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鋼と小麦  作者: 井ノ下功
step 4 愛するということ
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extra scene 昼下がり

 台所には君がいる。

 長い三つ編みがふらりと揺れる。

 皿を洗う小さな音に、合わせるように右に左に、長い三つ編みが揺れる。

 君の三つ編みは柔らかくしなって、猫の尻尾のように振れる。

 時計の振り子とは違って、もっと自由気ままなんだ。

 毛先はふわりと反っている。

 きっと癖毛なのだろう。

 そっと後ろから近寄って、パッと両手で捕まえてみたくなる。

 それか、こっそり、尻尾の形の守り手と呼ぶにはあまりにも頼りないあのリボンを、ひっぱってほどいてみたくなる。

 あるいは、あのふわふわの毛先を、口に含んでみたいと思う。

 ――いや、さすがにそれは。

 ――いや、案外君は。

 笑いながら、


「これは食べ物じゃないのよ」


 って、叱ってくれるのではないか。

 ようやく人の形を手に入れ始めた甥っ子が、手にした物何でも口に入れていたのを思い出す。

 理解する、ということの、最も原始的な、もしくは、最終的な姿は、味わう、ということなのかもしれない。

 だとしたら――。

 俺は赤ん坊だった。

 人の形の守り手と呼ぶにはあまりにも脆すぎる蓋で、原始のままの衝動をかろうじて抑え込んでいるだけ。

 母親の指先にあやされて、ご機嫌で眠りにつく赤ん坊。


 憂いも、恐れも、それと知らされないで――。


 俺はどうにか、人の形になったばかりだった。

   fin.

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