表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第一章 異能は目覚め、物語は始まる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

第22話 連続失踪事件①

 10月21日。


 帰りのHRが終わった、そのすぐ後だった。


「上級以上の奴ら、ちょっと放課後に体育館集合な。維持局が来てる」


 小値賀おぢか先生の一言に、教室が一瞬ざわつく。


「……ええ? まさか出動要請ちゃうやろな……」


 祇園君が、見るからに嫌そうな声を漏らす。


「ガハハハ! 小遣い稼ぎのチャンスかもしれんぞ! 良かったな、祇園!」

「めっちゃ嫌やわ……。ワシなんか何の役にも立たへんちゅうねん」


 ぶつぶつ言う祇園君を引き連れて、僕たちは体育館へ向かう。


 中にはざっと四十人弱。

 僕たち一年生は六人だけで、あとは上級生たちが床に適当に座っていた。


 やがて、スーツ姿に丸刈りというちょっと怖い感じの若い男が壇上に現れる。

 ざわついていた空気が、静まっていった。


「あー、どうも。放課後まで残ってもらってすまないね。国家安全維持局の氷室だ。とりあえず君たちの先輩になる」


 眠たげな目つきのまま、氷室さんは淡々と話し始める。


「で、今日は、君たち上級以上の異能師たちに、ひとつお願いがあって来た」


 その言葉に、祇園君がすかさずボソリと呟く。


「……ワシ、まだ見習いやけどな」

「それ言い出したら、ほとんどみんなそうだよ……」


 氷室さんは、僕たち全体を見渡すと、言葉を続ける。


「まだ公表されていないんだけど、八月以降、連続で行方不明事件が起きてる。判明してるだけで七名。実際にはもっといるかもしれない」


 一瞬で空気が凍る。

 思ったよりも、ずっと深刻な話だった。


「で、今回のお願いはくぐりの討伐じゃない。狙われる可能性のある人たちの警護だ。……対象者が多くてね。我々だけでは人手が足りないんだ。君たちには、遠くから監視して、何かあれば即時連絡を入れて欲しい。こっちで対処するので」


 続いて、任務の詳細説明が始まる。

 基本は放課後から19時まで。授業には支障なし。

 休日は朝と夜の二交代制。ペアで行動。期間は未定。

 任務分は、卒業時のボーナスに加算されるとのことだ。


「良かったね、祇園君にもついにプール金ができるよ」

「どーせ雀の涙やろ……。ほんで休みまで潰されるとか最悪やん。ワシは遊びたいねん」


 祇園君の愚痴は、その後もずっと続いた。


 ◆◆◆


 宇都宮宗政。

 一年生。上級異能師(見習い)。


 国家戦略高専の入試のあの日。

 まるで異世界から舞い降りたような、現実離れした美貌の少女がそこにいた。

 その姿を見た瞬間、脳天に電撃が走る。


 名前を知ったのは、入学してから。

 ——久遠寺御影。


 整った顔立ちの宇都宮は、中学時代に告白された経験もあり、自分をそこそこモテる方だと思っていた。

 女子と話すのも苦手ではない。


 だが、御影の前に立つと——


 頭が真っ白になり、謎の言語を発してしまう。

 そんな日は決まって、布団に顔を埋めて雄叫びする羽目になる。羞恥と反省が交互に押し寄せる地獄タイムだ。

 しかし、今日はまさかの僥倖。


 潜在異能師の警護任務。

 ——御影とのペア行動。


 昨日まで夢にも思わなかった展開。

 もはやこれは任務ではない。実質デートである。


(今日こそ……まともに会話してみせる……!)


 伊達眼鏡をくいっと持ち上げ、クールを装う。


「久遠寺さん。今日はよろしく」


 心臓は爆発寸前。だが宇都宮はキメ顔でそう言った。


「ええ、よろしく。ターゲットは吉祥寺方面ね。早速行きましょう」


 御影はさっさと歩き出す。

 宇都宮の人生を賭けた決意など知る由もない。


「あ、待って! 危ないから、僕が前に立つよ!」


 慌てて追いつき、追い越す。

 実際は、上級の宇都宮より特級の御影の方が遥かに強い。

 格闘術も然り。瑠璃の妹の名は伊達ではなく、異能なしでも学年最強クラスを誇っている。


 ……が、そんなことは関係ないのだ。

 彼は「頼れる男として」リードしたいのである。アピールしたいのである。


 そして——ふたりは電車へ乗り込む。


「あ、あそこ座れるよ!」


 宇都宮は即座に席を奪取する。

 奇跡的に一人分の空席を発見したのだ。


「久遠寺さん! ここ、どうぞ!」


 前に立ちはだかり、席を死守。

 御影はゆっくりと近づき……しかし、座らない。


「遠慮しないで。レディーファーストだから!」

「……ありがとう。でも、大丈夫。宇都宮君も座らないなら、場所を移りましょ? そこに立ってると、座りたい人が座れないわ」

「そ、そうだね……」


 しょんぼりと退く宇都宮。


 窓の外では、夕陽がゆっくりと沈みかけている。

 その光を、御影はじっと見つめていた。

 ただ立っているだけで、気品がにじみ出る。

 宇都宮はまともに横顔すら見られず、そっと目を逸らす。

 そして空気をごまかすように、話題を投下する。


「そ、それにしても、連続失踪事件が起きてるなんてね。びっくりだよ」

「ええ、私も。でも……電車の中で口にするのは控えた方がいいわ。まだ公にはなっていない話だし」

「あ、そうか……ごめん」


 気まずい沈黙が落ちる。

 御影は気にしていないが、宇都宮はパニックモードに突入した。

 なんとか盛り上げようと、またもや余計なひと言が口をつく。


「祇園は不破で、出雲崎は紀。ペア組みも男女でうまくバランス取れてるよね!」

「……そうね」


 御影の眉がピクリと動いた。


「出雲崎ときのは、案外いいコンビかも。さっきも並んで話してたし、なんか仲良くやってる感じだったよ」

「……仲良く?」

「この任務が終わる頃には、カップルになってたりしてね!」

「……カップル?」


 その瞬間、御影から何かが走った。

 小さく、しかし確かに鋭く。


 ——殺気?


 ……だが、宇都宮は気付かない。


「宇都宮君。今は任務中よ? もう少し、緊張感を持った方がいいわ」

「そ、そうだよね……ごめん、初めてだから、ちょっと浮かれちゃってて……」


 すでに遅かった。

 宇都宮の不用意な一言は、御影の脳内にある光景を生み出してしまった。


 ——透真と紀芹香きの せりかが仲睦まじく並ぶ姿。


 頭に浮かんだ光景を振り払おうと、御影は窓の外に目をやる。

 沈みかけた夕陽が、空を赤く染めていた。

 何もあるわけがないと分かっていても、胸の奥のざわつきは、そう簡単には消えてくれなかった。



 世界の理が変わるまで──あと60日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ