初めての散策
前世から引き継いだ感覚と、
神殿で学んだこの世界の常識。
頭の中で、自然に噛み合っている。
ここは、五つある大陸のうちのひとつ。
ルクス王国。
私たちが住んでいるのは、
辺境伯領の端っこにある――
「ミルキ」村。
人口は、五百人に満たない。
けれど、貧しくはない。
魔法のある世界は、やっぱり便利だ。
馬車で村から街へ行けるし、
街には神殿があって、
日替わりで転送陣が稼働する。
神殿から神殿へ。
行きたい街に転送される日に、予約して、お支払い。
……まぁ、費用がバカ高いので、
滅多には使わないけど。
成人式が行われたのは、王都の神殿。
ミルキ村から馬車で二日ほどの最寄りの街、メレク。
そこにある神殿で――ひとっ飛び。
文明と魔法の、いいとこ取り。
さて。
先日は、乗合馬車から実家まで一直線だった。
今日は――
「ミルキ村、探索しますかね!」
と、意気込んで外に出たわけだけど。
……。
めちゃくちゃ、見られてる。
え?
私、変な格好してる?
服は普通。
髪も整えた。
歩き方も問題ない。
……あ。
そうか。
成人したて、だからだ。
あの、ちまこい乳児が。
百年バブってた赤子が。
――あれまぁ!
大きくなってぇー!
的な。
なるほど。
納得した私は、
にこっと笑って、周囲に手を振った。
ありがとう!
ありがとう!
知らないおばちゃんにも、
パン屋のお兄さんにも、
通りすがりの冒険者にも。
ラウルが、横で怪訝そうに見る。
「……なに、やってるの?」
声が、低い。
「成長した私を、誇ってる」
「ぷは」
吹いた。
「さぁ!
どこから見ていこうかな!」
ミルキ村は、広い。
畑も、牧草地も、工房もある。
冒険者、魔術師、治癒魔術師、戦士。
行き交う人の種類も多い。
鍛冶屋。
魔道具屋。
雑貨屋。
「ファンタジー!
ファンタスティック!」
思わず、両手を上げた。
その瞬間。
――ぎゅっ。
後ろから、抱き締められた。
バックハグ。
「ど、どうした急に!?」
「今、セナが違う世界に
飛んで行った気がして。
危ないから、繋ぎ止めてるとこ」
……真顔で言うな。
はっと、周囲を見る。
ひそひそ。
ひそひそ。
「なにしてるの、あの子たち……」
「若いって、いいわね……」
……指、ささないで。
なるほど。
変人扱い、回避か。
「ありがとう!
さすが幼馴染だね」
そう言ったら、
ラウルは腕を緩め――
ない。
離してくれない。
結果。
手を繋いだまま、村を回ることになった。
……まぁ、いいか。
屋台飯は、美味しい。
焼き串。
甘い焼き菓子。
香辛料の効いたスープ。
「楽しい!」
噴水広場のベンチで、休憩。
水音が、心地いい。
「はー!
百年赤子からの、解放感!」
言った瞬間。
すっと、飲み物が差し出された。
ラウルだ。
……嫁。
なんて、良い子。
「ありがとう、ラウル」
にこっと、笑う。
ラウルが、
息を飲んだのが、わかった。
……あれ?




