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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
最終章 終焉の灯火

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第67話 帰還

「人がゴミのようだな」


 ビルの屋上から、下を見下ろす二つの影。

 赤く異様に肥大化した巨体の男と、長い黒髪をなびかせた若い女。

 凶星と絶夢――災厄の中心に位置する存在たち。


 眼下では、夜刀が改造を施した凶人たちが暴れ回り、異能師たちがそれを必死に食い止めていた。

 火の手はあちこちで上がり、建物の壁が部分的に崩れ、破片が路面に散らばる。

 道路にはひびが走り、倒れた標識や車両の残骸が転がっている。


「せっかく集めた信者どもを、こんな無駄遣いしていいのか?」


 凶星があくび混じりに尋ねる。


「無駄遣いじゃない。ちゃんと役に立ってるよ。それに大量処分しないと追いつかない位、信者は増えてるし」


 絶夢はまるでゴミの量でも語るかのよう。


「……ま、確かにな」


 凶星は小さく笑い、肩をすくめる。

 そして、目を細めた。


「ん?」


 視線の先に、何か違う気配を感じていた。


 ◆◆◆


 瓦礫が転がる路地で、凶人と異能師たちが激しくぶつかり合っていた。

 人間の形をかろうじて留めたその異形は、咆哮と共に突進し、電柱ごと相手を吹き飛ばす。

 攻撃を受けても怯むことなく、ただ破壊衝動のままに暴れ回る。

 異能師たちは、次々と地面に倒れていく。

 応援が来るまでの時間を稼ごうと、残された者たちが歯を食いしばって前に出る。

 戦況は膠着状態に突入していた。


 そんな中、ふらりと現れた一人の女。

 長身で、流れるような黒髪には、ところどころ白い束が混ざっている。


「お、おい! 危険だ! すぐに離れろ!」


 維持局の隊員が叫ぶが、その声に応える様子はない。

 女は足を止めることなく、戦場へと近づいていく。


「いや、たまたま通りかかっちゃったからさ。見過ごすわけにはいかんでしょ」


 軽く肩をすくめながら、そう言って歩みを進めた途端、戦場に漂っていた何かが、音もなく変質し始めた。

 鉄の匂いと煤の臭いが入り混じる中、彼女は静かに声を発する。


結合改変ヴォンド・オールタレイション


 崩れかけたビルの柱に触れていた鉄骨が、錆の進行を一気に促進されたように脆くなり、軋む音とともに継ぎ目から折れ落ちる。

 内部結合の崩壊によって自重に耐えきれず、斜めに崩れた鋼材が、下にいた凶人の頭上へと容赦なく落下すると、鈍い音とともに、その体を押し潰した。


 別の凶人が怒声を上げて突進してくる。

 だが、その皮膚表面が金属のように変質したかと思えば、関節部まで異常硬化し、屈伸が不能になる。

 制御できなくなった脚がもつれ、膝を砕いて崩れ落ちる。

 その直後、今度は逆に筋繊維の結合が緩みすぎて崩壊、身体は自身の重量に負けて溶けるように地に伏した。


 女は瓦礫の山へ視線を送り、足元の金属片に触れた。

 結合を強化したそれを蹴り上げると、破片は跳ねながら凶人の首を裂き、深々と突き刺さる。

 その刺さった骨はガラスのように変質し、砕けた。


 残った個体が逃げ出そうとした矢先、足元の舗装材が化学的強度を著しく増され、硬化した路面が凶人の足を拘束する。

 すぐさま女はその足の筋を構成するタンパク質の結合を断ち、ねじ切る。

 凶人は叫ぶ暇もなく体勢が崩れ、地に倒れ込む。


 最後に残った一体の凶人の胸に突き立ったのは、地面から拾い上げた鋼と破片を結合強化した即席の杭だった。

 地面に固定されたまま形成され、ただの槍とは思えぬ貫通力で心臓を穿ち、動きを止める。


 静寂が戻ったときには、十を超える凶人の姿は全て地に伏していた。

 そこに残っていたのは、砕けた金属、腐敗の始まった肉、異様に硬化した石材の断片が混ざり合った、奇怪な残骸の山。

 そして、化学的に変質した血液のような痕跡が黒く地面を染めていた。


 居合わせた異能師たちが茫然と立ち尽くす中、女はその視線を受け取ることもなく歩を進める。


 ——そして、足を止めた。


 目の前に立ちふさがったのは、赤い巨体。

 ただ大きいだけではない。

 筋骨隆々としたその体は、まるで全身が鎧で覆われているかのような異様な圧迫感を放っていた。

 Tシャツの隙間からむき出しの皮膚はひび割れ、裂け目からは赤い光が脈打つようにちらついている。


「お前、なかなか面白そうだな。名前は?」


 これまでの凶人とは明らかに異なる。

 女は口元を引き締めながら応じる。


「……糸月小夜」

「そうか、俺は凶星だ。ずっと退屈してたんでな。ちょっと遊んでくれよ」


 紅蓮の瞳が笑いながら、ぎらりと光を強める。


「断るって言ったら?」

「そんな選択肢はねぇよ」


 その言葉とともに、凶星の足元から地面がひび割れる。

 周囲の空気圧が異様に高まり、黒と赤が交じるような波動が彼の全身から漏れ始める。

 それは重力波のように地面を叩き、近くの瓦礫は一瞬浮き上がり——すぐに落ちた。


 糸月は一度、息を吐いた。

 そして、真っ直ぐにその巨体を見据える。

 左目に赤い光が宿る。


結合改変ヴォンド・オールタレイション


 路面の構造物から放たれた波動が、一定範囲の分子結合へと干渉していく。

 錆びた金属片が自壊を始め、外力に耐えきれず音を立てて崩れていく。


「いいじゃねぇか! 続けろ!」


 だが次の瞬間、凶星の身からにじみ出た黒煙のような波動が、糸月の操作下にあった金属片や破片の表面を覆い始める。 

 結合操作を受けた物質が、不規則にゆがみ、そのまま機能を喪失して崩れる。


 糸月は眉を寄せながら、舌打ちに似た息を吐いた。


「本気で能力使ったら、あたしの寿命が縮まるんだけどな……どうやって責任取ってくれるんだよ?」

「ハッ! 今を最高に楽しい時間にすればいいだけの話だろ?」

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