結婚すると思っていた夜
学園・夏季休暇前/リーネ視点
夜は静かだった。
学園の寮は、消灯の時間を過ぎると、音が削ぎ落とされたみたいに静まる。
その静けさが、好きだった。
隣で眠る男の呼吸を、はっきりと感じられるから。
背中に回された腕。
逃がさないみたいな強さで、でも雑じゃない。
抱かれるたびに、思う。
――ああ、私は選ばれたんだ。
声が似ていると言われた。
背格好も、雰囲気も。
最初は、偶然だと思っていた。
でも、彼が私を選んだ理由を知った時、胸の奥が熱くなった。
「……似てるんだ」
その言葉は、
私にとっては“資格”だった。
彼が求めているものに、私は応えられる。
代わりじゃない。
“私”として、ここにいる。
夜の中で、彼は多くを語らない。
甘い言葉も、将来の話も、ほとんどしない。
それでも。
触れる手は確かで、
身体は、嘘をつかない。
だから、信じた。
――ここまでしたなら。
――ここまで深くなったなら。
結婚すると思っていた。
責任を取る、と言われなくてもいい。
言葉にしなくても、わかっているつもりだった。
私が、彼の“隣”なんだと。
名前を呼ばれなくても、
視線が遠くを向いていても。
夜の間だけは、
私は、確かに“選ばれていた”。
そう、思っていた。




