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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クリスマスday~雪の降る日~

作者: 彩瀬姫

「うぅ~寒いっ」

 12月24日。

 響は寒いと顔をマフラーにうずめ、ぶるぶると体を震わせながら、学校の帰り道を歩いていた。

 もうそろそろで一年が終わりか……。

 溜息といっしょに白い息が吐き出された。

 今年一年はいろいろありすぎて……。楽しいこともあったし、辛いこともあった。

 大翔と喧嘩もしちゃったけど、結局は仲直りをして、恥ずかしい言い方になるけど、愛を育んできたつもり。

 だけど……。

 響は俯いて足を止めた。

 うっすらと積もっている雪が、シャリっと音を立てた。僕が雪を踏んだ音。

「大翔……」

 響は大好きな彼の名前を雪に向かって呟いた。その声が本人に届かないとしても……。


 あれは、先週のことだ。

「大翔、24日どっかに遊びに行こうよ!クリスマスイヴだし!ねぇっ?」

 大翔の部屋に来ていた響は、大翔の腕を揺らすようにお願いをしてみる。

 いつもなら「あぁ」と恥ずかしそうに、下を向きながらOKしてくれるのだが、この時の大翔はいつもと違ったのだ。

 ちょっと考えこむ体制に入ったのだ。

 そんな大翔を見て響はその日に予定が入ってるならどうして問い詰めようかと考えた。

 ───僕より大事なものがあるのか。

「ちょっと無理だと思う」

 大翔の言葉に今思ったことを口にすると、大翔は勢いよく首を振る。

「そうじゃない。だけど、響と同じように大事なことがあるんだ」

 その言葉に絶望を覚えた。

 僕と同じくらい……?

 家族だろうか?それならしょうがないと聞くが、違うという。

 それじゃ……誰?

 目で問いかけると、気まずそうに大翔は目を逸らした。

 響から視線を逸らして言うのは珍しいことではないが、何かを描くしたいかのようにふいっと目を逸らすものだから、響の頭の緒が切れたのだ。

「大翔なんか知らない!どっこにでも行っちゃえ!」

 響は、大きな足音を立てて大翔の部屋を出ていった。大翔の親がいるかもしれないなんて心配をする暇などみじんもなかった。

 ただ悲しくて、寂しくて、大翔の傍に居たくなかったのだ。


 響は我儘だったと思う。大翔がクリスマスイヴに一緒に会えないからと言って、響は怒って出て行ってしまったのだ。

 きっと、大翔に甘え過ぎていたのだ。何でも許してくれて優しい大翔に……。

 そう思ったのは、今日当日だったりするのだが。

 大翔に謝らなくちゃ!そう思って、大翔の家まで雪の中、歩いていた。

 寒い。

 寒さに震える体を温めようとコートのポケットに手を差しこんだ。カイロを入れといたので少しは温かいのだが、それでは震えは止まらない。

 いつもなら、隣に大翔がいた。

「だいじょぶか?」と、いつも大翔のマフラーを響の首に巻いてくれた。

 ひとつの手袋を響は、左手に。もう片方の手袋は大翔の右手に。人通りの少ない道は二人手袋のない手をつないで……。

 こんな満ち足りた日々が当たり前になり過ぎたのだ。

「大翔……」

 大翔のことを思いながら、ゆっくりと足を進めた。


* * *


 その頃は大翔はというと───

「すみません!」

 急いでいたら、歩いていたカップルの彼のほうにぶつかってしまった。頭を下げて軽く謝ってまた大翔は走り続ける。

 大翔は急いで、家に帰るところだった。はやく響に会いたいと、驚かせたいと。

 そして何よりも謝りたかったのだ。

”大翔なんか知らない!どっこにでも行っちゃえ!”

 あの言葉は酷くショックだった。自分がいけないのだと分かっていた。

 クリスマスイヴ。響が楽しみしていた行事だ。それなのに………。

 だけど、大翔はそれ以上にしたいことがあったのだ。少し傷つけたとしても、それ以上のものを響にあげたかった。

 無関心な大翔をここまでしてくれた「響」のために。


 大翔はちょっとした不安を抱えながら家と向かった。


 * * *


 ピンポーン

 大翔の家のチャイムを鳴らした。

 だけど、誰もいないのか、家の中から声は聞こえない。よく見ていなかったが、部屋の明かりもついていなかった。

 家族全員いないということは、家族でクリスマスかな?

 ちょっとした安心感もあるし寂寥感もある。


 また来よう。

 明日が本番だ。明日会えれば、それでいいじゃないか。

 響は穏やかな気持ちでそう思った。

 あの時は気持ちが高ぶり過ぎてクリスマス本番をすっかり忘れていた。

 そんな自分に呆れて、さっき歩いてきた道をたどる。

 向こう側から誰かが走ってくる?響は耳を傾けた。足音は雪で聞こえてこないのだが、息を切らせてくる人が自分の方へやってくる。

 響から見えた影は、大好きな彼のモノだ。

「大翔……?」

 その声に気付いたのか、その本人も呆然と名前を口にした。

「響?」

 肩を上下に揺らして大きな荷物を持ちながらやってくる大翔は、どうしてと顔に書いてあるようだった。

「大翔、どうしたの?」

「お前こそどうして?」

 響は躊躇いながらもここへ来た理由を口にした。

「………ちょっと謝りに来ようと思って」

「えぇ?」

 大翔は驚いたように目を見開いた。実際大翔自身も同じことを思っていたのだ、

「その、なんか……我が儘ばかり言ってごめん」

「……ふっ」

 しゅんとした響を見て、大翔はふっと息をもらす。

「なんで?何で大翔ここで笑うの!僕は真剣に……っ」

 怒りだしそうな響に大翔は頭を撫でる。

「分かってる。…ん…ちょっと家にはいろ。寒いだろ?」

「あっ…えぇ……?うん……」

 急いでいる気持ちが強くて、つい中途半端な道の真ん中で謝ってしまった。

 大翔の部屋に入れてもらうと、誰もいない部屋のはずなのに暖房が入っていた。

「温かい」

 種明かしとばかりに楽しそうに大翔は言う。それほどのことでもないのだが。

「親が入れっぱなしにしてくれたんだ。俺が帰ってくる時間知ってたし」

 大翔は、二つのコップにココアを入れてテーブルの上に置いた。二人は向かい合うようなかたちで座る。

 二人の間に小さな沈黙が生まれる。

 さっきのじゃ駄目だ!もう一回謝りなおそう。

 そう、響は口を開こうとしたら、大翔が先に言ってしまった。

「ごめん。響が大事にしてクリスマスイヴなのに、断って」

「えぇ……?大翔?」

 大翔が謝ってくると思わなかった。

───悪いのは全部僕なのに………

 響は、すぐに首を横に振った。

「大翔は悪くないよ!僕がいけなかったんだ。大翔にだって用事があるの分かってるのに」

 つい、大翔を一人占めしたくなっちゃうんだ。もちろんこのことは大翔に言えるわけないけど。

「響よりも大事な用事なんてない。だけど今回はちょっとだけ時間が欲しくて」

「時間?」

 大翔は、さっきまでの持っていた大きな袋からとりだした。

 それはラッピングされた大きな箱。


 もしかしての予感が響の頭の中をよぎる。

「そう、これを……響にあげたくて、お金ないからここ一週間バイトしてたんだ」

「えぇ?」

「あんなに怒らせるつもりはなかったんだ。だけど、お前がいるとバイトできないだろ?だからちょっときつい言い方になったけど」

 恥ずかしそうに頭を描く大翔の姿がとてもカッコよく見えた。

「もらってくれ。クリスマスだろ?プレゼントは明日渡すつもりだったんだけどな」

 涙が出るのをこらえながら、響は精いっぱいの笑顔を大翔に向けた。

「うん、ありがとっ大翔」

 いつの間にか二人は仲直りしていた。

 もちろん二人は気付いていない。

「僕も何か用意すればよかった……ただ謝りたい気持ちしかなかったから」

 またそんな自分に呆れようとした時だった。

「響から貰いたいものがあるんだけど?ダメか?」

「えぇ!?な、何!?」

 ここまで響が驚いているのには訳がある。

 響は変な期待していたのだ。

「お前」とか「響が欲しい」とか。いまどきの女の子でも考えないような気障キザな台詞。

 だが、この時の大翔は違ったようだ。

「そのマフラーが欲しい」

 指差されたのは、緊張のあまりで外していなかった響の首に巻いてあるマフラー。

「えっこんなのでいいの?結構使ってるから古いよ。新しいの買ってあげる」

 大翔はこれがいいのだと強調する。

「響が使っていたものが欲しいんだ。響といつでも一緒に居られる気分になるから。まっ、マフラーは冬の間だけしかつかないけど」

「うん。分かった。じゃああげるね」

 首に巻いてあるマフラーを取りに大翔に手渡す。そのマフラーを大翔は自分の首へと巻きつけた。

「何してるの?ここ中だよ?」

 部屋の中で何の意味があるのだと言うと、大翔は意味ありげに笑って見せた。

「響の温もりが伝わってくる……温かい」

「なっなに言ってんの!?恥ずかしいっっ」

 熱くなる頬を覚ますように顔の前で手を仰ぐ。

「俺は別にいいけどな」

「最近大翔意地悪」

「響が鈍感だからいけないんだぞ?」

 その言葉に反論する。

「僕は鈍感じゃないもん!」

「へぇーそうなんだ……。……じゃあ───今からベットに行こう」

 ここは慌てる響を大翔は想像していたのだが、違ったらしい。響は生真面目に聞いてきた。

「えぇ?何で……?」

 突然言い出しことにホントに意味が分かっていない響は不思議そうに首をかしげる。

 寝るにしてはまだ早い時間だし……。

 響の鈍感レベルは最強だ。

 本当に考え込んでしまった響を見て、大翔は苦笑する。

「やめだ。外に行く」

「なんで突然、大翔の我儘」

「響の我儘よりは可愛いもんだと思う」

「うぅ………」

 自分の我儘っプリは自覚しているので反論できない。そんな響を見てまた大翔は苦笑した。

「雪がまた降り始めたみたいだ。雪だるま作るって、前言ってただろ?行くぞ」

「うん!!」

 自然に手を出されて響は手を握った。

 手を握った瞬間すごい力で、大翔に抱き寄せられた。大翔の顔がふいに近づいてきて、反射的に目を閉じた。唇に乾いた感触が残る。

 放された後、響は背の高い大翔を見上げて抗議した。

「ひっ大翔!」

「キスぐらいいだろ?」

 大翔の楽しいそうな笑みを見てしまえが響は強く言えず。

「うん…まぁ……」

 結局抗議もむなしく、惚気に終わったのだ。




 手は、まだ温まってなくて二人とも冷たいけど、心は温かいもので満ちていた。

 雪だるまを作っても、たくさんの思い出を大翔と共有したい。

 喧嘩をしても、またこうやって仲直りできる。

 笑うのも、泣くのも大翔も前でありたい。

 ずっとずっと……続くといいなというのは、どれも願いでしかないけど。

 本当に叶うのなら、それはきっと幸せなのだ。



 雪の降る日に、僕たちはまた喧嘩をした。

 だけど、それでも。

 ずっとずっと二人は一緒にいたいと、願うのだろう。





 

こんにちは、彩瀬姫です。

今回で最終回となります。少しだけ長く書いたつもりです。

二人の心情が書きたかったので、三人称で書きました。

私の苦手な三人称なので読みにくい部分が多いと思いますので、よかったらアドバイスください。


今回で最終だったのですが、あと一回番外編ということで、1月に載せることにしました。

1年1周ということで。(11月がないけど)


読んで頂き、有難うございました。


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