いったもん勝ち、やったもん勝ち
正直に言うと。
あの瞬間――勝った、と思った。
夕焼けの色が、まだ街に残っている。
石畳が橙色に染まって、昼のざわめきが少しずつ遠のいていく時間帯。
彼女は、俺の隣にいた。
歩幅を合わせるのが当たり前みたいで。
人混みでは自然と近くなって、ぶつからないように肩を寄せる。
それだけで、胸の奥が熱くなる。
(……俺の、だよな)
自分でも驚くほど、その言葉が自然に浮かんだ。
丘の上で告白した時。
緊張で喉が渇いて、手のひらがじっとりしていたのに。
彼女は、少し考えるみたいに瞬きをしてから、
「お試し?」
なんて、軽い声で言った。
――その瞬間、勝ちを確信した。
完璧じゃない。
確定でもない。
でも、“拒否”じゃなかった。
それで十分だった。
「うん」
って、彼女が頷いたのを見た時。
胸の奥で、何かが弾けた。
ずっと好きだった。
一目惚れで、理屈も理由も後付けで。
森で一緒に生き延びて、隣に立って、背中を預け合って。
俺はもう、彼女の隣に立つ側だ。
――彼氏側。
それだけで、世界の見え方が変わった。
寮へ戻る道。
ふわふわしている彼女の足取りが、やけに可愛くて。
頬が赤いのも、目を伏せがちなのも、全部。
寮の前に、先にいた男の存在に気づいた時。
正直、一瞬だけ、眉が動いた。
(……ああ、あいつか)
幼馴染。
長い時間を共有してきた相手。
彼女の“過去”にいた男。
でも。
彼女は、俺の隣にいる。
俺は、歩調を緩めず、彼女のすぐ横に立った。
視線を逸らさない。
譲らない。
男が手を差し出したのを見て、少しだけ、胸の奥がざわついたけれど。
それでも。
「明日、二人だけのデート、楽しみにしてる」
そう言って、俺は彼女の頬に口付けた。
軽く。
触れるだけ。
でも、確実に。
彼女が両手で顔を覆って、驚いたみたいに立ち尽くしたのを、ちゃんと見た。
熱を持った頬。
言葉を失った顔。
――ああ。
完全に、俺の彼女だ。
背中に、視線が刺さるのを感じた。
凍りついた空気。
一瞬、時が止まったみたいだった。
でも、振り返らない。
俺は、勝った側だから。
いったもん勝ち。
やったもん勝ち。
先に手を伸ばして、
先に気持ちを伝えて、
先に触れた。
それが、答えだ。
(……遅いんだよ)
心の中で、そう呟いた。
誰に向けてかは、考えない。
彼女が俺を選んだ。
それだけで、十分だった。
レック・レス




