表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/74

第50話 極級異能師としての覚悟①

 8月28日。


 夏休み——僕は実家に帰っていた。

 とはいえ、のんびりしていられる日ばかりでは当然なかった。時々呼び出しがあり、出動もしている。

 それでも基本的には、冷房のきいた部屋でごろごろして、だらっと過ごす時間の方が多かった。


 久遠寺さんも一緒に戻ってきていたけど、挨拶回りで忙しいらしく、会っていない。

 政治家の家族って、大変なんだな。


 などと考えていたら、スマホに着信が入る。


 小値賀先生だった。

 いつもより少し緊張を帯びた声。


「今から学校に来い」

「また出動ですか?」

「そうなる。が──今回はいつもとはちょっと違う。詳しくは学校で説明する」


 それだけ言い残して、通話は切れた。


 ◆◆◆


 電車に揺られて、学校に到着する。

 日はすでに高く昇っていて、駅からの道のりだけで汗が滲む。

 うだるような暑さに顔をしかめながら、校舎の中へ足を運んだ。


 職員室に入ると、小値賀先生と談笑している見慣れた姿があった。


 嵯峨野さん。

 何だかんだで、直接会うのは久しぶりだ。

 相変わらず、影のような雰囲気をまとっている。


「お、来たか」


 小値賀先生が僕に気づき、軽く手招きする。


「嵯峨野さん、お久しぶりです」

「おう、久しぶりだな。どうだ、異能の制御は? もう完璧か?」

「完璧というほどではないですが、ぼちぼちですかね……」


 そんなやり取りを終えると、小値賀先生が本題に入る。


「今回の任務は、嵯峨野とお前のコンビだ」

「え? 僕と嵯峨野さんですか?」


 嵯峨野さんと一緒に現場へ出たことは、これまで一度もない。

 極級が二人揃って出動するなんて、かなり異例の事態に思える。


「そうだ。──で、任務の内容だが……お前、凶人は知ってるよな?」

「あ、はい。最近話題になってる。人間のような、凶のような何か……とか」


 僕はテレビやSNSで断片的に映し出された映像を思い浮かべる。


「あれは人間だ。いや──元・人間と言った方がいいか」


 嵯峨野さんが言う。


「え? そうなんですか?」

「仕組みはよく分かってないが、異能の暴走と関係してるのは間違いなさそうだ」


 扇風機の風が背後で回っている。

 僕は、ふと疑問に気づく。


「……あれ? ちょっと待ってください」

「何だ?」

「今回の討伐対象って、凶人なんですか?」

「……そうだ」

「彼らって、人間──じゃないんですか?」


 それに答えたのは、嵯峨野さんだった。


「さっきも言ったが、元・人間だ」


 元・人間。

 元も何も、人間なんじゃないのか?

 その言葉の意味が、どうにも引っかかる。


「重い案件なのは分かってる。正直、お前にはまだ早いと思ってる」


 小値賀先生の声は、どこか苦しげだった。


「だがな。今回、お前を指名したのは俺でも維持局の上でもない。嵯峨野だ」

「え……嵯峨野さんが?」


 思わず嵯峨野さんに視線を向ける。


「氷室さんや諏訪さんでも、能力的には問題ない。けど、今回はお前と行くことにした」

「な……何でですか?」


 僕の問いに、嵯峨野さんはまっすぐ答えた。


「極級異能師として、越えるべき壁は能力だけじゃない。これから先、お前はその壁をいくつも乗り越えていくことになる。──俺たちの仕事は、どこかで必ず終わりが来る。それがいつかは分からない。今、極級異能師は俺とお前の二人だけだ。もし俺が倒れたら、お前がこの役目を継ぐことになる。まだ見習いだからなんて甘えは、もう許されない」


 その声は炎のように、だけど静かで、真っ直ぐだった。

 重く、真っ直ぐで、逃げ道のない責任がそこにあった。


「……分かりました」


 僕は、腹を括るしかなかった。


 ◆◆◆


 夕方になり、僕と嵯峨野さんは学校を出発した。

 助手席に座る僕の横で、ハンドルを握る嵯峨野さん。

 車内には一言も会話がなかった。

 蝉の声も届かない密閉された空間に、重たい沈黙だけが満ちている。


 窓の外では、街が少しずつ色を失っていく。

 熱気を残したまま、空は静かに暮れていった。


 目的地は、閑静な住宅街のはずれにひっそりと建っていた。

 蔦が這うひび割れた外壁。時が止まったような古びたビル。

 別の異能師によって割り出された、凶人の潜伏場所だ。


 現場に到着し、車を降りる。

 辺りはすっかり暗くなっていて、街灯がぽつぽつと歩道を照らしている。

 遠くの住宅から漏れる明かりや、自動販売機の青白い光が、静まり返った道に浮かんでいた。

 見上げれば、雲の切れ間から月が顔を出し、雑居ビルの輪郭をぼんやり照らしている。

 時間は、夜の八時を少し回ったところだ。


 風はなく、空気はやけに澄んでいた。


「……不気味なほど静かですね。それに瘴気もあまり感じないというか」

「ま、人間ではなくなったからといって凶になったわけじゃない。どうなってるのかは見て判断するしかないな」

「でも、何かがいる気配は感じます」

「ふっ……お前もプロっぽくなってきたな」


 そう言って嵯峨野さんはニヤリと笑みを見せると、淡々とビルの中へ歩みを進めた。

 僕も急いでその後ろに続く。

 曇ったガラスの向こうに、淀んだ空気が広がっているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ