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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
最終章 終焉の灯火

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第69話 双子の特級異能師(見習い)

 5月14日。


 僕は今年もチューターを任されることになった。

 去年の護国君とは違い、今年の担当は女子生徒。

 入学式の時に少し話題になっていた――双子の特級能力者、その姉の方らしい。

 ちなみに妹の方は久遠寺さんが受け持つことになったそうだ。


 異性というだけで少し気後れする。

 けれど、それを振り払うように足を進め、グラウンドへと向かう。


 凶災の余波が残る世界。

 空は鈍く灰色に霞み、校庭の土も乾ききらないまま沈んでいるような気がする。

 それでも、春の空気はどこかやさしく、頬を撫でる風は新しい季節の訪れを知らせてくれる。


 整列した一年生たちの前で、僕は声を上げた。


「えーっと、斑鳩菖蒲いかるがあやめさん? いますかー?」


 体育座りの列の一角から、すぐに声が返ってきた。


「はい!」


 はつらつとした声が響き、ぱっと立ち上がる少女。

 明るめのブラウンの髪が肩に揺れ、鎖骨あたりでまとめられたサイドの一つ結びが目を引いた。

 表情はとても素直で、きらりとした眼差しに曇りがない。


「あ、担当の出雲崎です。よろしく」

「よろしくお願いします!」


 丁寧なお辞儀と明るい返事。

 その瞬間、僕の胸のどこかがふっと軽くなった。

 ひとまず、第一印象は――とてもいい。


 僕たちはそのまま、メタ粒子の濃度が高まっている研究所の近くまで移動していった。

 肌にまとわりつく空気が重い。


「斑鳩さんはもう、能力は発現してるのかな?」


 僕が問いかけると、ぱっと明るく答える。


「菖蒲と呼んでください! 妹もいるから紛らわしくなっちゃいます」

「え?」


 ……名前呼び?

 いや、ちょっと待って。

 初対面の女子相手に、それはハードルが高すぎる……。

 というか、僕、男子も女子も関係なく名字で呼んでるんだけど。

 あ、瑠璃先輩だけは例外だったか。


「どうしたんですか?」


 首を傾げるその顔が、陽の光を受けてやけにまぶしい。

 困惑している僕を、真っ直ぐに見つめている。


「あ、いや……そうだね。双子でどっちのことか分からなくなるかもしれないし。今後は行動を共にすることもあるだろうし」

「はいっ! 出雲崎先輩……あ、透真先輩は極級と聞いてます。色々と頼りにさせてください!」

「う、うん……わかった。で、菖蒲……ちゃんの能力だけど」

「そうでした! えっと、なんか摩擦の制御? らしいです。まだよく分かってないんですけど……」

「へえ、摩擦か。応用効きそうだね。面白そう」

「一日でも早く戦力になれるように、頑張ります!」


 本当に、いい子だ。

 明るくて前向きで、素直で。

 僕は思わず口元を緩めた。


「じゃ、菖蒲ちゃん、早速だけど——」


 そう言いかけた、その瞬間だった。

 背中に冷たい針が刺さるような感覚。

 ぞくっとして振り返ると、そこに立っていたのは——


 久遠寺さんだった。

 そして、その隣にいるのは……菖蒲ちゃんと瓜二つの少女。妹で間違いない。

 久遠寺さんは穏やかな微笑みを浮かべている。


「——菖蒲ちゃん?」


 その笑みを保ったまま、久遠寺さんが僕に声をかけてくる。

 声は柔らかいのに、空気の温度が下がった気がした。


「え? あ、ああ……斑鳩さんは双子だから、紛らわしいってことで……名前で呼ぶことにしたんだ」


 なぜか言い訳じみた口調になってしまう。


 一拍の沈黙。

 久遠寺さんは変わらぬ笑顔のまま、僕をじっと見つめていた。

 その笑顔が、『ふうん、なるほど?』とでも言っているようで、無言の圧が僕を圧し潰す。

 あれ? 久遠寺さん、能力使ってる?


「く、久遠寺さんも……ここでやるの?」


 僕の問いに、彼女はそのままの笑顔で答える代わりに、ひとつ首を傾げた。


「久遠寺さん?」

「——え?」


 ……ん?

 どういうこと?


 え? これは……ひょっとして


 いやいや、でも……。

 呼び方……変えろってこと?

 でも、急にそんな——


 だが、目の前の久遠寺さんは、優しげな笑顔を崩さず、じっとこちらを見ている。


 ……これは覚悟を決めるしかない。

 間違っていたら、めちゃくちゃ恥ずかしいけど——


「み、御影さんも……ここで、一緒にやる?」


 勇気を振り絞り、なんとか言葉にする。


 すると、その瞬間。

 周囲を満たしていた冷気が、ふっと消えた。

 春の空気が戻ってくる。


「ええ、一緒にやりましょう。透真君は極級だから、私たちと感覚が少しずれてるかもしれないし」

「そ、そうだね! ありがとう」


 ……どうやら、正解だったらしい。

 緊張がほどけ、思わず胸をなでおろす。


 だけど——


(え、これ、これからずっと御影さんって呼ばないとダメな感じ?)


 ふと、現実に引き戻される。

 周りの視線が急に気になり始める。

 突然呼び方を変えたのバレたら、祇園君たちに色々言われそうだな……。


 その時、久遠寺さんの隣にいる菖蒲ちゃんの妹——まだ、名前を知らない——がボソッと呟いた。


「なるほど……そういうことですね」


 そして、一人何かを納得したように頷いていた。


 ◆◆◆


「で、計画は順調なわけ? エネルギーはまだまだ足りてないみたいだけど」


 高級マンションの一室。

 重厚なソファに身を預けた絶夢が、グラスを揺らしながら問いかける。

 窓辺に立つ夜刀は、眼下に広がる街の灯を見下ろしていた。


「まぁ、順調ではあるけど。もう少しスピード感が欲しいところかもね」


 言いながら、夜刀がゆっくりと振り返る。

 緑の瞳が淡く揺れ、深い海の底のような冷たさを宿す。


「……もっと上から支配してみようか。私たちの存在感も十分に高まった」

「上って?」

「政治家とか、自衛隊とか。そういう連中の上の方。頂点から仕掛ければ、贄は加速度的に増えていく」

「でもさ、拠点がパンクするんじゃない? 捌ききれないでしょ」


 絶夢の指摘に、夜刀は小さく笑った。


「上の方ってのは、必要な資源も場所も──全部、好きに用意できるものさ」

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