7(兄視点)
国境近く、賑やかな国際都市——。
黒い騎士服を着た背が高くてハンサムなふたりの男たちが大通りをゆっくりと歩いている。
道ゆく人々が思わず振り向かずにはいられないほど目立つ容姿の男たちだ。
ひとりは滅多にいないほど美しい人形めいた顔立ちで、宝石のように輝くシルバーブロンドの髪と神秘的な紫の瞳をしている。
もうひとりは栗色の髪をしている。人好きのする明るい笑顔の持ち主。
フラーグン王国騎士団の若き副団長のヴィクトル・フォン・アントワ公爵と、その彼が唯一信頼する副官のアルベルト・モルト伯爵だ。
「肩の傷は痛みませんか、ヴィクトル様?」
「大丈夫だ」
「無理はなさらないでください約束ですよ」
「わかっている」
「ほんとうに痛みませんか?」
「痛くないと言っているだろう、しつこいぞ、アルベルト」
ヴィクトルが語尾を厳しくしたのでアルベルトはやっと口を閉じた。
だけどアルベルトのハンサムな顔にはまだ「ほんとうに大丈夫だろうか?」と疑問の表情が浮かんでいる。
——まったく、こいつは。
ヴィクトルは心の中でため息をついた。
ヴィクトルは二十二歳でアルベルトは二十四歳だ。ふたりは幼馴染でもあり、上司と部下の関係でもある。
「ほんとうに大丈夫ですか?」
「こんど言ったら殺すぞ」
「怖いなあ⋯⋯」
そんな会話をしながら、南方の商人や北からの旅人たちが通り過ぎる大通りを歩いていると、アルベルトが玩具店の前で足を止めた。
「もうすぐアリーシャ様の四歳のお誕生日ですね。俺の甥も四歳になるんです、一緒に誕生日プレゼントを選びませんか?」
「プレゼント⋯⋯?」
ヴィクトルは、幼い妹に誕生日プレゼントを買ったことがなかった。
そもそも家族や友人にプレゼントを買ったこともないのだ。そういう冷めた家庭で育ったし、ヴィクトルの性格上誰かにプレゼントを渡そうと思ったこともない。
だけどこの時、ヴィクトルは自分でもよくわからない感情を覚えて、玩具店の中をじっと見つめた。
「アルベルト⋯⋯」
「はい?」
「おまえ、四歳の女児が欲しがるものがわかるか?」
「お人形やぬいぐるみなどはいかがでしょう」
「ふうん——」
ヴィクトルが妹の存在を知ったのは、父親が馬車の事故で亡くなった知らせを受けたと同時だった。
引退して長い旅に出ていた父は旅先で出会った若い女と電撃結婚をし、なんと子供まで作っていたのだ。
父親も、ヴィクトルが十歳の時に亡くなった実母も、興味があるのは派手な貴族社会の社交界だけ。一人息子のヴィクトルは親の愛情を微塵も感じたことはない。
そんな家族愛を知らないヴィクトルに突然妹ができた。
簡単に愛情表現ができるはずがないではないか。
だからヴィクトルは今まで一度も妹のアリーシャにプレゼントを送ったことがなかった。
そんな関係だったのに、
——アリーシャは何を喜ぶだろう?
と、今は考えている。
自分でも不思議だ。
「ふたりだけの家族——か。考えてみればたしかにそうだ」
「え?」
「なんでもない。おまえの甥は何歳だ?」
「アリーシャ様と同じ歳だと言ったではありませんか、俺の話はいつも聞いていませんね。ああ、そうだ。今度甥を連れて行きますよ。アリーシャ様の遊び相手になると思いますからね。さあ、おもちゃを選びに店に入りましょう、ヴィクトル様」
アルベルトに促され、ヴィクトルは生まれて初めて玩具店に入った。