初デート
朝から、落ち着かない。
鏡の前で髪を整えて、
服を直して、
一度座って、また立つ。
……何やってんだろ。
心臓が、いつもより少しだけ忙しい。
野外訓練の朝みたいな、
それよりもっと、変な感じ。
寮の前に出ると、
すぐに見つかった。
明るい声。
「セナ、おはよう!」
手を振る姿が、やけに眩しい。
「おはよう」
返した瞬間、
自然すぎる動作で、手を差し出された。
一瞬、迷って――
でも、そのまま、のせる。
指が絡んで、
きゅっと、力がこもった。
……近いな。
振り返って、
もう一人の存在を探す。
「またね、ラウル」
少しだけ高い声。
見送られる視線を背中に感じながら、
歩き出す。
「今日、行きたい場所ある?」
横から聞こえる声。
「本屋と……あと、美味しいデザートが食べれるところ?」
言ってから、
あ、普通すぎたかな、と思う。
でも。
「任せて」
即答。
「情報通!?」
「シアンに相談した」
なるほど。
女子会情報網。
そのまま、手を繋いで街へ向かう。
人の多い通り。
屋台の匂い。
石畳に、朝の光。
本屋では、
互いに棚を指差して、
「これ好きそう」「それ読んだ?」って、
気づけば長居。
昼食は、
一皿を分け合って。
「一口ちょうだい」
「はいはい」
フォークが交差して、
笑って。
……あれ?
(族長時代と、あんまり変わらなくない?)
一緒に動いて、
並んで考えて、
息が合う。
延長戦みたいだ。
でも、違う。
夕暮れ。
街がオレンジ色に染まって、
影が長くなる。
歩幅が、自然と揃う。
「セナ?」
呼ばれて、見上げる。
視線が、絡む。
近い。
近すぎる。
ゆっくり迫る顔に、
一瞬、頭が真っ白になる。
――ちょん。
軽い、接触。
「手がはやい!!」
反射で、声が出た。
「はははは!」
笑ってる!
ぺしぺし!
抗議の手が唸る。
「初めてか、確かめたくて」
「はぁ???」
最近の若者ってやつ!
なにそれ!?
「帰る!」
「ごめん! 大切にするから!」
慌てて追いかけてくる足音。
結局、
横に並んで、寮まで戻る。
その途中。
――ぞく。
一瞬、
背中をなぞるような寒気。
振り返っても、
何もない。
気のせい、だよね。
(……楽しかったな)
異世界の初デート。
思ったより、
普通で、
甘酸っぱくて、
ちょっと騒がしい。
胸の奥が、
じんわり温かいまま。
私は、何も知らずに、
笑っていた。




