表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/74

第51話 極級異能師としての覚悟②

 電気もついていない。

 くぐりはこうした場所を好んで巣食うというが、凶人きょうじんも同じなのだろうか。


 階段を一段ずつ上がるたびに、暗闇に目が慣れてくる。

 どこかに残された生活の痕跡のような、湿った空気が肌にまとわりつく。


 踊り場には、潰れたペットボトル、食べ終えた弁当の空き箱、破れたビニール袋。

 足元から積もった淀みが、じわじわと精神に染み込んでくる。


 そして──


 階上から、人の声がした。

 くぐもった話し声に、時折まじる笑い声。

 楽しそうに聞こえるのに、階段の空気が少し冷たくなった気がした。


 音の気配を追うように階段を上がっていくと、やがて一つ上の階で足が止まった。


「何だ、お前ら? 勝手に入ってきやがって」


 目の前に現れたのは、二人の若い男。

 年の頃は二十歳前後。着ているものも話し方も、特に目立つところはない。

 けれど、こちらを見つめる目だけが異様に乾いていて、そこに何故か人間らしさが感じられなかった。


「好き勝手に暴れてるようだな。処理する前に、いくつか確認しておきたい」


 嵯峨野さんは一歩前に出て、表情ひとつ変えず、ただ静かに問いかける。


「お前らは何だ? どうしてそうなったのか、自覚はあるか?」

「は? 知らねぇよ。気づいたら公園で目が覚めて、こうなってた。お前もなりたいってか? 気持ちいいぞ~? 異能を持たねぇカスどもが、ゴミみたいに見えてくる」


 もう一人の男が、ぬるりと笑いながら口を開く。


「あ、そういえば俺、最近変な夢見たんだよ。すげーリアルなやつ。研究所みたいな場所で注射打たれて、カプセルに詰め込まれてんの。白髪まじりのメガネのおっさんが、ずっと上から覗いててさ。……あれだよ、宇宙人が人体実験して記憶消して戻す、みたいなやつあるじゃん? ひょっとしたらそれかも」

「うっわ、なにそれ。きめ~っ!」


 二人は顔を見合わせて、ゲラゲラと笑い出す。

 その笑いは底のない空洞みたいで、何かが欠けたまま響いていた。


 そして、一人が声を上げた。


「あ! 来ちゃったわ、俺。こいつらぶっ殺したい!」


 言葉と同時に、その男の肌がじわりと赤く染まり始める。

 血管が浮き、目の奥に火でも灯ったような光が射す。

 笑みはそのまま、だが顔のどこかがずれているような錯覚。


「マジで? 俺はまだ来ねぇわ」


 もう一人の男はつまらなそうに頭をかいた。


「やっちゃっていい?」

「ああ、いいよ。やっちゃって」


 僕の頭は展開の速さについていけてない。


 ――男が壁に手をつくと、床の隙間から音もなく蔦が這い出した。


「死ねぇ!!!」


 その一言と同時に、ビルの壁を覆っていた蔦が怒声のように唸り、四方八方から襲いかかってくる。

 足元から伸びた蔦が蛇のように蠢き、瞬く間に空間を満たす。

 コンクリートの割れ目を割って、太い根が地面を突き破り、槍のように突き出された。


 廊下が、一瞬で緑に呑まれていく。

 まるでビルそのものが呼吸を始めたような、生き物めいた動きだった。


空間断裂ヴォイド・カッター


 嵯峨野さんが静かに呟く。

 襲いかかる緑が宙に浮いたまま裂けていく。

 太い蔦も、絡みつこうとする枝葉も、瞬きの間に細切れになり、月明かりの中を静かに舞う。


「……は?」


 男はその場に立ち尽くした。

 目の奥に浮かぶのは、理解の及ばない現象に対する呆然。

 だが、その顔はすでに人のそれではなかった。頭蓋の輪郭は崩れ、眼や鼻は異様な角度で歪んでいる。


「……完全に化物だぞ、お前。気付いてないのか?」

「うるせえ! 俺は神だ!!」


 怒声と同時に、男は壁に手を叩きつける。

 建物全体が軋む音を立て、外壁の蔦が一斉に蠢き始めた。

 床のひび割れからも蔦が噴き出し、刃のような根が一直線に嵯峨野さんを貫こうと襲いかかる。


 だがその攻撃も──


空間断裂ヴォイド・カッター


 再び短く響いた声とともに、蔦が分断される。

 無数の緑が空中で寸断され、落ち葉のようにバラバラと床に散った。

 嵯峨野さんは一歩も動かず、ただ目の前の異形を見据えていた。


「局で把握してるだけでも、お前らの犠牲になった人間は十名。実際はもっといるだろう」


 嵯峨野さんの声は変わらない。静かで、冷ややかだった。


「ハッ、知るかよそんなもん!」


 男は口を裂けるように開き、笑った。

 頬が引きつり、歪んだ眼球がぎらついている。


「殺す瞬間な? 脳が沸騰すんだよ。頭真っ白になってさ――あれ、マジで快感だぜ? 女とヤるよりずっとイケる」


 その顔には、後悔も罪悪もない。

 あるのは、快楽に濡れた獣の目と、己の欲望に溺れる狂人——いや、凶人の声。


 もはや人の形をしていても、その中身は異形だった。

 肉体は崩れかけ、精神は破綻している。人間という枠組みは、とうに壊れていた。


「……出雲崎。もう分かっただろ?」


 嵯峨野さんは振り返らずに言った。声は静かだが、怒りが滲んでいる。


「はい」

「恐らく、こいつらもまた被害者だ。可哀想だがもう人間には戻れない……楽にしてやれ」

「え?」

「いや、お前は気にする必要はない。やるべきことも分かってるはずだ。任せたぞ」


 そう言うと、嵯峨野さんは背を向け、階段へと向かっていった。

 一段ずつ踏みしめるように、重い足音を残して下へ降りていく。


「……あ? おい、どこ行く気だよ。てめぇ、逃げんのか?」


 異形の凶人が顔を歪めて怒鳴る。

 視線は嵯峨野さんに向けたまま。

 抑えきれない苛立ちが声ににじむ。


「逃がすかよ、この野郎!」

「あ、俺も来たわ」


 吠えるような声とともに、男が床を蹴る。

 もう一人の男の顔も目が血走り、変形し、歪んでいく。


核熱爆散スーパーノヴァ


 僕は床に手を置いた。

 足元のコンクリートがじりじりと赤熱し、乾いた音を立ててひび割れていく。

 床材、残っていたゴミ、古びたビニール片、埃に混じった紙片が次々と発火し、フロアに炎が走る。


 炎は、壁際の電線の皮膜に燃え移り、一気に光と熱を放つ。

 その熱に反応するように、ビルの内壁を這っていた蔦がぱちぱちと音を立てる。

 葉は丸まり、茎はひび割れ、やがて黒くねじれて崩れ落ちた。

 乾いた蔓は導火線のように火を運び、天井の隙間にまで炎が駆け上がっていく。


 燃焼は瞬く間に広がり、あたりは灼熱の渦と化した。


 凶人の二人は逃げる間もない。

 僕に向かって襲いかかろうとしたその一歩、その瞬間に全身を炎に包まれる。


 皮膚が弾ける。

 叫ぶ口も、潰れた目も、すぐに熱に溶ける。

 やがて輪郭を失い、立っていた場所に焦げ跡だけを残して、消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ