触れない選択
食堂の入口は、いつもより少し騒がしかった。
昼のざわめき。食器の音。笑い声。
その中で――
一瞬、空気が変わった。
視線の先に、淡い金髪が見えた。
……ラウルだ。
戦闘魔術科の集団に囲まれて歩いている。
背筋はまっすぐで、歩き方が以前よりも静かで、硬い。
目が合った。
ほんの一瞬。
でも、確かに合った。
「ラウル!」
声を掛けたのは、反射だった。
考える前に、名前が口から出ていた。
足を止める。
彼も、止まった。
近づいてこない。
あれ?
前は、目が合ったら当然みたいにこっちへ来てたのに。
「……おめでとう」
私が先に歩み寄った。
「戦闘魔術科、首位なんでしょ?
すごいよ。誇らしい」
本心だった。
本当に、すごいと思ったから。
幼馴染が、努力の結果で評価されている。
それが、素直に嬉しかった。
「……ありがとう」
返ってきた声は低くて、淡々としていた。
そこで、気づいた。
ラウルの隣。
腕に、ぴたりと寄り添う女子がいる。
距離が、近い。
肩が触れている。
自然に、指先が袖を掴んでいる。
……恋人、だよね。
胸の奥が、きゅっと鳴った。
「……そっか」
思ったよりも、声は普通に出た。
ラウルは、何も言わない。
ただ、その女子から離れようともしなかった。
視線だけが、私を見る。
――じっと。
私の表情を、確かめるみたいに。
「忙しそうだね」
笑って言った。
「また、今度ね」
これ以上、踏み込まなかった。
聞かなかった。
触れなかった。
それが、私なりの気遣いだった。
だって、もう。
ラウルは、私の“そばにいる前提”じゃない。
背を向けた瞬間、気づかなかったけれど。
ラウルの隣の女子が、ほんのわずかに身体を強張らせていたことも。
ラウルの視線が、一度も彼女に向いていなかったことも。
――そして。
私が去った後。
ラウルの胸の奥で、別の感情が、ゆっくりと滲み始めたことも。
(……ああ)
選んだはずの“道具”が、
選ばれなかった側を刺激する。
セナの優しさは、
触れない選択は、
ラウルを壊すのに、十分だった。




