extra scene 針葉樹と、赤い屋根の家と、雪。
ベルの家もこういう感じなのかしら。
「話し方が柔らかいわよね、ベルって」
「そうか?」
「そうよ。この間本当にそう思ったわ」
「……だとしたら、ジェスのおかげだな」
丸いガラスに閉じ込められた小さな雪景色を、あたしは隅々まで見つめている。
「ジェスって?」
「俺の一番上の姉貴の旦那さん。一番上は十八のときに結婚したから……俺が七つのときだな。だから、もう本当の兄みたいなもんで」
両手で包みたくなって、でも包み込んだら溶けてしまうような気がして、結局、指先でちょんと触れるだけ。
「ジェスは生まれつき体が弱かったから、農作業とか一切できなくて、ずっと家にいたんだ。だから、家族の中で一番、俺の面倒を見てくれてたな。本の読み方を教えてくれたのもジェスだし、服も、ほとんどジェスが仕立ててくれてる。これとかもそうだよ」
「そうなのね。すごいわ」
「ジェスの家が仕立屋ってこともあるけど、それにしても器用なんだよな。姉貴とはちょうど正反対」
これをベルがわざわざ買ってきてくれたのよね。あたしと一緒のときでも、雑貨屋さんやなんかでは、窮屈そうに肩を縮めて、できるだけ目立たないようにしようと頑張っているベルが。一人で? そうね、きっと一人で。
「しゃべり方も、うん、影響されてるとしたらジェスだろうな」
「ジェスさんのこと、とっても好きなのね」
「そりゃあまぁ」
しかもこれを、三ヶ月ともう少しくらいかしら。確かにいろいろとあったけれど、その間ずっとしまい込んでいたなんて。壁裏スキッパーの標的になるくらい、大切に。きっとベルのことだ、買ったはいいけれど渡す理由がない、とか、本当にこれでよかったのだろうか、とか、いろいろと考えてしまったんでしょうね。
「小さい頃に憧れた年上ってやつだよ。そういう感じ。実際すごいんだぜ、あの猛獣みたいな姉貴たちの喧嘩にさ、簡単に割って入って、気がつくと綺麗に解決してるんだから。……せめて中身だけでも、って」
「それだからベルも優しいのね」
「優しくはないだろ」
「優しいわ、とっても」
「これでも?」
と、ベルの手がふいに伸びてきて、スノードームを覆った。そしてひょいと、あたしの目線から隠すように取り上げてしまう。
「せっかく見てたのに」
「見てても何も変わらないだろ、置物なんだから」
「置物なんだから置いてちょうだい」
ベルは“渋々折れました”という顔で、スノードームを置き直した。
だからあたしも白々しいふくれっ面をやめて、もう一度見つめ直す。
「やっぱり優しいわ。おかげで、ほら、雪が降り出したもの」
fin.




