伝わる振動。


――少し、震えている。


あれ。


気のせい、だと思う。

そういうことにする。


家具の配置を見直す。

倒れない。

挟まらない。

登れない。


一つずつ、確認。

一つずつ、潰す。


考えない。

考えない。


赤子は、泣く。

泣いたら、抱き上げる。


抱き上げる人が転ばないように。

夜中でも、足元が見えるように。


灯りを追加。

影を消す。


「……安心」


また、声が漏れた。


胸の奥が、きゅっとする。

理由は考えない。


考えないから、ここにいる。


魔術式を重ねる。

補強。

補正。

冗長化。


失敗しても、無言でやり直す。

誰にも見せない。

誰にも聞かせない。


完璧じゃなくていい。

でも、危なくないように。


赤子が生きる場所だから。


前世の知識が、淡々と流れ込む。

危険事例。

事故報告。

ヒヤリハット。


全部、潰す。


指先が、また震えた。


……冷えてる。


手を擦り合わせて、再開する。

止まらない。

止まったら、考えてしまう。


だから、動く。


床に膝をついて、式を描き直す。

呼吸が、少しだけ浅い。


でも、大丈夫。


ここは、壊れない。

ここは、裏切らない。


赤子部屋は、完成していく。


外で何が起きているかは、知らない。

知ろうともしない。


今は、

安全。

安心。


その二つだけを、反芻していればいい。


そうしているうちに、

胸の奥の違和感は、

作業の向こう側に、押しやられていった。


――まだ、戻れる。


そう、思っている自分に、

気づかないまま。



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