翌朝、距離感がおかしい
ぎゅっ。
腰に回された腕。
首元に、あたたかい吐息。
……今、私は。
抱き枕化している。
ラウルの体温が背中にぴったりで、
逃げ場がない。
でも――
あ……これはこれで、ポカポカしてるし、
二度寝に最適……。
……。
はっ。
寝てた。
慌てて、右手でラウルの腕をぺし、と叩く。
「腕、重い。起きて」
その瞬間。
ピクッ。
……からの、
ぎゅっ。
締め付け、強化。
「しめるな!
腕を、退けるんだ!」
ぺち。
ぺちぺち。
ぺちぺちぺち!
抗議の右手が、うなる!
それでも、離れない。
すぅー……と、
大きく息を吸う気配。
ゆっくり、
耳元で息が吐かれる。
「セナ、おはよう」
……やけに、イケボ。
朝から、やめてほしい。
ぞくっとしたじゃないか。
もぞもぞと、
ベッドから這い出す。
勝手知ったる我が家の廊下を進み、
身支度を整える。
鏡の前で髪を整え、
顔を洗って、深呼吸。
いい匂いがする方へ。
「おはよう!」
食堂では、
両親がにこやかに迎えてくれた。
「よく眠れた?」
「体調はどう?」
一つひとつ、丁寧に気にかけてくれる。
その横で。
ラウルが、
母の配膳を手伝い、
皿を運び、
紅茶を淹れている。
動きが、やたら自然。
……嫁だな。
思わず、口に出た。
「ラウルは、素晴らしい嫁になるね!」
きょとん、とするラウル。
一拍置いて。
「わかった。
セナの嫁として、全力を尽くす」
……なぜ、真顔。
わけのわからぬ冗談に、
きっちり乗ってくれる幼馴染。
なんて有難い。
母が、楽しそうに笑う。
「今日は、どうするの?
のんびりする?
それとも散策する?
ママもついていこうかな」
父が、さらりと割って入る。
「もう二人は成人している。
君は、俺に愛されていてくれないか?」
「もう!
子供たちの前よ?」
……百年以上、熱々だな。
夫婦円満、良き事。
ふと、思う。
お外。
ほとんど、出た記憶がない。
愛車のベビーカーは、屋内専用車だったし、
庭先どまり。
神殿も、高い塀に囲われていた。
……これは。
行くしかないよね。
「お小遣いがいる!」
即答。
「現実的!」
ラウルが笑う。
両親も、つられて笑う。
「いってきまーす!」
「迷子に気を付けるのよ!」
「行ってらっしゃい」
もちろん。
お出掛けは、ラウルと一緒。
扉を開けると――
外は、
きらきら輝いていた。
空が広い。
風が気持ちいい。
世界が、こんなに近いなんて。
私は、一歩踏み出した。




