表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱を感じない僕が異形を焼き払ってみた結果、日本に数人の国家資格「極級異能師」に認定されてしまいました  作者: 堅物スライム
第一章 異能は目覚め、物語は始まる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/36

第13話 山岳キャンプ③

 木漏れ日が差し込む登山道を進むと、湿った土と若葉の匂いが鼻をくすぐる。

 遠くで鳥がさえずり、風が枝葉を揺らしていた。


 時折立ち止まっては、東雲君が『広域視野パノラマ・ヴィジョン』を発動する。

 視界の範囲を、通常の二〜三倍に拡張できるらしい。


 三十分ほど歩き回っているが、模擬生体の姿はまだ見えない。


「ほんまに配備されとるんやろな……。そろそろ飽きてきたで」

「夕方まで訓練が続くんだから、そんなに早く飽きてどうするんだよ」


 祇園君のぼやきに、東雲君が肩をすくめて返す。


「でも、俺が見つけないことには始まらないしな」


 そう言って、再び『広域視野パノラマ・ヴィジョン』であたりを見回す。


 空は少しずつ明るさを増し、昼が近づいてきた頃——


「――あ、あれがひょっとして!?」


 東雲君が森の奥を指さす。

 僕たちは彼の後ろにつき、草木をかき分けて進んでいく。


 そこにいたのは、金属製のボディを持つ、子猫ほどの大きさのロボット。

 木々の間を器用にすり抜けながら、僕らに向かって突進してきた。


「いたっ!」


 祇園君が左足を押さえてうずくまる。

 どうやら、もろに体当たりを食らったらしい。


 ロボットはそのまま僕にも突っ込んできたが、正面から受け止めて捕まえる。

 小さいくせに、意外と力が強い。不意打ちなら確かに厄介だ。


「よっしゃ、よう止めた! そのまま燃やしてまえ!」


 祇園君が地面に座ったまま叫ぶ。

 僕は深く息を吸い、静かに能力を発動した。


核熱爆散スーパーノヴァ


 模擬生体の外殻が赤熱し、金属とは思えぬ軋みを上げて歪み始める。

 しばらくすると、溶けた外装が銀色の雫となって地面に滴り落ちた。


「うわ……改めて見ると、ほんまにエグいな……お前の能力」

「そんな高熱出してんのに、自分の手は熱くないんだよね?」

「うん、まったく熱くない」

「どうなってんねん、お前の体……」


 祇園君と東雲君が驚いた顔をして問いかけてくる。

 でも、僕の意識はどこか遠くにあった。

 暴走しなかったことに、ただほっとしていた。


 ◆◆◆


 夕方になり、訓練を終えた生徒たちが宿舎前に集まる。

 九つの班、それぞれの班長が前に出て、模擬生体の討伐数を報告していった。


 僕たちのチームは――四体。

 結局、山小屋のような場所は見つからず、祇園君の活躍の場はなかった。

 けれど最初のロボットは、祇園君の足にぶつかって勢いが落ちたおかげで、僕が捕まえられた。

 そのことを理由に、二人で「祇園君のおかげだから」と慰めておいた。


「え〜、それでは結果を発表する!」


 小値賀おぢか先生の声が、夕暮れの山に響き渡る。


「優勝は――久遠寺チーム! 合計、八体!」


「えっ、八体!?」


 場がざわめく中、僕も思わず感嘆の声を漏らす。

 やっぱりすごいな、久遠寺さん……。


「優勝チームには、今年度の成績に特別ポイントが加算されるぞ。特別ポイントは卒業後の初任給にも関わってくるからな。他のチームも、次はもっと気合いを入れろ」

「え!? そんなん聞いてへんで!? 最初から言うてや……!」


 祇園君が叫ぶ。


「なんだ祇園。貴様、本気で訓練に参加してなかったとでもいうのか?」

「……い、いや、そんなこと言うてへんがな」

「ふむ。体力はまだ余ってそうだな。よし、お前は今から宿舎の周りを二十周走ってこい」

「えっ!? 嘘やろ!?」

「東雲。こいつが数ごまかさないよう見張っておけ」

「……え!?」


 東雲君がとばっちりを受けていた。


 面倒ごとに巻き込まれる前に帰ろう。

 僕はそっと、その場から離れようと歩き出した。


「透真君!」


 背後から呼び止める声。

 振り返ると、久遠寺さんが手を振っていた。


「あ、久遠寺さん。優勝、おめでとう」

「ありがとう。透真君たちも四体討伐でしょ? どうだった?」

「うん……最初は暴走しないか不安だったけど、最後の方はそんなこと気にならないくらい集中できた」

「ほんとに? よかった!」

「この程度なら、大丈夫っていう自信は何とか持てたかな。あとは……今後ヤバいくぐりに遭遇した時に――」

「今は、今日うまくいったことだけを噛みしめてればいいよ!」


 久遠寺さんが笑って遮る。


「起こってもいないことを想像しても、しょうがないじゃない」

「……そうだね。ありがとう」


 確かに久遠寺さんの言うとおりだ。

 何でもネガティブに考えるのは僕の悪い癖だ。


 ◆◆◆


 翌日。キャンプ最終日。


 夏の朝、蝉の声が鳴き始める中、僕たちは宿舎裏の木陰に集められた。

 近くの寺から来た僧侶が、涼しげな法衣を揺らしながら座禅の作法を教えてくれる。

 地面に並べられた座布に足を組み、背筋を伸ばす。

 蝉しぐれと風鈴の音が交じり合うなか、静かに心を整えていく。


 三十分後。


 僧侶が合掌し、穏やかな声で言った。


「これで、座禅は終わりです」


 僕たちはゆっくり立ち上がり、しびれた足をほぐしながら深呼吸する。


「よっしゃ! 終わりや!! 昼まで自由時間や!!」


 祇園君が嬉しそうに僕の肩をバシッと叩いてくる。


「川まで魚釣りに行くか? 物置に釣り竿あったやろ?」

「あったけど、三本くらいしかなかったような」

「早いもん勝ちや! 行くで!」


 そう叫ぶなり、祇園君は一目散に宿舎へと駆けていく。


 僕も後を追おうと足を踏み出した、――その時。


「おい、出雲崎。どこへ行く」


 低く静かな声に、背筋がひやりとする。

 振り返ると、周囲から少し距離を置いた存在感。どこか影をまとった長身のお兄さん――嵯峨野さんが立っていた。


「出発前に言っただろう。お前に自由時間などない」

「……え?」

「これから最終試験だ」


 ええ……。

祇園 龍馬

 

・国家戦略高専一年 

・上級異能師(見習い)

・能力名『物質吸着ゲッコー・グリップ

手に触れた物体の表面に自らを吸着させ、滑ることなく固定できる。

壁や天井を移動することが可能。ただし、吸着できる時間は短い。

機動力向上に特化した能力。戦闘には向かないが、潜入や高所移動に優れる。



東雲 晴斗

 

・国家戦略高専一年 

・中級異能師(見習い)

・能力名『広域視野パノラマ・ヴィジョン

視界の範囲を通常の2~3倍に拡張できる。

戦闘では索敵や奇襲対策、日常では監視や警備に有用。

焦点が合いづらかったり、情報過多による負担もある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ