第52話 爆炎の王、配信される
『はいどうも〜、こんばんは! KAZUでーす! いつも見てくれてありがとね! 今日はね、ちょっとマジでヤバいやつ、行っちゃいますよ』
いつもよりテンション高めに始まった人気YouTuber・KAZUのライブ配信。
登録者数200万人オーバー、軽口と度胸で売っている男が、今夜はとある場所に乗り込もうとしていた。
『フォロワーさんからのタレコミ入りました! 今俺がいるのは、はいこちら、見てください――ここが噂の廃ビルです!』
カメラが暗がりにそびえるコンクリの建物をとらえる。
『ここ、マジで今話題のあの凶人のアジトって噂でして。住民の皆さん、夜出歩けないらしいっす。てか、そりゃ怖いっしょ……でも! 俺は行きますよ?』
ふざけたような笑顔で、しかし足取りは慎重に、廃ビルのほうへと近づいていく。
『うわっ、もうここで空気が違うってこれ……やべぇな。マジで一歩ごとに心拍数バグってる。でも! みんなにリアル届けたいんで! 限界まで近づきます!』
ライブのコメント欄には「気をつけて!」「ガチでやばい場所じゃん」などが流れていく中、KAZUはカメラを構え直し、さらに足を踏み入れた。
『あ、ちょっと待って……来た、来た来た来た! 車止まったよ!』
画面にヘッドライトの光が映り込む。
『二人降りた……映ってる? 映ってるよね? ちょ、これマジでヤバいやつじゃん……え? これ、まさか、噂の凶人たち? ……あ、入ってった! 中、入ってった!』
その瞬間、カメラは廃ビルの入口に向けられたまま、無音になる。
画面にはただ、ビルの入り口の暗がりだけが映されている。
『え、ちょっと待ってどうする!? え? 突撃? いやいやいや、バカでしょ!? マジでヤベーって! ……でもまあ、もうちょいだけ、ね? 様子見ってことで』
ビルの影へとじわじわと歩み寄るKAZU。
ライブのコメントは「行け!」「やめとけ!」「KAZU死ぬなw」と盛り上がっていく。
『……って、うわ、何だコレ!?』
カメラがビルの外壁をズームインする。
そこに映し出されたのは――夜の闇にもはっきりわかる、うねる蔦。
建物の外壁を這い回るように、いや、生き物のように、蔦がゆっくりと脈打ちながら動いている。
『え、見えてるよねこれ!? 合成じゃないから! 今ライブ!! リアルタイム!! やば、動いてんじゃん!! これ、凶人の能力とかじゃね……!?』
その瞬間――
バンッ!!
ビルの上層階の窓ガラスが内側から破裂し、煙と閃光が吹き出した。
『うおおっ!? キターーーー!! 中で何か始まってんぞこれ!』
ゴォォォォォ……!!
鈍く重たい音とともに、ビルの内部から業火が噴き出す。
窓の隙間から炎が跳ね、焼ける蔦が苦しげにのたうち回る。
『ちょ!! 火事!! マジで燃えてるって!!』
次の瞬間、ビルの側面に巨大な焦げ跡が現れ、その中心が爆ぜるように崩れた。
『おいおい、さっき入ってった二人が凶人と戦ってるの!? ちょ、やばい、やばい、これマジで死ぬレベル!! でもカメラは回し続けるからな! 絶対に見逃すなよ!! これは、伝説になるぞ!!!』
ひび割れた外壁の隙間から、黒く焼け焦げた蔦が垂れ下がる。
その背後で、閃光が一閃。爆音と熱風が周囲を揺らしたのち、まるで何もなかったかのように、音がすっと引いていった。
『……あ、静かになりました。終わったのかな?』
燃え残る煙を映しながら、KAZUの声にわずかに安堵の色が混じる。
『てか、俺の心拍数がえぐいって。Apple Watch警告出そうなんだけど。いやマジで怖かった……』
一息ついたように見えたその時、コメント欄に勢いを増す視聴者の声。
「中、確認しろ!」「突撃いけ!!」「今しかない!」
『……は? 中に入れって? バカかよ!? 無理無理無理、行けるわけねーだろ!?』
だがその瞬間、KAZUの声が途切れる。
カメラのフレームに、ゆらりと揺れる熱気の向こう――ビルの入口から、ゆっくりと二つの人影が現れた。
『……あ!! あれ! さっきの人たちじゃん!! てことは、これ……討伐完了ってやつじゃない!? 凶人、やっつけたんだろ!? え、待って、異能師!? 本物の異能師さんじゃないの!?』
テンション急上昇。
『よし! これは行くしかないっしょ!! 突撃しまーす!!』
ライブ配信のコメントは歓声と爆笑で埋まり、KAZUはビルに向かって走り出した――。
◆◆◆
嵯峨野さんと共に、僕は静かにビルのエントランスへと降りていく。
いつもの凶の討伐任務とは空気が違う。
今日は——違う。
誰かの命が、本当に背負われていた。
その重さを、僕は黙って噛みしめる。
嵯峨野さんは何も言わない。
ただ僕の肩を一度だけ、ぽん、と叩いた。
それだけで、少しだけ胸が軽くなった気がした。
ビルの扉を開ける。
一歩、外へ出る。
——眩しい。
「うわ……なに……?」
視界の隅で何かが光る。
強い明かりが目を刺し、思わず目を細めた。
気づけば、目の前にはチャラそうな男。
髪はやや茶色がかっていて、服装はカジュアル。スマホと小型マイクを持って、まっすぐこちらに向かってきた。
「すいませーん!! お兄さんたち、異能師っすよね!?」
満面の笑み。
何の遠慮もなく、グイグイ話しかけてくる。
「このビル、ヤバい凶人のアジトって噂で俺来たんですけど。で、さっきドッカーン!って爆発あって、アレやったの、お兄さんたちっすよね!? 取材! 取材させて!」
面倒くさそうに、嵯峨野さんが言う。
「ああ、やったのはこいつ。詳しくは本人に聞いて」
「えっ……ちょ、ま……」
あまりに雑なパスに、僕の声が裏返る。
「マジっすか!? ヤッバ! お兄さん、あの爆発起こした張本人!? エグすぎでしょ!? てか氷室さんとかより強いんすか!?」
「え……あの……えっと……その……」
いきなりの展開に脳が追いつかない。
口がもつれ、言葉が出ない。
あわあわしてる間にも、スマホカメラは僕の顔を捉えたまま。
どうにかその場をしのいで、僕は助手席に滑り込む。
ドアが閉まる音が、救いのように響いた。
——そして、あっという間に拡散された。
『素で強すぎる異能師、インタビューでしどろもどろw』
『爆炎の異能師、爆誕』
『口下手なのに強すぎてギャップがエグい』
『ヘタレ主人公感ヤバい』
SNSは大盛り上がり。
拡散され、タグが勝手に生まれていくのであった。
#爆炎の王
#喋るより燃やすタイプ
#口数少なめ好感度多め




