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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

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第48話 お出かけ

 7月15日。


(どうしてこうなった。)


 御影は心の中でぼやいていた。


 週の半ば、水曜日の昼休み。

 透真のスニーカーのかかとが、破れているのに気づいたのが始まりだった。

 それを伝えると、本人は気づいてはいたけれど、店に行くのが億劫だと言う。

 昔よりずっとマシになったとはいえ、透真の人見知りはやはり根強い。


「だったら、私が一緒に行ってあげるよ」


 あくまで軽く。さりげなく。

 でも内心は、断られたらしばらく立ち直れないくらい、勇気を振り絞った提案だった。


「え? 本当に!?」


 透真が、ぱっと笑った。

 その顔を見た瞬間、安堵とともに、胸がふわりと温かくなる。


「じゃ、週末行こ! ついでに服とかも一緒に買わない?」

「あ、そうだね。服とかも色々買わなきゃと思ってたんだけど、靴よりハードル高くて」


 ここまでは順調だった。


 ここまでは——。


「おっ、街行くんか? ちょうどええ。ワシも週末行く予定やってん。みんなで行った方が、絶対楽しいやろ?」


 聞き慣れた関西弁が、空気の中に割り込んできた。


「え?」


 御影は、笑顔のまま固まった。


「なあ、東雲! お前も行くやろ? 前に服欲しいって言うてたやんか」

「あ、ああ……まぁ、そうだけど……」


 東雲は、御影の横顔をちらりと見た。

 彼女の表情に浮かぶ、微かな動揺と、言葉にならない落胆。

 全て、察していた。


 しかし、そこへさらに。

 控えめに本を抱えた眼鏡の少女まで参戦する。


「えっっっ御影さまと!? 同行!? 週末!? 私服で!? いや無理無理無理無理まってそれリアルイベント!? 何その夢みたいな予定!? どこ発? 何時集合!? 御影さまが先導!? 聖域確定!? ちょ、私、服、足りてない、いやそれ以前に礼儀として最低限の準備を……同行リスト、歩行距離、想定滞在時間、優先順位リスト、組む! 今組む!! てかこれ神イベすぎて体温上がって指震えてるんですけど!? わたし今息してる!? してないよね!? あ、でも失神だけは絶対ダメ絶対、迷惑かけるのは最悪だからそのためにはまず水分補給して睡眠とって心拍数コントロールして……いやほんと、御影さまとまた街を歩ける未来が来るなんて、なんかもう現実感が処理できないんですけど……!!!」


 御影は、ゆっくりと視線を伏せた。

 その横で、透真がぽそっとつぶやく。


「なんか……にぎやかになっちゃったね」


 ◆◆◆


 集合場所は駅だった。


 二人きりじゃなくなった――それは心の底から残念だった。

 だからと言って気を抜く理由にはならない。


 透真と並んで歩く、その一点は何も変わっていない。

 鏡の前に立ち、何度もコーディネートを組み直す。

 派手すぎないか、でも地味すぎないか。

 浮かないように、でも埋もれないように。


 夏の陽射しがアスファルトを照らし、蝉の声が遠くから響いていた。

 駅前の広場にざわめきが漂う中、御影が姿を現したその瞬間——


 周囲の視線が、吸い寄せられるように彼女に集まった。

 立ち止まる人、振り返る人、目を見張る人。


 ただでさえ、誰もが振り返るほどの美貌を持つ御影。

 その彼女が本気でお洒落をして現れた瞬間、もはや芸能人でさえも比較にならなかった。


 目を奪われた人々が足を止め、通りすがりの高校生が小声で「今の誰……?」とささやく。

 男女問わず、二度見、三度見、遠くから見返す者までいた。


 先に到着していた仙崎はその場にいた全員に言いたかった。

 いや、叫びたかった。


『ちょっと!? 視線集中しすぎだから!! ここ展示会じゃないですから!!』


 ◆◆◆


 何だかんだで、五人で回るショッピングも楽しかった。

 透真も、どこか満足そうな顔で手提げ袋をぶら下げている。

 新しい靴に、Tシャツ、さらっと羽織れる秋用のアウターまで。

 気づけば結構な買い物になっていた。


 これから先、二人で出かけるチャンスなんて、いくらでもある。

 そう思いながら歩いていたそのとき、御影はふと気づいた。


「……あれ? みんなどこ行ったのかしら?」


 隣を歩く透真に目を向ける。


「え? あれ? どこ行ったんだろ?」


 透真も周囲を見回す。けれど、祇園たちの姿は見えなかった。


 ——それは、東雲の緻密な段取りによるものだった。


 最適なタイミングで視線を逸らし、会話を分断し、流れをずらす。

 自然な導線で祇園と仙崎を別方向へ誘導し、御影と透真を取り残す。

 今日一日、誰より気を張っていたのは、実はこの東雲だったが――そのことを知る者は誰もいない。


「どうしよう、探しに行こうか? あ、LINEすればいいか」


 御影がスマホに手を伸ばしかけた、そのとき。


「あ、別にいいんじゃない? 歩き疲れちゃったし、そこのスタバで少し休もうよ。喉渇いたから、久遠寺さんお勧めのドリンクがまた飲みたい」


 透真の声が、ほんの少し弾んでいた。

 その言葉に、御影の胸の奥がふわっと跳ねた。


 彼も、同じ気持ちでいてくれた。

 それが嬉しくて、思わず声が軽くなる。


「そうだね! そうしよっか」


 二人で歩く午後。

 蝉の声は少し遠ざかり、陽射しもやわらかくなっていた。

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