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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第二章 新しい世界

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第34話 選抜試験

 12月31日。


 大晦日だというのに、国家安全維持局の本部は戦場のようだった。

 総勢200名の局員たちが朝から晩までフル稼働。全国各地で発生したくぐりの対応に追われていた。


 凶度3の出現数は予測より少なかったとはいえ、凶度2でも十分に脅威となる。

 民間人ではとても太刀打ちできない。


 数日前、総理大臣による異常災害緊急事態宣言も発令されている。

 それにより、自衛隊・警察の出動、さらには超法規措置による武力行使まで即日承認された。


 ――だが、それでも、全然足りない。


 世界の理は歪み、凶が実体化した。

 そして、それと同時に別の現象も報告されていた。


 潜在異能者の覚醒。


 その多くは初級レベルだが、中には中級レベルの能力を持つ者も現れた。

 だが、国家戦略高専で正規訓練を受けていない彼らの力は不安定であり、特に中級の暴走は、周囲に被害を与える事態にもなっていた。


 ◆◆◆


 国家安全維持局大会議室。


 連日続く会議には、局幹部のほか、警視庁や自衛隊の重鎮、そして閣僚までもが顔を揃えていた。

 朝から晩まで、対策、方針、現場の悲鳴。それらが怒号のように飛び交っている。


 疲労の色は、全員の顔に濃く滲んでいた。


「これはもう――潜在異能者の力も借りなければ乗り切れない事態です」

「どうやって借りる? わざわざ危険を冒してまで志願する奴なんているか? 徴兵でもするのか?」

「異能は扱いが難しい。だからこそ、高専で訓練させてるんだ。暴走なんてされたら、洒落にならん」

「反発を招くリスクもある。実際、能力を悪用してる連中の報告も届いてるんだぞ」


 発言は交錯し、結論はすぐに堂々巡りへ。


 そんな中、静かに、しかしはっきりとした声が響いた。


「――現場の人手が足りてないのは事実っすよ。手を借りるしかない」


 発言したのは、制圧第二部隊の隊長・氷室。

 丸刈りの頭をガシガシと掻きながら、気だるげに言葉を続ける。


「金さえ積めば、いくらでも集まるんじゃないすか? 業務委託で。中級レベルの奴なら、凶度2もいけるでしょうし」

「素人だぞ? 怪我したり、命に関わる事態になったらどうする?」

「ま、最低限の訓練は必要でしょうね。一カ月くらいで叩き込む。キャパの問題もあるから最初に選別はしますけど」


 氷室は、不敵な笑みを浮かべて続ける。


「めっちゃ稼げるけど死ぬかもしれないって書いときゃ、ヘタレは来ないでしょ。金目当ての悪党も釣れるかもしれないし。あとは自己責任てとこを強調しといて」

「……乱暴な案だが、検討する余地はあるかもしれん」

「しかし問題は選別だ。異能の有無を見極められる人間なんて、維持局の連中しかいない」

「高専のガキどもにやらせりゃいいじゃないすか。現場に連れてくよりは安全だし、訓練も一緒に担当させりゃ手間も省ける」


 静まり返る会議室に、どこか投げやりでありながら理にかなった提案が響く。


「それでも――まだまだ足りないと思うわ」


 眠たげにまぶたを擦りながら、制圧第一部隊隊長・諏訪璃音(りのん)が巻き髪を指先でくるくると弄び、ぽつりと呟いた。


「まだ発現していない潜在異能者も、炙り出すべきなんじゃないかしら?」


 空気が少しざわつく。

 しかし諏訪は構わず、続けた。


「何のために、全国民の健康診断のデータをこっそり集めてきたの? 高専に推薦されなかった中にも、異能の素質を持った人――そこそこいるはずじゃない?」



 ――翌日。


 全国のメディアを総動員して、国家安全維持局による「業務委託異能師」募集のニュースが流れ始める。


 テレビもネットも街頭も、同じメッセージを流していた。


「君の力が、世界を守る」

「資格不要。危険手当・超高額報酬あり」

「※応募条件:①異能の発現が確認されていること ②命の保証はされないことに同意すること」


 ◆◆◆


 1月10日。


 全国十ヶ所で実施される、潜在異能者の選抜試験。

 僕たち高専の学生も、その運営補助として駆り出されていた。


「せっかくの週末が潰れるとか、マジでありえんわ……」


 ぶつぶつ文句を言うのは、祇園君。

 しかし「バイト代が出る」と聞いた瞬間、そのテンションは少しだけ上向いたようだ。


 そんな祇園君と僕、それに東雲君の三人は、前日入りで仙台市体育館へ。

 雪こそ積もっていないけれど、吐く息は白く、歩道の植え込みには霜が降りていた。ビルの谷間を吹き抜ける風が耳に刺さる。


 現場に到着すると、会場の案内や警備でも任されるのかと思いきや、そういった実務は地元の警察官や市職員が担当していた。

 僕たちに与えられた役割は、異能のチェック。

 現れた候補者たちが持つ力を確認し、可能性があれば上に報告する——要するに人材のふるい分けだ。



 ——が、しかし。


 昼休み、控室の隅で支給されたおにぎりを頬張りながら、祇園君が疲れた顔を見せる。


「ホンマに使える奴なんかおるんかいな。午前の部だけで二十人は見たけど、一人もおらんかったで」

「まぁ、仕方ないよ」


 東雲君が頷きながら言葉を続ける。


「異能を持ってる有望な人たちは、健康診断の結果で高専に推薦されてるわけだし」

「でも異界の門が開いたのが30年くらい前で、高専が設立されたのが10年前。一番古い卒業生は25歳だよね? ということは26歳から30歳までの層には強い人も埋もれてるかも」

「あー、それやったら最初からその年代だけ募ったらええやん。なんで老若男女集めとんねん。さっきのおばあちゃんなんて気持ち手のひらヒンヤリしてるだけやで? どこが異能やねん」

「まあ、気のせいだろってのはいるよね。俺も、最近静電気がよく出るって人に当たったけど、冬だし乾燥してるし……ってツッコミたかったのを我慢したよ」

「そうなんだ。僕は何人か、初級レベルではあるけど、推薦しても良い人がいたよ」

「へぇー、でもやっぱ初級止まりか」


 祇園君は飲みかけの緑茶をくいっとあおり、つぶやくように続けた。


「中級クラスのやつなんか来たら、東雲と同格やしな。もしそんなの現れたら、大当たりやで」

「……そういう言い方をされると、中級以上は現れないで欲しいなぁ」


 東雲君が苦笑しながら、肩をすくめた。


 そんな感じで選抜試験は翌日まで続くのであった。

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