連れていけない理由
学園・夏季休暇直前/リーネ視点
夏季休暇の話題が、学園を覆っている。
廊下でも、食堂でも、寮の談話室でも。
誰かが必ず「帰省」や「旅行」の話をしている。
それを聞くたびに、胸の奥がざわついた。
――私は?
彼の隣にいる私は、
その話題に、最初から含まれていない。
部屋で荷物をまとめる彼の背中を、黙って見ていた。
必要最低限の物だけを詰める、無駄のない動き。
迷いがない。
そのことが、怖かった。
「……夏季休暇、いつ出るの?」
声が、少しだけ震えた。
振り向いた彼は、一瞬だけ私を見て、
すぐに視線を逸らした。
「明日だ」
それだけ。
行き先も、期間も、
一切、教えてくれない。
「……私も、行ける?」
言葉にした瞬間、
空気が、冷たく固まった。
彼は、はっきりと首を横に振った。
「無理だ」
即答だった。
理由を聞く前に、
もう、答えは出ている。
「どうして?」
縋るみたいな声になったのは、自覚している。
彼は、少しだけ眉を寄せた。
苛立ちでも、迷いでもない。
ただ――面倒そうな、表情。
「関係ないからだ」
その一言で、
心臓を、握り潰された気がした。
関係ない。
私は、ここまで一緒にいたのに。
夜を共有して、身体を重ねて、
未来を想像していたのに。
「……私、あなたの何?」
問いかけは、精一杯だった。
彼は、少しだけ黙ってから、
低い声で答えた。
「必要な時に、そばにいた」
それだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
理解した瞬間、
膝の力が抜けそうになる。
――ああ。
私は、連れていけない女なんだ。
彼の“帰る場所”に、
私は、最初から含まれていなかった。
それでも。
ここで縋ったら、
本当に、何も残らない気がして。
「……わかった」
そう言って、笑った。
プライドだけは、
最後まで、手放したくなかった。
彼が部屋を出ていく音を聞きながら、
リーネは、静かに思った。
私は、
選ばれたと思っていただけ。




