表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/74

第56話 極級異能師の光と影③

 嵯峨野はすべてを一点に集中させた。

 指先から、腕から、胸の奥深くから、力を絞り出す。

 極限まで高められた異能の発動。

 意識のすべてを、ただ次の一閃に注ぎ込む。


空間断裂ヴォイド・カッター


 ——世界が微かに軋む音がした。


 次の瞬間、空間が大きく裂けた。

 目に見えぬ刃が、夜を、氷を、世界を、真っ直ぐに斬り裂く。

 空気が震え、氷原に巨大な亀裂が走った。


 同時に、嵯峨野の心臓がドクンと。

 胸を突き破るかのような脈動。

 血液が無理やり押し出され、意識が霞む。

 夜刀から受けた呪いが、容赦なくその命を削り取った。


 だが止まらない。


 氷壁が砕ける。

 何重にも折り重なっていた白神の防御が、次々と破壊されていく。

 無数の氷片が宙を舞い、月光に煌めいた。


「——マジかよ!?」


 白神が動く。

 即座に次の氷壁を再生しようとする。

 だが、その速度すら、嵯峨野の断裂には追いつかない。


 今この瞬間だけは、断裂が支配する。


 嵯峨野はさらに踏み込んだ。

 自らの命を削りながら、再び空間を断つ。

 細胞が悲鳴を上げ、筋肉が引き攣る。

 心臓は、脈打つごとに身体を内側から叩き壊した。


 視界が揺れる。

 だが、前を見据える。

 白神はまだ、立っている。


「うおおおおお!!」


 嵯峨野の胸の奥から、爆ぜるような声が迸った。

 押し殺してきた感情を、力に変えるかのように。

 普段は冷静な嵯峨野が、魂を震わせる咆哮を上げる。


 凍てつく地面を踏みしめ、猛然と加速した。

 氷の上を滑るように、弾くように、ただ白神へと向かう。

 それは理性ではない。

 意志だけが、彼を突き動かしていた。


 再び空間を断つ。


 一撃。

 さらにもう一撃。


 氷が応える間もなく、嵯峨野は白神との距離を詰めた。

 至近距離へと。

 数メートルまで。


 だが、白神もなお抗った。

 膝をつきかけた身体を、片膝で強引に支えながら、歯を食いしばり、異能を絞りだす。


 新たな氷壁が生まれる。

 白神の意志を宿したかのように、氷の壁は必死に嵯峨野の断撃を食い止めにかかる。


 それでも、嵯峨野は止まらない。

 断裂の刃が、氷の絶叫を容赦なく切り裂いていく。

 空間ごと叩き割り、なお前へ。

 嵯峨野は、文字通り空間ごと薙いだ。

 白神が全力で生み出した氷槍は、断裂によって寸断される。

 残った破片が頬をかすめたが、気にする余裕はない。


 ドクン。

 心臓が、また激しく波打った。

 胸の奥から、熱いものがせり上がる。

 口から、鮮血が溢れた。

 吐き出した血をそのままに、一歩を踏み出す。


 痛みが意識を焼く。

 全身が悲鳴を上げ、内臓が軋み、骨が軋む。

 それでも、踏み出すたびに命が削れていく感覚を、ただ受け入れる。


 前へ。

 ただ、前へ。

 血を吐こうが、肉が裂けようが、この一歩だけは止めない。


 嵯峨野は、滲む視界の中で白神を捉え、なお前進した。

 空間を断ち続けた。

 自身の限界を、力で、意志で、押し越えていく。


 そして、白神との距離が、ついに一歩分だけ縮まった。

 嵯峨野は右手を引き、全身を捻る。

 一瞬の溜め。


 次の刹那、人生最大の断撃を叩き込んだ。


空間断裂ヴォイド・カッター!!!」


 白神の防御は間に合わなかった。

 氷の盾も、槍も、再生する暇すら与えられない。

 断裂は直線に伸び、白神の身体をかすめた。


 月明かりの下、白神の外套が裂ける。

 氷も、空気も、白神自身すらも、断ち切られる。


 ――まだ終わりではない。

 終るわけにはいかない。


氷結制御アブソリュート・ゼロ


 だが、白神の異能は発動しなかった。

 呼び寄せたはずの氷結は、もはや応えない。

 虚空に手を伸ばしながら、白神は地面に倒れこむ。


 次の瞬間——


 白神の身体に、ゆっくりと断裂の線が走った。

 肩から腹部へ、斜めに。

 静かに、しかし確実にその身体を赤く染めていく。

 その肉体は、世界の理を拒まれるかのように、音もなく分断されていく。


 氷結の気配が、月光の中で弾け飛んだ。

 氷の世界を支配していた白神の異能が、断裂の中で崩れ落ちる。


 氷の城塞は崩壊し、夜空に白い破片を撒き散らした。


 嵯峨野は、命を削りながらも立ち尽くしていた。

 肩で息をしながら、血の滲む右腕をだらりと下げる。

 心臓の鼓動は、すでに痛みを超えて、鈍い音だけを響かせていた。


 月が静かに、二人を照らしていた。

 戦いの終わりを告げるように、夜風が微かに吹いた。


 白神の瞳から、ゆっくりと光が失われていった。

 口元から血を滲ませ、虚空へと手を伸ばす。


「ちくしょう……人間を辞めても……お前には勝てねぇのかよ」


 そう、かすれた声で呟いた。

 その手は、何かを掴もうとするかのように、空を彷徨う。


「俺はただ……この力の……先を見て……」


 言葉が途切れる。

 伸ばされた腕は、ついに力を失い、氷の溶け始めた地面へと落ちた。

 乾いた音が、夜の静寂に溶けた。


 嵯峨野は何も言わなかった。

 ただ静かに、白神の見開かれた瞳を閉じる。

 その手には、怒りも憐れみもなかった。

 ただ、静かに何かを認めるような仕草だけがあった。


 ふと、独り言のように漏れる。


「俺の命も大分持ってかれちまったよ……」


 それは、追い続けた背中に、確かに迫った者だけが受け取れる言葉だった。

 あるいは、届いていたかもしれない。


 月は、何も語らず、ただ冷たい光を降らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ