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そして時は甦る

作者: aristotles200

記憶は残り、匂いとともに甦る


公園にいる、四つ葉のクローバーを探している

花を集めて渡したら喜ぶ幼い妹、草の匂い


夏休みは毎日プール、水面の輝きと塩素の匂い

家に帰ってお風呂、のちチューペットの匂い


浪人生、予備校と家の往復、氷河期世代

毎日、机に向かう、癒された図書館の匂い


夏合宿、休憩時に吹き抜けた風の涼やかさ

大汗が乾く、道場の古い畳の匂い


桜咲く通りを歩く、緊張、初出勤に向かう

心地よい風が吹く、郷里の山と川の匂い


異国の中で一人、群れるのは好きではない

のちの妻との出会い、エレベーターの匂い


スーパー銭湯、サウナあとの“整う“感覚

冬より夏のほうが風を感じる、温泉の匂い


子が生まれた日、帰りのタクシーで窓を開ける

風を吸う、都会と山の混ざった匂い


亡父が緊急で病院に運ばれ、急遽、帰省

鮮明に記憶に残る電車、バス、病院の匂い


〈出会いと別れ、それでも生きるは続く〉


小豆島に夏旅行、巡回バスを待つ間にバス停

太陽に焼かれる感覚、非日常、旅の匂い


会社を辞めた日、深夜、真っ暗の社屋

二度と来ることはない社内の匂い、夜の匂い


寝坊、なんとか間に合ったハノイ行き一人旅

エアーで爆睡、空港でビール、異国の匂い


転職初日、新しい会社、世知辛い人間

何処も似たようなものと苦笑、異業種の匂い


慣れぬ満員電車での通勤風景、凄まじき人間たち

圧迫感、今は慣れた集団の匂い


子の卒業式、保育園から一緒の友と喜ぶ子

桜の歌が聴こえてくる、春の匂いを深く吸う


古き友たちと酒を酌み交わす、老いの影を見る

喧嘩もした、泣き、笑った、居酒屋の匂い


〈そして未来、あと十年、二十年くらい〉


定年退職の日、眠れなかった、いつもの日常

明日からここに居ない、穏やかな匂い


老後、子と歩いた森やグラウンドを一人歩む

妻と二人の穏やかな時間、深秋の匂い


病院で横になっている、息をしていない

子が頭を撫でてくれている、旅は終わった


記憶と、古びて老いた身体

焼き場で昇る無臭、骨は骨壺へ


全ての匂いと記憶は繋がり、時は甦る

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