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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

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第40話 市街戦①

 5月22日。


 テレビのニュースが流れる。


「今朝早く、東京都の郊外に位置する住宅地域で、凶度3とみられる複数の異形が確認されました。現場では街路樹や庭木が一斉に枯れ落ち、周辺住民の一部が幻覚や神経麻痺のような症状を訴えて病院に搬送されています。」


 画面には、静かな住宅街の映像。道路の一角が黒く染まり、まるで影が滲むように広がっている。


「また、現地では通信障害や電子機器の誤作動が多数報告されており、被害が拡大する可能性も否定できません。専門家の見解によれば、影を使った高速移動や再生能力を備えている凶度3の特徴と一致しており、現場付近はすでに一部封鎖された模様です。国家安全維持局は、被害状況と異能師の投入について現在対応を協議中とのことで、さらなる情報が入り次第お伝えします」


 ——このような凶度3の複数出現は、全国各地で相次いでいた。

 新たに現場へと投入した三百人の業務委託異能師もようやく、くぐり討伐のコツのようなものを掴み始めており、単独では厳しいが、連携によって凶度3を制圧した事例も、徐々に報告されつつある。


 だが、それでも人手は決定的に足りなかった。


 ◆◆◆


「お前ら、今朝のニュース見たか? 近くで凶度3が複数出現して、住民が避難してる」


 二年生の担任、小値賀おぢかが朝のHRで教室に入るなりそう言った。

 低く通る声に、教室の空気が一瞬だけ引き締まる。


「で、維持局は手が足りなくて、こっちまで派遣する余力が無い。……ということで――」


 短く刈り込まれた頭をガシガシと掻きながら、小値賀は続けた。


「お前たちの出番だ。久遠寺と祇園、あと宇都宮と紀。現場指揮は俺。一乗谷たちも来る」


 そして、ため息混じりに最後の一言を付け足す。


「……なんでこういう時に限って、出雲崎は風邪引いて寝込むかな」


 ◆◆◆


 校門で待機していたスクールバスに乗り込むのは、総勢十二名。

 全員が上級以上の異能師――それだけで、今回の任務がどれほど危険なものかが伝わる。


「今回のボーナス、めっちゃ期待してええんやろな?」


 祇園がニヤニヤしながら、小値賀に身を乗り出して尋ねる。


「まあ、人数が多いからそこまで期待されても困るが……三桁近くはいくはずだ」

「ホンマに!? よっしゃ、張り切っていくで!!」


 空気を読まずに、勢いよく右手を突き上げる祇園。

 周囲の数人が苦笑しながら、肩をすくめる。


「凶度3が複数と聞きましたが、正確な数は分かってないんですよね?」


 御影が静かに問い直す。

 その表情からは、すでに戦闘モードに入っているのが分かる。


「ああ。現場の痕跡から推定で三体、もしくはそれ以上。正確な数はまだ掴めていない」

「……私たちだけで大丈夫でしょうか?」


 御影の問いに、小値賀はしばし黙ってから答える。


「……安全が最優先だ。くれぐれも深追いだけはするなよ」


 その言葉を境に、車内の空気が一気に引き締まる。


「あ、あんまりビビらせるようなこと言わんといてや……。せっかく空元気だしとんのに……」

「大丈夫だ。入学式の時に俺が言ったこと、忘れたか? 俺が全力で守るって」

「フラグにならんように気をつけてや……」

「おい!!」


 小さな笑いが車内を包み、一瞬だけ張り詰めた空気が和らいだ。


 バスはエンジン音を響かせながら、静かに出発する。


 ◆◆◆


 スクールバスが住宅街の外れに滑り込むと、すでに現場は規制線で封鎖されていた。

 街路樹は根元から枯れ、道路の一角には黒い染みのような影が広がっている。

 あたりには人の気配はなく、住民はすでに全員避難済みとのことだった。

 異様な静けさが辺りを包み、息を飲むような空気が張り詰めている。


「久遠寺さん、何があっても僕が君を守るから、安心して欲しい」


 宇都宮は御影の横に並ぶと、やや強張った笑顔を浮かべながらも、低く響くイケボイスでささやいた。


 しかし――


「……ありがとう。私は大丈夫だから、他の人を守ってあげて」


 御影はそのまま一歩スッと離れ、表情一つ変えずにさらりとかわす。

 宇都宮の笑顔が一瞬ピタリと止まり、その場に微妙な空気が流れた。



 バスの中で打ち合わせた作戦が開始される。


 崩れかけた家屋の屋根に、祇園はひょいと飛び乗った。

 足元が傾いていたが、「物質吸着」《ゲッコーグリップ》の能力でびくともしない。


「よっしゃ、影の広がり確認。こっちはまだ侵食浅いで!」


 通話チャンネル越しに届いた声に、周囲のメンバーが即座に動き出す。

 祇園の行動が、現場の初動にリズムを与えていた。


 暫くすると——


「……おった。屋根の奥、黒い影……動いとる。あれや」


 傾いた屋根の裏側、瓦礫の影に蠢く異形。人型をわずかに残しつつ、背から不規則な突起がのたうっている。


「位置、マークした。データ送るで」


 即座に祇園が情報をチャンネルに送信する。


「確認した。久遠寺、対応できるか?」


 小値賀がデータを睨みながら問いかける。


「可能です。位置、把握しました」


 そのまま静かに能力の発動範囲まで進んでいく。


「先生、家壊しちゃってもいいですか?」

「……ん?」


 一拍置いて、小値賀が頭を掻く。


「許可する。ただし最小限でだ」

「了解です」


 御影が手を掲げる。


重力制御グラヴィティ・ウェル


 空気が重く、静まり返る。


 次の瞬間、空間が歪んだような音とともに、屋根がまるごと押し潰された。

 家全体が沈み込むように凹み、壁が内側にめり込む。

 轟音とともに建材がはじけ飛び、瓦礫が四方に散る。


「……ちょ、おい……。お前、最小限の意味分かってるよな……? 一乗谷、確認頼む」


 小値賀が思わず二度見しながら頭を押さえる。


「了解っす」


 一乗谷は短く返事をすると、崩れた家屋に向かって足を踏み出した。

 瓦礫を避けるように軽やかに跳び、潰れた屋根の上に静かに着地する。


 周囲を素早く見渡し、僅かに残った異形の部位を確認。

 すでに動く気配はなく、押し潰された肉片が黒く蒸気を上げている。


「凶度3、討伐確認しました」

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