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鋼と小麦  作者: 井ノ下功
step 5 あなた/君でなければ
80/80

extra scene 針葉樹と、赤い屋根の家と、雪。

 ベルの家もこういう感じなのかしら。


「話し方が柔らかいわよね、ベルって」

「そうか?」

「そうよ。この間本当にそう思ったわ」

「……だとしたら、ジェスのおかげだな」


 丸いガラスに閉じ込められた小さな雪景色を、あたしは隅々まで見つめている。


「ジェスって?」

「俺の一番上の姉貴の旦那さん。一番上は十八のときに結婚したから……俺が七つのときだな。だから、もう本当の兄みたいなもんで」


 両手で包みたくなって、でも包み込んだら溶けてしまうような気がして、結局、指先でちょんと触れるだけ。


「ジェスは生まれつき体が弱かったから、農作業とか一切できなくて、ずっと家にいたんだ。だから、家族の中で一番、俺の面倒を見てくれてたな。本の読み方を教えてくれたのもジェスだし、服も、ほとんどジェスが仕立ててくれてる。これとかもそうだよ」

「そうなのね。すごいわ」

「ジェスの家が仕立屋ってこともあるけど、それにしても器用なんだよな。姉貴とはちょうど正反対」


 これをベルがわざわざ買ってきてくれたのよね。あたしと一緒のときでも、雑貨屋さんやなんかでは、窮屈そうに肩を縮めて、できるだけ目立たないようにしようと頑張っているベルが。一人で? そうね、きっと一人で。


「しゃべり方も、うん、影響されてるとしたらジェスだろうな」

「ジェスさんのこと、とっても好きなのね」

「そりゃあまぁ」


 しかもこれを、三ヶ月ともう少しくらいかしら。確かにいろいろとあったけれど、その間ずっとしまい込んでいたなんて。壁裏スキッパーの標的になるくらい、大切に。きっとベルのことだ、買ったはいいけれど渡す理由がない、とか、本当にこれでよかったのだろうか、とか、いろいろと考えてしまったんでしょうね。


「小さい頃に憧れた年上ってやつだよ。そういう感じ。実際すごいんだぜ、あの猛獣みたいな姉貴たちの喧嘩にさ、簡単に割って入って、気がつくと綺麗に解決してるんだから。……せめて中身だけでも、って」

「それだからベルも優しいのね」

「優しくはないだろ」

「優しいわ、とっても」

「これでも?」


 と、ベルの手がふいに伸びてきて、スノードームを覆った。そしてひょいと、あたしの目線から隠すように取り上げてしまう。


「せっかく見てたのに」

「見てても何も変わらないだろ、置物なんだから」

「置物なんだから置いてちょうだい」


 ベルは“渋々折れました”という顔で、スノードームを置き直した。

 だからあたしも白々しいふくれっ面をやめて、もう一度見つめ直す。


「やっぱり優しいわ。おかげで、ほら、雪が降り出したもの」

   fin.

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