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熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第一章 異能は目覚め、物語は始まる

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第24話 連続失踪事件③

 11月8日。


 僕が討伐した凶度3は、今回の事件とは無関係なことが判明した。

 ただ、僕と糸月先輩で警護していたターゲットが新たな行方不明者となった。

 正直、自分の任務中に本当にそんなことが起こるとは思っていなかった。

 頭のどこかで、他人事のような感覚を持っていたことは否めない。

 次の日から、気を入れ直したことは言うまでもない。


 そして、今日は日曜日。

 朝から夕方までの長丁場。

 相棒は久遠寺さんだった。


 ターゲットの最寄り駅で僕たちは待ち合わせていた。

 約束の時間の少し前に到着すると、何やらざわついている。

 ベンチに座っている女性を見て、周囲の人々は興味津々な様子で視線を向けていた。


「何、あのコ? 芸能人?」

「めっちゃ可愛くね?」

「ちょっと、声掛けてみろよ」


 久遠寺さんだった。


 普段の格好とはまるで違っていた。

 今日は別人のようにおしゃれだった。

 ライトグレーのコートが秋風に揺れ、コートの下には淡いブルーのニットがぴったりとフィットして温かみを感じさせる。

 美しさと気品が溢れるその姿に、周囲の野次馬たちがちらちらと見惚れているのも仕方ない。


 僕に気付いたのか、久遠寺さんは顔を上げて、小走りに近寄ってくる。


「透真君! おはよう!」

「お、おはよう。今日は何か凄いお洒落だね——って、違う違う! 普段はお洒落じゃないとかそういう意味じゃないから!!」


 何故か僕は言い訳みたいに慌ててしまう。


「……変、かな?」


 久遠寺さんの声には、少し不安げな響きが混じっていた。


「い、いや、全然、てか僕が普段着すぎて、並んで歩くと釣り合わないというか、ゴメン僕も少しはお洒落するべきなんだろうけど全然服とか持ってなくて」

「透真君はそのままがいいよ」


 久遠寺さんは優しくニッコリと微笑む。

 周囲の野次馬たちは、舌打ちをしながらその場を去っていった。


 今日のターゲットは女性だった。

 行動パターンはプロファイルされていて、日曜は朝からスタバで何か作業をするのが定番のようだった。

 僕たちも後を追って、店内へと潜り込む。


 人生初スタバ。

 ——目の前のメニューは……何語だろうか? 本当に分からない。え? 本当に何これ?? 背中に冷たい汗が流れる。


 ダラダラと冷や汗を流しながら、あーとかうーとか言ってる不審者。

 僕だった。

 久遠寺さんが察してくれたのか、僕の分まで注文してくれた。


 ターゲットを見失わない席を確保し、様子を伺う。

 前回の失態を繰り返すわけにはいかない。

 コーヒーの味も分からない程に集中を高め、凶の気配を探る。


 ——だが、しかし。


 久遠寺さんは本当に任務中なのだろうか、という位にリラックスしている。

 いや、こんな感じだけど何かあったら僕よりも素早く反応するんだろう。


「透真君は今回の任務で誰かと仲良くなれた? ……紀さんとか」

「い、いや特にそういうのは無いかも」

「……へえ、喫茶店でお喋りとか一緒にご飯食べたりとかしてないの?」

「うん、全然。久遠寺さんは?」

「私も! 任務に集中してるから私語とかも全然しないし」

「そ、そうなんだ」


 今日はずっと私語しかしてない気がするけど……


「お昼はどこにしようか?」

「え? あのターゲットの人と同じとこにしないと……」

「あ、そっか、そうだよね!」


 久遠寺さん、本当に任務に集中してる……よね?

 大丈夫だよね?


 ◆◆◆


 国家戦略研究所。


 薄暗い実験室の中央——

 台上に縛り付けられた男が一人。

 腕や足には数本のコードとセンサー、そして得体の知れない器具の数々。

 意識はないのか、目を閉じたまま、まるで人形のように動かない。


 主任研究員の粟国あぐにはその隣で、複数のモニターを眺めていた。

 画面には、心電図のような波形が静かに流れている。

 ひとつ、ふむと小さく頷き、特殊塗装された注射器を無言で手に取る。

 中には、濃く黒い液体——まるでインクのように濁ったそれを、男の腕にゆっくりと注入した。


「うっ……!」


 男がうっすらと呻き声を漏らす。

 波形が突如として大きく揺れた。

 だが粟国は表情を変えず、冷たい目でその反応を見つめている。

 やがて、波の振れ幅が小さくなり、平坦なリズムに戻る。


「……あー、これもダメか。難しいね」


 肩を落とし、眼鏡の奥でわずかに瞳が曇る。

 次に取り出したのは、頭部をすっぽり覆うヘルメット型の装置。

 男の頭に装着し、パチパチとキーボードを叩く。


 直後、男の体がビクッと大きく跳ねた。


 粟国は淡々と、男の体を慣れた手つきで折りたたむように台車へ乗せる。

 そして、そのままガラガラと音を立てて部屋を出ていった。


 ――駐車場。

 ワンボックスカーの前で台車を止めると、粟国はトントンと運転席の窓を叩いた。


「白神君、起きて」


 窓をノックする音に気付き、白神がゆっくりとドアを開ける。

 眠そうに体を起こし、だるそうに這い出る。


「また、失敗?」

「うん。なかなか上手くいかないね」


 二人掛かりで、男の乗った台車を後部座席へ押し込む。

 ドサリと雑に詰め込まれた体がわずかに揺れた。


 白神がぼそりと呟く。


「警戒がだいぶ厳しくなってきた。新しい素体はもう簡単には手に入らなさそうだよ」

「あー、まぁそうだよね……」


 粟国は頷きつつ、口元にわずかに笑みを浮かべる。


「まあ、前向きに捉えれば失敗の傾向は見えてきたよ。あとは無事に凶人化に成功した個体からデータを搾り取るだけ」


 白神が肩をすくめる。


「怖い怖い。失敗した方がマシだな。記憶は消されるとはいえ、解放されるんだから」


 粟国は薄く笑いながら答えた。


「別に成功した素体も殺すつもりは無いんだけどね。ま、仮に死んだとしてもそれは人類の進歩への貢献だから」


 白神は短く息を吐き、ハンドルを握る。

 粟国は助手席で無言のまま、腕時計に目を落とした。


 エンジンが静かに唸り、ワンボックスカーはゆっくりと駐車場を後にする。

 テールランプの赤い光が暗闇に滲み、やがて闇に溶けて消えていった。

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