みるくのアブナイ受験戦争 ~エロくないのにエロい雰囲気を出す女子高生~
元タイトル「みるくの白濁★学習帳」(R-18)として書き始めた内容をリライトしてみました。
あたまゆるゆるなみるくちゃんワールドを楽しんでいただければ幸いです。
高校三年生の徳野みるくは、まるで誘惑の化身のような女の子。
くるんと巻いた茶髪のツインテールが、陽光を浴びてキラキラと揺れるたび、まるで甘い蜜を滴らせる花のよう。
制服の白いブラウスは、ボタンが一つ、いや二つ、わざと開け放たれ、豊満な胸元が覗くたびに、視線を絡め取ってしまう。
その深い谷間は、まるで禁断の果実を思わせ、柔らかな肌の白さが、見る者の理性をそっと揺さぶる。
けれど、この誘惑のヴィーナス、実は大学受験を控えた真剣(?)な受験生。頭の中は、勉強と、ちょっとだけ別のことでいっぱいなのだ。
そんなみるくを導くのは、冷静沈着な従兄であり家庭教師の近藤アトム。
白いシャツに縁取られた彼の姿は、知性の塊そのもの。
眼鏡の奥に宿る鋭い瞳は、どんな誘惑にも動じない鉄壁の理性――のはず。
だが、みるくの無意識に放つ“熱いオーラ”は、アトムの冷静さを試す甘い試練そのものだった。
今日も、科学の勉強のはずが、みるくのペースに巻き込まれる時間となる。
「せんせぇの出した、この白いのぉ……すっごく白くて、ドキドキしちゃうのぉ……どうしたらいいのぉ?」
みるくの声は、まるでとろけるキャラメルのように甘く、吐息交じりに響く。
彼女の豊満な胸が、テスト用紙を抱きしめるたびに揺れ、その隙間から覗く柔肌が、アトムの視界を一瞬掠める。
無垢なテスト用紙は、まるで彼女の純粋さと誘惑の両方を映し出す鏡のよう。
みるくの瞳は期待と戸惑いで潤み、頬はほんのり桜色に染まる。
「落ち着けみるく。俺が出したのは科学のテスト1枚で、白いのは解答を書けていないからだ」
アトムはペンを回しながら即答した。慣れている。
「でもでも、みるく、全然わがんにゃいよぉぉぉ! 頭、熱くなっちゃって、溶けちゃいそうぉ~!」
みるくは、テスト用紙をぎゅっと胸に押し当て、ツインテールがふわりと揺れる。
その仕草は、まるで無防備な子猫が甘えるようで、アトムの冷静さを試す。
部屋に散らばる参考書の山も、彼女の焦りと情熱を静かに物語っている。
「一気に全部見ようとするからだ。1問ずつ、じっくり解いていけ」
アトムの声は、まるで冷たい水をかけるように冷静だ。
だが、みるくの熱い視線と、胸元で揺れる柔らかな曲線に、さすがの彼も一瞬言葉を詰まらせる。
「じっくりぃ? せんせぇの目、みるくのこと、じっくり見てくれるのぉ?」
みるくは小首を傾げ、唇を軽く噛みながら、誘うような笑みを浮かべる。
その仕草に、アトムは小さく咳払い。
「問題をだ。まずはこれ。中学レベルの簡単な問題だ」
アトムが指差したのは、水とエタノールに関する簡単な問いだった。
だがみるくは問題文を一目見ただけで――
「水に同量のエタノールを混ぜた時の沸点は何度か……!? なにごれえぇ……わがんにゃいいいい! 頭がフット―しそうだよぉぉ! そんなもの混ぜないでぇっ!」
彼女の声は、まるで熱いシャワーのように部屋を満たす。
胸元が揺れるたび、アトムの視線が一瞬だけ泳ぐが、すぐに立て直す。
「落ち着け、頭は沸騰させるな。水の沸点は100度、エタノールの沸点は78度。同量なんだから、その中間だ」
冷静なアトムの説明は、まるで定理が教室の静寂を引き締めるかのよう。
彼の言葉は堅実で、科学の根本を示す羅針盤のようにみるくの内乱に一筋の光を差し込む。
「はわわぁ……すっごい、とけちゃう……わがんにゃいのにとけちゃうううう!」
「ああ、溶けた脳みそで次を解けるか試してみようか」
「ムーちゃんせんせぇ……ここもわがんにゃい……」
みるくは小首を傾げ、ぷるぷる震えながら隣の問題を指差す。
「誰がムーちゃんだ。これは位置エネルギーと運動エネルギーの問題だ。位置エネルギーがある状態で、このストッパーを外すとどうなる?」
「う、動いちゃう! 何もしなくても動いちゃうよぉぉぉっ!」
「位置エネルギーが運動エネルギーに変わるから動くんだ。分かったな」
「うん、わがったぁぁ」
笑顔で答えながら、みるくのツインテールがふわんと揺れた。
「こんどーむーちゃんせんせぇ」
「近藤と“ム”を繋げるな。今度は何が分からない?」
「『物質が互いに影響を及ぼしあい、新しい物質が生成される現象』ってナニ!? さっぱりさっぱり三杯酢だよぉっ!」
机をペチペチ叩くみるくに、アトムはため息ひとつ。
「酢か。酢なら、重曹を混ぜる実験したことないか。火山の噴火みたいなやつ」
「ああっ! 泡が溶岩のようにぶわぁぁぁってなるやつぅぅぅ!」
「それだ。それは酢と重曹がどうなったからだ?」
「はぁぁぁん! 反応しちゃってるぅぅぅぅ!! 酢と重曹の反応で、二酸化炭素が生まれちゃうぅぅぅ!!」
「そう、答えは『反応』だ」
「あぁぁんっ、せんせぇの言葉で、みるくの心も反応しちゃうのぉぉぉ……」
「そうか。脳もちゃんと問題に反応してくれるといいな」
みるくの声は、まるで快感を抑えきれないように高揚し、アトムの冷静さがその熱を優しく受け止める。
「遺伝子的に私に近いモノを持ってるせんせぇ」
「急に説明口調になるな、従兄だから確かに近いが……。今度はどの問題だ」
家庭教師としてだけでなく、従兄弟としての距離感が、二人の会話にほのかな温もりをもたらしていた。
「『両親から異なる形質を受け継いだ場合、子に現れやすい形質が現れる遺伝のことを何という』って、あれでしょ、パイパンのお母さんとフサフサのお父さんの子がパイパンになるやつでしょお!?」
「その例えは合ってないような気がするが、まあ考え方は合ってる」
パイパンというセンセーショナルな言葉にも、アトムは努めて冷静に受け流す。
「つよいものが勝つ遺伝……弱肉強食……弱いみるくはせんせぇに組み敷かれちゃうのぉぉぉ」
「お前のメンタルはつよつよだから大丈夫だ。遺伝子の優劣の問題だ、すぐわかるだろう」
「アアアンッ! 優性遺伝んんんんっ!!」
ぷるん、とアトムの目の前で、彼女の豊満な胸が揺れる。
そのたびに、彼の心の奥で小さな波が立った。
「無機物メンタルのせんせぇ」
「それ悪口じゃないか? 今度はどれだ」
「触るとゴツゴツした感じでえぇ、ピンク色のエロティックな鉱物ってなんなのぉぉ?」
「問題文に“エロティック”なんて入ってないが。火成岩によく含まれてるやつだよ」
その瞬間、ピンクに煌めく鉱物のイメージがふっと漂い、理解の兆しがみるくの瞳に映るような気がした。
「んんんっ! 出てる、ちょびっと出てるのぉ……! 答えがちょびっとだけ、見えちゃってるのぉぉ! ちょ、ちょ……」
「いかりや」
「ちょうせきぃぃぃぃぃ!!」
答えを導き出せた快感、彼女の心は高揚していた。
恍惚としたその表情を、冷静さを装いつつもアトムは見惚れていた。
「星の数ほどいる男の中で私の一番大事なせんせぇ」
「さらっと大変な告白をされた気がするが気にしない。次はどの問題だ」
みるくの告白は、まるで星空に瞬く煌めきのよう。
照れた笑いと共に、彼女は気持ちをさらけ出していた。
だが、アトムは冷静に受け流し、彼女の疑問に応えようとする。
「知っている星座を挙げられるだけ挙げよ、ってぇぇ、何でもいいのぉぉ?」
「ああ、サービス問題だ。1つにつき1点やるよ」
「あああん! 出しちゃう、とくのーみるく、いっぱい出しちゃううううう!」
「”とくの”だろ、伸ばすな」
顔を紅潮させながら、みるくは指をパタパタさせる。
「アァァァンドロメダ座ぁぁっ……いっかくじゅぅぅぅ座ぁぁぁ……けんびきょぉぉぉ座ぁぁ……ほぅ……おぅ……座ぁぁ」
「鳳凰座か、マイナーなところ出してくるな」
「やざぁ……ろざぁ……」
「矢座、炉座か」
「はぁぁぁん……みるくいっぱい出しちゃったぁぁぁ……」
「よかったな」
「よし。100点中120点、合格だ」
「アアン……スパルタだけど結局やさしいせんせぇだいすきぃぃ」
「明日はもっとビシバシ行くぞ」
「はぁぁぁんっ……痛気持ちよくされちゃうぅぅん」
温かいみるくの吐息、アトムのほのかな優しさ。
特別ではない、特別な一日。
二人の時間はゆっくりと過ぎていった。
***
今度は数学の時間だ。
夕方の光が差し込む机の上には、三角関数や数列がびっしりと並ぶ問題集。
アトムは溜息をひとつ吐き、赤ペンを手にした。
「高校数学は教えるのが難しいな……自分で解く方が楽なんだが」
ペン先をカチッと鳴らしながら、独りごちる。
「いやぁぁん、せんせぇに教えてほしいのぉぉぉ」
突如、身を乗り出してくるみるく。両手で机を支えたその拍子に、制服の胸元が大胆に開く。
柔らかな双丘が揺れ、危うく覗きそうになった瞬間、アトムはすっと視線を逸らした。
「……はぁ……じゃあ、何を教えてほしいんだ?」
苦々しい声で、だが仕事は手を抜かない。
「三角関数! この『sinθ』って、みるくの大事なところみたいだよぉ」
頬を赤らめ、指で sin の文字をなぞるみるく。わざとらしい吐息が混じる。
「やめてくれ。この記号は、単なる三角関数の表記だ」
そっけなく答えながらも、アトムの手の動きは止まらない。
冷静を装いつつ、ペンはすらすらと数式を解いていく。
「でもぉ……こんなに細長くて、何かが押し込められてるように見えるのぉ」
「お前の想像力には感心するな。とにかく、これは“正弦”という関数で、角θの対辺の長さを斜辺で割った値だ」
「もうちょっと教えてぇ? オイラのいじめたい生理ってなに?」
くりくりした目で覗き込んでくるみるく。
鼻先が触れそうな距離に、アトムはのけぞった。
「……それを言うならオイラーの多面体定理。……なんで俺は分かってしまうんだ?」
アトムは額に手を当てる。
疲労が一気に押し寄せてくるようだったが、結局きっちりと問題に向き直る。
「これは立体の頂点の数、辺の数、面の数の関係を示す式だ。V−E+F=2、覚えておけ」
「えへへ、それはきっと、みるくと波長が合ってるからだねぇぇ」
くすぐったそうに笑うみるく。頬に指を当て、くねるように上体を揺らす。
「お前の波長はいつも変調波だ」
次のページを開いた瞬間、またしてもみるくが派手に叫んだ。
「あぁぁん! パイぽっち数列って何なのぉぉ!?」
「それを言うならフィボナッチ数列……なんで解読できてしまうんだ……怖い、怖すぎる」
アトムの口調が若干引きつる。背筋に冷たいものが走る。
だが、みるくは至って無邪気な顔をしていた。
「えへへ、やっぱりせんせぇとみるくは、運命で結ばれてるんだよぉぉ」
「違うもので結んでもらおうか。フィボナッチ数列は、前の2つの数の和が次の数になる数列だ。1,1,2,3,5,8……な?」
「アアンッ、せんせぇ……フェラマンの最終生理のこと教えてぇぇぇ!」
「フェルマーの最終定理のことだな? この定理は……いや、もういい、自分で調べろ」
流石に説明を放棄したアトムが、そっと目を閉じる。
「はぁぁん、冷たいせんせぇもステキィィ……」
アトムはノートを見つめる。
次第に、数学の記号が愛のポエムのような字で埋め尽くされていくのを、無言で見守るしかなかった。
ノートにクレヨンのような文字を書きながら、みるくが唐突に叫ぶ。
「ラジアンっ……あはぁぁん」
唐突な叫び。彼女の口元から垂れそうな涎をアトムは無視した。
「雑になってきたな。ラジアンは、角度の単位だ。円の半径で円弧を測る。1ラジアンは約57.3度」
「みるくのパイのラジアン……57.3度ぉぉ」
「何の話だ。けしからんパイをしてるんじゃない」
ちらりと胸元を見てしまった自分に舌打ちしたくなる。
「エヘヘ、みるくのパイ、触りたいのぉ?」
「いいから勉強に戻れ」
「はぁぁあい。パイアールツーでおっぱいふたつぅぅぅ」
アトムはそっと目を閉じた。
知識がどんどん、予測不能な方向にみるくに汚染されていくのを、まざまざと感じた。
「今日はこのくらいだな。ちゃんと復習しとくんだぞ」
「うんっ、書き書きしてぇぇ、せんせぇのこと、思い出しちゃうねぇぇ」
「……何を書き書きしているんだ。大学に入りたいんだろ?」
「うん、入れてほしいのぉぉぉっ! ものすごく入れてほしいよおっ!」
「大学は入れてもらうところじゃない、自分で入るものだぞ」
「はぁい、がんばりまぁす」
元気に笑って手を振るみるくの背中を見送りながら、アトムはそっと空を仰いだ。
(……果たして、あいつに大学は……いや、深く考えるのはやめておこう)
***
その日、みるくは小さな紙片を握りしめ、跳ねるような足取りでアトムの前に現れた。
目を輝かせ、胸を弾ませながら、それをぴらぴらと見せびらかす。
「見てみて、せんせぇっ! この前の模試の結果!」
「え、かなり伸びてるじゃないか。相当頑張ったんだな」
視線を走らせた瞬間、思わず目を見開いた。
点数の欄に並ぶ数字は、以前より明らかに上昇している。
驚きのあまり、アトムは思わずみるくの顔を見つめていた。
そこには、達成感に満ちた笑顔があった。
みるくは自慢げに胸を張る。物理的にも、声色にも自信が満ちている。
「そうなのぉぉ、せんせぇに会えない日もぉ、ちゃんと勉強してたのぉぉ」
その口調にはいつもの甘ったるさがあったが、隠しきれない誇らしさが滲んでいた。
「そうみたいだな」
アトムはうなずきつつ、みるくの頬にわずかに浮かぶ赤みを見つける。
きっと、努力していたことを自分から言いたくて仕方なかったのだろう。
「これも、せんせぇのおかげぇぇ」
「いや、みるくが努力した結果だよ。すごいな、よく頑張ったね」
その言葉を聞いた瞬間、みるくの表情がぱっと華やぐ。
照れたように笑いながら、目を細める。
「えへへ、せんせぇに褒められるとぉ、もっと頑張れるよぉぉ」
その声はいつもより少し小さくて、けれど確かな響きを持っていた。
アトムはほんの少し口元を緩め、真っ直ぐ彼女を見つめた。
「それじゃ、これからも一緒に頑張ろうか」
「うん、頑張るぅ。でも、今日はちょっとだけ、ご褒美欲しいなぁ」
みるくは上目遣いで覗き込む。すぐに甘えモードに入るその仕草に、アトムは眉をひそめる。
過去の記憶が脳裏をかすめる。どうせまた変な要求だろうと、身構える。
「ご褒美欲しいって……えーと、何をさせられるんだ?」
声にはほんのりと警戒が滲む。みるくの好意は否応なく伝わっている。
だが、その“表現方法”が読めない。いや、読めすぎてしまって困るのだ。
「エヘヘ、本当はナニしてほしいけど、今日は別のことだよぉ」
にやにやと笑うみるくの顔に、アトムは思わず目を細めた。
「ナニって……いや深くは聞かない」
すかさず言葉を断ち切る。
これ以上踏み込んではいけない領域が、目の前に広がっている気がしてならない。
そんなアトムの腕に、みるくがふわりと身体を寄せた。
ぎゅっとしがみつくその柔らかさに、アトムの肩が僅かに強張る。
「せんせぇ……教えてぇ? 『月がきれいですね』ってどういう意味?」
突然の文学的な問いに、少し目を瞬かせてから、アトムは言葉を選ぶ。
「……夏目漱石が『I love you』をそう訳したっていうのは有名な話だな」
「しっているよぉぉ、でもせんせぇに言われたら嬉しいの。だから、言ってほしいなぁって」
みるくは、熱のこもった瞳でじっとアトムを見上げていた。
さっきまでの甘えた口調とは裏腹に、その表情には微かな緊張と、期待が宿っている。
その視線に押されるように、アトムは視線をそらし、わずかに頬を染めた。
照れている、などと自分でも信じたくはなかったが、間違いなく顔が熱を帯びていた。
「あいらぶゆー」
低く、そして棒読みで答えた。
「棒読みだよぉ」
くすっと笑うみるく。その笑顔があまりに自然で、アトムの中にあった警戒心がふと緩む。
少し咳払いをしてから、今度はまっすぐ彼女の瞳を見つめた。
「I love you... You’re the only one I see.」
そっと、彼女の頬に指先を添える。
思いがけないやさしさに、みるくの表情が一瞬とろける。
「ゆあざおんりーわん、愛し?」
「“You're the only one I see”……それは、『俺の目に映るのは、みるくだけ』ってことだ」
言葉の意味を飲み込んだみるくは、ぱちくりと瞬きをしたのち、口元を押さえて小さく笑った。
その目には、ほんのりと涙が滲んでいた。
「そ、それってぇ……え、えっちぃ意味もあるぅ……?」
「……ないとは言わないが、今は真面目な意味で言ってる」
淡々と返しながらも、アトムの声はどこか優しくなっていた。
互いの視線が絡まり合い、しばし沈黙が流れる。
「え、えへへ……次の時は、えっちぃ意味で使ってねぇ」
みるくのいたずらっぽい囁きに、アトムはわざとらしく肩をすくめて見せた。
「……じゃあ、そのときのために、えっちぃ意味の英語もちゃんと勉強しておけよ」
「えっ、わ、わかったぁ、学校のALTの先生に聞いておくねぇ」
「すまん、それはやめてくれ」
即答しつつも、アトムはほんの僅かに笑みを浮かべた。
みるくの素直な喜びが、どこか心をくすぐるのだった。
***
その後も、みるくはひたむきに努力を続けた。
日ごとに基礎が固まり、応用力もついていく。
やがて、最後の追い込みの時期には、アトムですら教科書を見返さなければ答えに詰まるような難問を、彼女は冷静に解けるようになっていた。
そして、ついに迎えた大学入学共通テストの当日。
冬の朝の冷たい空気が張り詰める中、みるくは制服の上に厚手のコートを羽織り、静かな決意を胸に試験会場へと向かっていた。
その顔には、かつてのような不安や怯えはなかった。
代わりに、目を細めるほどにまっすぐな光を湛えた瞳と、芯の通った表情が浮かんでいた。
それはまるで、挑戦者が戦場へと向かう時の顔だった。
アトムは、みるくの肩にそっと手を置いた。
言葉よりも、その温もりで伝えたい想いがあった。
「ここまでよく頑張ったな。あとは自分を信じて、力を出し切るだけだ」
みるくはその手に、自分の手を重ねる。
震えはなかった。強く、しっかりとした握り返しだった。
「うん、せんせぇ。ここまで支えてくれて、ありがとぉ」
微笑むみるくの顔は、これまででいちばん晴れやかだった。
心の底からの感謝と、自分自身への誇りとが混じり合った、清々しい笑顔。
(最初に『わがんにゃいいいい!』って言ってたのが嘘みたいだ)
思い出すと同時に、アトムの胸の奥に、じんわりと熱いものがこみ上げてくる。
泣きたくなるような気持ちを、彼はいつもの無表情で押し隠した。
「行ってこい。お前なら、絶対に良い結果が出る」
「うん……せんせぇ? いってらっしゃいのちゅーはぁ?」
その一言に、アトムは目を細め、呆れたようにため息をついた。
「試験前に何言ってるんだ。集中しろ」
「しゅーちゅーするために、ちゅーがほしいのぉ」
相変わらずの甘え声で、唇を突き出すみるく。
それでも、どこか緊張を和らげようとする無邪気さが愛らしかった。
アトムは、辺りに人の気配がないことを確かめると、ためらいながらも彼女の額に軽く唇を寄せた。
「……」
「……あぁん、そこじゃないよぉ」
「いいから、早く行け」
「もう、せんせぇのイケズぅ」
ぷぅっと頬を膨らませながらも、みるくは楽しそうに笑った。
そしてそのまま、アトムの手をぎゅっと握る。
指先に、確かな熱が残った。
「帰ってきたら、もっとちゅーしてね」
「……考えておく」
アトムの言葉に、みるくはにっこりと満足げに頷いた。
次の瞬間、彼女は軽やかな足取りで試験会場へと歩み出す。
振り返ることなく、その背中はまっすぐだった。
アトムは、その後ろ姿を黙って見送る。
(頑張れ、みるく)
胸の内で静かに祈るように呟いた。
試験が終わったあと、みるくは電話越しに「頑張れたよ」と弾んだ声で報告してきた。
その声は、自信と達成感に満ちていて、もう以前のような揺らぎは感じられなかった。
アトムも本来であれば、志望校の二次試験まで付き添うつもりだった。
だが、折悪しく自身の単位取得に必要な必修科目の授業が立て込んでいた。
「大丈夫だよ、せんせぇ。みるく、一人でも頑張れるから」
そう言ったときのみるくの声は、優しさと強さを含んでいた。
いつの間にか彼女は、支えを求めるばかりの少女ではなくなっていた。
他人の手を借りずとも、自分の足で進もうとする意志がそこにあった。
アトムはその変化に気づき、そして心から誇らしく思った。
――あの時、「わがんにゃいいいい!」しか言えなかった少女が、今、自分の力で未来を切り拓こうとしている。
そんな彼女の成長は、何よりも尊く、美しかった。
***
合格発表の日。
アトムは、みるくと待ち合わせて大学へ向かった。
「まさか、俺と同じ大学を受けてたとはな」
「だって、せんせぇに早く追いつきたかったんだもん」
みるくは嬉しそうに笑いながら、アトムの隣を歩く。
「合格したら、後輩か……なんだか不思議な気分だ」
「うふふ、焼きそばパンでもチェリオでも、先輩命令なら何でも買ってくるよぉ」
「……お前の中の“後輩像”が独特すぎる」
アトムは苦笑しつつも、内心ではすでに結果を確信していた。一方のみるくは、少し緊張しているようだった。
「でもね……みるく、もし落ちちゃってたらどうしようって……」
「大丈夫だ。お前は本当によく頑張った。それに、俺の教え子が落ちるわけがない」
その言葉に、みるくの目が潤む。
掲示板の前で立ち止まり、息を呑むふたり。
「番号、なんだったっけ?」
「369番。み・る・く、だよぉ」
「それ、誰かの粋なはからいか?」
微笑みながらアトムが目を走らせると――
「あっ、あった! せんせぇ、あったよぉ!!」
「本当だ……おめでとう、みるく!」
「やったぁ! やったよぉ! あー、イッちゃいそう〜!」
飛び跳ねながら大はしゃぎするみるくに、アトムは思わず笑ってしまう。
「気持ちは分かるが“イク”な。とにかく、よく頑張ったな」
「うん、全部、せんせぇのおかげだよぉ」
「いや、お前自身の努力の結果だよ。……本当に、よくやった」
そう言って、アトムはみるくの頭を優しく撫でた。
みるくは顔を真っ赤にしながら、そっと目を閉じ、唇を差し出す。
「せんせぇ、合格したから……ちゅー、ほしいなぁ」
アトムは軽くため息をついてから、辺りを確認し――
「仕方ないな」
そう呟いて、そっとみるくの唇にキスを落とした。
「ああん……せんせぇのちゅー、気持ちいい……またイッちゃいそ……」
「だから“イク”なっての」
アトムは苦笑しながら、みるくの肩を抱いた。
「これでお前も大学生だ。自由になる分、責任も増えるぞ」
「うん。でもね――」
みるくは上目遣いでアトムを見つめる。
「せんせぇとの関係は、そのままがいいなぁ」
「“せんせぇ”じゃなくなるけどな。でも……そうだな。これからも、一緒にいよう」
「やったぁ! 大好き、せんせぇ!」
嬉しそうに抱きつくみるくを、アトムも優しく抱き返す。
「卒業したら、せんせぇのお嫁さんになりたいなぁ」
「おいおい、気が早いって。まだ入学もしてないのに」
「でもぉ……ダメ?」
「……考えておくよ」
その言葉に満足そうに頷くみるく。
「じゃあね、毎日おいしいご飯作ってあげる! エロ本もこっそり片付けとくからね〜」
「いや、それは勝手に触るな……って、そもそもそんなの置いてない!」
「うふふ、みるく、せんせぇのこと、なんでも知ってるよぉ」
みるくがアトムの耳元で囁く。アトムの胸が、じんわりと熱くなる。
「なあ……“せんせぇ”以外の呼び方、考えてみないか?」
「えー? じゃあ……せんぱい?」
「うーん……それは微妙だな」
「じゃあ、“旦那様”?」
「それはちょっと早すぎる」
「じゃあ……アトム、って呼んでもいい?」
「……ああ、それでいい」
「やったぁ! じゃあね、アトム、合格ごほうび、ちょーだいっ!」
「またか。今度は何が欲しいんだ?」
「それはね……夜の特別レッスン♡」
「おい、それはまだ早――いや、違う。今度、特別ディナーに連れてってやる。それで我慢しろ」
「えっ、デート!? やったぁぁぁぁ♡」
みるくは飛び跳ねながらアトムの腕に絡みつく。
「ちょっと落ち着けって」
そう言いながらも、アトムは優しくみるくを抱き寄せた。
「アトム、大好きぃ!」
「ああ、俺も好きだよ。みるく」
互いに抱きしめ合いながら、静かに始まった二人の未来。
キャンパスの入り口で並んだ影が、夕陽に照らされて長く伸びていく。
それはまるで――
これからも続いていく、二人の物語の序章のようだった。
完
思いつきだけで科学編を書き、数学編でそのまま続けるのは無理だと判断し、イイ感じになるようにまとめてみました。社会編とか国語編とかもネタ次第ではやれたのかなあ?とは思いますが。
よろしければご感想お願い致します。