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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
最終章 終焉の灯火

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第72話 凶星①

「なぁ、いい加減退屈で死にそうなんだが」


 拠点にしている夜刀のマンション、その広々としたリビングで凶星はソファにだらしなく寝転がり、天井を睨みつけながらぼやいた。

 二メートルを優に超えるその巨体には、いかに高級なソファといえど窮屈すぎる。


「アレを顕現させるまでもう少しなんだから我慢しなさい」


 絶夢はガラスのグラスに差したストローをくわえ、淡々とアイスティーを啜る。


「もう少しって具体的にはいつだよ?」

「もう少しはもう少しよ。明日かもしれないし、1ヶ月後かもしれない」

「1ヶ月も待ってられるかよ。……おい、夜刀」


 黙って本を読んでいた銀髪の男に、凶星はぞんざいな声を投げた。


「何かねぇのか? 暇つぶし」


 夜刀は本を静かに閉じ、少し間を置いてから口を開く。


「……そうだな。そろそろ、あいつらに手を出してもいいかもしれんな。もう、利用価値も尽きかけてる」

「あいつら?」

「強力な異能師たちさ。凶人の残滓化に貢献してもらってたけど、もうこちらで回せる段階に来てる」

「ほう?」

「国家安全維持局を襲撃しに行ったらどうだ? 戦闘力の高い個体が毎日揃って会議なんかしてるようだ。派手に暴れてくればいい」


 凶星の口元が、ゆっくりと吊り上がる。

 ぐっと上半身を起こし、赤黒い眼が獰猛に光った。


「──全員、ぶっ殺してもいいんだな?」

「ああ、構わない。好きにしろ」


 ◆◆◆


 国家安全維持局の会議室。

 局の幹部たちに加えて、国家戦略高専から招集された特級以上の異能師たちも一堂に会していた。


 潜入任務を終えたばかりの八雲は、顔をこわばらせたまま、報告を続けていた。

 その声には、わずかな怯えが滲んでいる。


 透真は、慣れない会議の場に圧倒され、緊張のあまり背筋を強張らせたまま、ただじっと座っていた。

 周囲の空気の一つひとつが、場違いな自分を否応なく意識させる。

 そんな透真の様子とは対照的に、御影はまっすぐ背筋を伸ばしたまま、まるで自分が仕切る立場であるかのように落ち着き払っている。


「……新世界の繭?」


 局長の濱中が低く重たい声で問い返す。


「はい。エネルギーをそこに集めていると」

「集めて何をする気だ?」


 氷室がすかさず問い詰める。


「ただの暇つぶしと……」


 八雲は戸惑いを隠さずに言った。

 冗談のような返答を真に受けるのもためらわれたが、それ以外に聞けたことはない。


「……なんだそれ。で、実際にそれを見てのお前の見解は?」


 氷室の鋭い視線を受け、八雲はわずかに息を止めた。


「語彙力が乏しくてすみませんが、とにかくヤバいと。あれはまるで――」


 一瞬言葉を止めて目を伏せ、ためらうように口を開く。


「2年前の裏能祭に現れた——あの得体のしれない闇のような気配が」

「……なんだと?」


 場の空気が一変する。

 会議に出席していた何人かが小さく息を呑む。


「場所は小石川植物園だったな? 今すぐに――」


 会議の参加者たちが椅子から立ち上がろうとした――まさにその時。



 ドゴオオン!!



 内閣府本庁舎の入口付近で、爆音が炸裂した。

 突き上げるような衝撃が床を揺らし、遠くからガラスが砕ける音が連鎖して響く。


 ◆◆◆


 霞ヶ関に聳え立つ、内閣府本庁舎。

 厳重な警備体制が敷かれたその巨大な建物に向かって、赤い巨体がゆっくりと歩を進めていた。

 悠然と、まるで散歩でもするかのような足取りで。

 遠くからでも異様さが伝わるその姿に、正面を固める警備員たちが次々と警戒態勢に入る。


「な……なんだ、おま――」


 その問いは、途中でかき消された。


轟滅拳デモリッション・フィスト


 凶星が軽く拳を振り下ろす。

 その風圧だけで警備員たちは跡形もなく吹き飛び、分厚いドアが轟音と共に内側へ弾け飛ぶ。



 ドゴオオン!!



 破壊音が霞ヶ関全体に響き渡る。

 煙と破片の舞うなか、凶星は大きく息を吸い込むと、咆哮のように声を張り上げた。


「おい!!! 異能師たち!!! このビルを倒壊させたくなけりゃ――とっとと降りてこい!!!」


 その声が空気を揺らし、壁が微かに震えた。

 コンクリートが軋む音すら聞こえる静寂のあと、凶星は満足げに腕を広げて叫ぶ。


「さあ、始めようぜ!!!」


 ◆◆◆


「な、なんだ!? 今の衝撃は!?」


 会議室がざわつく。僕も思わず立ち上がる。

 氷室さん、諏訪さん、それに維持局の精鋭たちが一斉に席を蹴って走り出すのを見て、僕と久遠寺さんもすぐに続いた。


 そして――


 そこに立っていたのは、鎧のように膨れ上がった筋肉の塊。

 ひび割れた火傷痕のような裂け目からは、じくじくと熾火が燻っている。

 一目見ただけで、そいつが人間の範疇にいないことはわかった。


「ハッハー。いるじゃねぇか、うじゃうじゃと。面白そうなのが!」


 その声に反応して、嵯峨野さんが目を見開く。


「おい、一乗谷! こいつは――」

「ええ、あの時の奴です。俺を集中治療室送りにした」

「やっぱりそうか。二人目の凶度4……凶星だったか」


 その名が出た瞬間、場の空気が変わった。


「こいつをここで抑えるのも重要だが、『新世界の繭』ってやつも急がなきゃな」


 氷室さんが冷静に言う。


「二手に分かれよう」

「組み分けはどうするの?」


 と諏訪さん。


「考えてる暇はねぇな。俺の直感でいくぞ。極級は、とりあえず出雲崎は残れ。嵯峨野と護国は小石川植物園へ」

「他の連中は自己判断に任せる。嵯峨野たちについて行くやつは急げ。車はすぐに出すぞ!」

「了解!」


 僕が指一本動かせずにいる間に、歴戦の猛者たちはすでに動いていた。

 迷いも逡巡もない。

 判断と行動が恐ろしく早い。


 そして、この場に残ったのは――


「当然、俺は残る。あの時の借り、百倍にして返してやらねぇと気が済まねぇ」


 こめかみをピクピクさせながら笑う、一乗谷先輩。


「私も透真君と一緒に戦う。やっと……一緒に戦える」


 少し嬉しそうに、それでもしっかりと力強く言う久遠寺さん。


「植物園だと、私の能力はあまり活きそうにないしね」


 肩をすくめながらも前に出る、諏訪隊長。


 そして斑鳩姉妹――

 新入生にしては荷が重すぎる相手だ。けれど今は、それを言ってる余裕もない。


「おいおい、残ったのはこんだけか? ……俺を舐めてねぇか?」


 凶星の紅蓮の瞳に、ふっと火が灯る。

 その瞬間、空気が焼けるように変わった。


 そして――


 拳を、誰に向けるでもなく、ただ振り抜く。


轟滅拳デモリッション・フィスト


 霞ヶ関をこの日二度目の衝撃波が襲う。

 ビルの窓ガラスが一斉にたわみ、地面が脈打つように震えた。

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