柔らかい口付け
俺の彼女は、可愛い。
自覚した瞬間から、
その事実が頭の中を占拠して離れない。
歩くたびに揺れる、さらさらの銀髪。
光を含んだ蒼い瞳。
落ち着いた表情の奥に、ふと零れる柔らかい笑顔。
……美人だ。
それに。
ぷっくりした唇。
正直、最初から目がいってた。
見ないようにしても、どうしても意識してしまう。
(……甘そう)
いや、違う。
そんな軽い言い方じゃ足りない。
あれは――
触れたら、終わるやつだ。
今日一日、一緒に歩いて、
本を選んで、食事を分け合って。
ずっと楽しかった。
楽しかった、はずなのに。
胸の奥に、
小さな引っかかりが残っていた。
セナは、落ち着いている。
俺が浮ついている分、
彼女はどこか冷静で、
一歩引いた場所に立っているみたいで。
手を繋いでいても、
距離はちゃんとあって。
(……俺だけ、舞い上がってないか?)
そんな不安が、
夕暮れの色に混じって、
じわじわと膨らんだ。
だから――
確かめたかった。
夕日を背にして、
名前を呼んだ。
振り向いた顔が、
あまりにも無防備で。
視線が合って、
逃げ場がなくなった瞬間。
体が、勝手に動いた。
ゆっくり、
本当にゆっくり。
近づいて、
触れた。
ほんの一瞬。
柔らかくて、
温かくて。
――それだけ。
でも。
びくっと、肩が揺れて。
「手がはやい!!」
予想以上の反応。
真っ赤になった顔。
慌てて後ずさる足。
抗議の手。
……あ。
(初めて、か)
それが、
はっきり伝わってきた。
照れ方も、
怒り方も、
全部。
俺と、同じだ。
胸の奥が、きゅっと縮む。
嬉しさと、
安堵と、
それ以上に――
「……大切にしなきゃ」
自然に、そう思った。
勢いで踏み込みそうになる自分を、
ぎりぎりで止める。
軽くしちゃいけない。
急いじゃいけない。
この人は、
ちゃんと向き合うべき相手だ。
慌てて謝って、
並んで歩く帰り道。
さっきより少し、距離はあったけど。
それでも。
並んで歩けている。
(……よかった)
彼女は、俺の彼女だ。
だから――
焦らず、大事に、
ちゃんと積み重ねていこう。
そう、心に決めた。
レック・レス




