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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

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第36話 放課後パトロール

 国家戦略研究所――粟国研究室にて。


「夜刀君のおかげで、研究が捗りそうだよ」


 細縁の眼鏡越しに穏やかな笑みを浮かべ、粟国が声をかける。


「あんたも会場にも顔を出せば良かったのに。あんな現象、一生に一度拝めるかどうかだぜ?」


 ソファに身を沈めながら、白神が肩をすくめる。


「私は君と違って、くぐりに出くわしたら瞬殺されちゃうからね。まだまだ命が惜しいよ」

「ま、今は世界そのものが変わっちまったからな。ひょっとしたら、また次があるかもだけど」

「だといいね」


 会話が途切れる。少しの沈黙のあと、白神が切り出す。


「で、今日の本題は――どうせまた俺に頼みたいんだろ? 異能者の拉致か?」

「うん、お願いできるかな」


 粟国は笑みを崩さず頷いた。


「維持局は凶の対応で手一杯。しかも潜在異能者の数は、今や爆発的に増えてる。狙えばいくらでも釣れる、まさに入れ食い状態だ。このチャンスを逃す手はない、そうだろ?」


 ◆◆◆


「次のニュースです」


 画面に映る女性アナウンサーは、疲れの色を隠しきれない顔で原稿に目を落としながら、淡々と語り始めた。


「凶による被害が全国各地で拡大する中、異能に目覚めた市民による暴走や犯罪の報告が急増しています。混乱に乗じた略奪や強盗、暴行といった凶悪事件が相次いでおり、警察や安全維持局が凶の対応に追われる中、その隙を突いた犯行で、一般市民の不安が一層深まっています。政府は早急な対策を求められており――」


 テレビ画面の音量が遠ざかる中、女性アナウンサーの声は、まるで感情を殺したように冷え切っていた。


   ◆◆◆


「まぁ予想通りっちゃ予想通りだが……やっぱ現実になっちまうとキツいな」


 会議室の空気は重い。

 国家安全維持局では連日、凶への対応に追われていたが、今や新たな問題――異能の悪用者たちへの対処にも本腰を入れざるを得なくなっていた。


「さすがに高専の学生たちにも現場に出てもらわんと、人手が足りん」


 制圧第二部隊隊長の氷室が丸刈り頭を撫でながら、苛立たしげに吐き捨てる。


「なんでこう……クズばっかに異能が目覚めるんだろうな」

「逮捕して更生させて、現場で使えばいいのよ。手段は選んでられないでしょ」


 淡々と答えたのは、第一部隊隊長の諏訪だった。


「で、どうなんだ、潜在異能者の訓練は? まともに使えそうな奴はそれなりにいるのか?」


 問いに答えたのは、第一部隊副隊長の玉前たまさき烈火。


「今のところ、脱落者はほとんど出てません。全員まじめに取り組んでるとのことです。初日に宵宮が能力を披露したのが効いたみたいで、相当ビビったみたいすね」

「あー……あれ見せちゃったのか。刺激、強すぎじゃねぇ?」


 氷室が苦笑まじりに言う。


「ま、そのおかげで予定通り、来週には実戦投入できそうです。中級レベルも十五名は確保できました。我々も多少は楽になるかと」

「頼むよ、マジで。こっちはもうヘロヘロだわ」


 ぼやく氷室をよそに、諏訪が再び話題を本筋に戻す。


「で、本気でお願いするの? 高専の子たちに、悪質異能者の対応」

「他に選択肢があるなら、教えてほしいね。警察も自衛隊も俺たちも、もう限界。……泣きつくしかないだろ」


 ◆◆◆


 2月25日。


 朝のHRにて。


 教室の空気がざわつく中、小値賀おぢか先生がいつもの半袖姿で前に立った。

 二月の寒さをまるで感じていない様子で、鋭い目をこちらに向ける。


「お前らもニュースで見てて知ってるだろうが、最近、悪質異能者による犯罪が急増してる。だけど維持局の連中は凶対策で手一杯で、そっちに人を回す余裕がない。――というわけで、お前らに手伝ってほしいと依頼があった」


 クラスに、うんざりとした空気が広がり始める。


「アホなことやってる奴らは大半が初級、せいぜい中級が混じってる程度だ。凶に比べりゃ全然大したことはない」


 その言葉に、さっそく祇園君が反応する。


「大したことないゆうても……バイト代は、ちゃんと出るんやろな?」

「安心しろ。ちゃんと支給されるそうだ」

「ならええわ」


 あっさり引き下がる祇園君に、少し拍子抜けする。

 今までだったら、もっと粘って食い下がっていたはずなのに。

 出動することが日常になって、感覚がマヒしてきてるのかもしれない。


 先生が再び声を張る。


「とはいえ、簡単な任務とは限らん。むしろ――凶を相手にするより厄介かもしれん。……何故か分かるか?」


 少しの沈黙の後、東雲君が静かに口を開いた。


「人間が相手だから、ですよね。凶なら全力で戦えますが、人間には加減が必要です」

「正解だ。だから今回は、強い奴ほどやりづらい任務になる。特に――出雲崎」


 突然の名指しにピクリと体が硬直する。


「お前、絶対に暴走なんかさせんじゃねぇぞ」

「は、はい……気をつけます」


 もう長いこと暴走なんてしてないけど……こうして改めて言われると、逆に意識しちゃうなぁ。


「で、具体的にはどないすんねん、先生。ワシらはどう動けばええんや?」


 小値賀先生はポケットからスマホを取り出しながら答えた。


「お前ら全員のスマホに、位置情報アプリを入れる。そいつで現在地を把握して、事件の発生地点に一番近いやつに連絡が入るようになってる。連絡が来たら、即対応だ」

「えぇ? 授業終わったら、みんな普通に寮に帰るやん」


 確かに、その時間帯に何かあっても、動ける範囲は限られている。


「おう、だから、みんなで放課後パトロールだ。寮にこもってんじゃねぇぞ。あと、固まって行動しないでちゃんとバラけろよ? まとまってたら意味ねぇからな」

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