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ヲタッキーズ140 SF作家のアキバ事件簿R

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第140話「SF作家のアキバ事件簿2」。さて、今回はスーパーヒロイン専門の連続殺人鬼が出没、秋葉原を恐怖が覆います。


捜査の末、連続殺人の影に秋葉原セレブの中に潜む殺意を認めたヲタッキーズは真犯人に迫るも、その間にも次々とスーパーヒロインが殺されて…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 ヲタッキーズ、死す


セーラー戦士の死体。その部屋の中央に倒れた彼女に、黒い薔薇の花びらが降り積もる。

破かれたコスチューム。傷ついた肉体。見開いた瞳に生気は消え、虚空を見つめている。


やがて、黒い花びらが死体を覆い尽くす。その瞳の上にソッと"ひまわり"の花が置かれる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…スーパーヒロイン殺し、異次元ミステリー、タフでクールなヒロインに魅惑的なヲタク達。あらゆる要素が絡み合い、私達FJ(腐女子)は夜が明けるのも忘れます…そんなシリーズ最新作"ヲタッキーズ、死す"が、ついに出版の運びとなりました!」


僕のサイン会だ。アキバで最高層のタワービル最上階でガーデンパーティ。関東平野の形に縁取られた夜景を見下ろす。

僕の前には愛すべきFJ達の長蛇の列だ。その全員が胸をはだけて、寄せて上げた谷間にサインされるのを待っている。


「こんばんわ。お名前は?」

「ミ、ミユリですぅ!愛してる、テリィたん!」

「嬉しいょ。しかし、いつの間にこんな巨…」


サインされる間、彼女はウットリ目を閉じ堂々と喜悦の喘ぎを漏らす。その景色をステージから眉をひそめて見る女子…


「…このサインを消す時は手伝うょ」

「一生消さないわ!テリィたん、抱いてぇ!」

「では!驚きの結末を迎えたシリーズの作者をお迎えしましょう。ご存知"スーパーヒロイン殺し"の巨匠、テリィたんです!」


大歓声。拍手。僕はスチームパンクのゴーグルを投げ捨て、両手を広げてステージに上がり、歓声を浴びる。

会場のボルテージはMAX。平積みの新刊が飛ぶように売れて逝く。カメラの放列が一斉にフラッシを焚く!


「キャー!」


ステージにFJが次々と詰め寄る。その全員が胸をはだけて谷間を強調。片っ端からサインする僕。

サインを抱きしめるようにして泣き叫ぶFJ達。天にも昇るような恍惚の表情を浮かべて天を仰ぐ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


スーパーヒロインの殺害現場。死体の上には黒い薔薇の花びらが丹念に盛られ、両眼にはひまわりの花が置かれている。


「彼女は?」

「アリソ・テスデ。24才。"blood type BLUE"。パワーに覚醒してます。スーパーヒロイン基本法によるパワー登録では"量子テレポーター"。アキバ工科大学の大学院生でソーシャルワーカーもしてる」

「院生?その割にはリッチね」


タワーマンションの豪華な内装に目をやるムーンライトセレナーダー。

彼女は、僕の推しミユリさんがスーパーヒロインに覚醒した姿なのだ。


「姉様、パパがお金持ちなのょ。部屋を訪れた管理人に発見されたンだって。争った痕はナシ。顔見知りの犯行ね」

「黒とはいえ薔薇でしょ?花びらに埋もれても愛はなかったのかしら?」

「YES。週末の私と同じだわ」


話に加わるのは、万世橋警察署の敏腕警部ラギィ。彼女とは前任地で彼女が"新橋鮫"と呼ばれてた頃からの付き合い。


「努力不足ね…あ。ごめん、ラギィ。独り言だから」

「お黙り、ムーンライトセレナーダー。素敵なTO(トップヲタク)がいる貴女には絶対ワカラナイ。で、薔薇の他には何か?」

「胸に音波銃で撃たれた音波痕が2発。いずれも小口径…やれやれ。単純な事件であるコトを願うわ。早く帰ってユックリお風呂に浸かりたい」

「猟奇殺人だから無理でしょ。マリレ、こーゆー現場に見覚えが?」

「ないわ、エアリ。私、猟奇殺人には疎いから」


エアリとマリレはスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"のメンバーで2人共メイド服。何しろココはアキバだからね。


「しかし、この遺体に盛られた美しい花びらを見て。犯人は、綿密に準備しておきながら、性的な暴行を加えた形跡はナイ」

「さすが姉様。見事な観察力。前にも同じような現場を見たコトがあるの?どこで?」

「遺体に薔薇。目にひまわり…」


瞬間、顔に出た得意げな表情を秒で消し去り、とってつけたようなクールな表情を浮かべるムーンライトセレナーダー。


「テリィ様の小説"蒼穹のヲタッキーズ"ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃"テリィ様"、つまり僕ナンだけど、金髪美女と腕を組んでフラッシュを浴びているw

ボディコンのミニワンピで挑発的な目線を飛ばして、スーパーモデル並みにポーズをキメる…


フロラ・エデタ。彼女は、僕担当の編集者で…元カノ←


「まさか人気シリーズのヒロインを殺すとはね。トホホょ」

「今のつぶやきは、編集者と元カノ、どちらの立場での発言かな?」

「テリィたん、ハッキリして。私への復讐をしたくて金の卵を葬ったの?」


自分が美形であるコトに絶対的自信がアル彼女は、カメラに微笑んだりはしない。造形美にあふれた顔面を晒すだけだw


「さすがの僕もそこまで愚かじゃないさ」

「じゃあなぜ?」

「あのシリーズは描くコトが仕事(ビジネス)になってしまった。いつの間にか、悲しいコトに」


一方、自分の顔の造形に全く自信がナイ僕は、世界中の誰より忙しくニコやかな営業スマイルを誰彼構わズにバラ撒く←


「あら、お気の毒に。なら、大怪我とか記憶喪失とかでも良かったハズょ。なのに、悪の女幹部に音波銃で頭を撃ち抜かれるナンて」

「その通り。もう復活の余地は無い。でも、心配するな。金の卵はヲタッキーズじゃナイ。僕だから…君、お名前は?」

「テリィたん!結婚して!」


ムリだ。せめて谷間にサインでも…


「次シリーズ第1話の締め切りは9週間前だった」

「大丈夫。未だ以前の"地下鉄シリーズ"が売れてる。天才に任せろ」

「全然描けてナイのに?才能の枯渇じゃナイの?」


さすがにムッとスル僕(半分当たってるしw)。


「誰がソンなコトを!」

「信頼出来る筋の発表ょ」

「フェイクニュースだ」


自意識過剰な顔のママ、僕を見上げるフロラw


「3週間以内に描き上げて。さもないと、前払金は返してもらうコトになるわ」

「ハッタリだ!」

「じゃあ試してみる?」


挑むような眼差しw


「金ならもう返したハズだ…慰謝料で」


振り向きザマにウィンクして去るフロラ。目が笑ってなひw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


カクテルパーティに移行。僕は、谷間やフロラや自信喪失?から解放され、カウンターでシャンパンを飲む。

直ぐ横の席では、一心不乱にPCを叩くハッカー。彼女はストリート育ちのスピア。超天才ルイナの相棒だ。


「ハッキングか?僕のパーティ中に仕事するなょ」

「今宵が〆切なの。サイバー屋って忙しいのょ」

「今宵?まさかホンキ出すのか?ココで?」


スピアは、ホンキを出すとスク水になる癖が…


「テリィたん。私の相棒をイヤラシイ目で見ないで。ソレにしても、シケたパーティーね。本の売れ行きが悪いの?」

「ルイナ!フロラに何か話したか?」

「仕事の話は何も。毎日険しい顔をしてコンビニ弁当が安売りになる時刻ばかり気にしてると話しただけ。当然でしょ。芸術家だものスランプはアルわ」


誰がスランプだょ!風評被害だw


仕事(ビジネス)には口を出さない約束だろ?」

「だって、仕事してないでしょ。少しは描いてるの?」

「とにかく!元カノには、何も話さないでくれ」


僕は、スマホを強制切断…あ、ルイナは"オンライン飲み"ナンだ。勝手にデバイスをハッキングしては参戦して来るw


「人生は冒険しなきゃ。だから、僕はヲタッキーズを殺したんだ。最近は、全て展開が読めてた。まるで退屈なパーティさ…貴方の大ファンです、素敵、どこで着想を?」

「胸の谷間にサインをスルのも嫌なの?」

「あ。ソレは…別に構わない」←


スピアは、僕を見上げる。つぶらな瞳だw


「私は構うわ。だって、私はテリィたんの元カノ会の会長ナンだぞ」

「近ごろ"驚愕の一言"って聞いてナイな」

「テリィ様…」


背後から僕を呼ぶ声。スピアのペンを片手に振り向く。


「こんばんわ。お名前は?…げげw」

「ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーと申します。ヒロイン殺しの捜査、ぜひ御一緒に」

「クスクス。いってらっしゃいませ、御主人様」


唖然とする僕の手から、ペンを抜き取るスピア。


第2章 仕掛けられた罠の中で


南秋葉原条約機構(SATO)は、アキバに開いた"リアルの裂け目"から降臨スル脅威に対抗スルための官邸直属の防衛組織だ。

ヲタッキーズは、SATO傘下のPMC(民間軍事会社)だが、最近ではスーパーヒロイン絡みの事件専門の探偵会社みたいになってるw


「"第2.5次朝鮮動乱(ユギヲ2.5)"後にベストセラー作家の仲間入りした割には、随分と経歴が華やかになっちゃいましたね。治安丁噹やら逮捕への抵抗やら…あっという間ですクスクス」

「未だ慣れてナイんだ。大目に見てょミユリさん」

「皇宮警察の馬を盗んだの?」


溜め息をつくムーンライトセレナーダー。ココは万世橋(アキバポリス)


「アレは…借りたンだ」←

「全裸で?」

「梅雨で蒸し暑かった」


スラスラと口をついて出るウソ←


「なのに起訴は全部免れている」

「市長が僕のファンなんだ。でも、ミユリさんの気が済むなら、お仕置きを受ける用意はアル」

「良いですか?セレブの仲間入りを果たされたとは逝え、私達にとり、ヲタッキーズのCEOの分類は2種類です。会社の役に立つCEOか、立たないCEOか。モチロン、役に立つ方が御身のためであるコトは逝うまでもありません」


ココで新橋時代からの旧友?ラギィ警部が助け舟。


「で、昨夜亡くなったのはテスデ財閥の箱入り娘アリソ・テスデ。彼女は"blood type BLUE"で恐らく"量子テレポーター"。間違いなく本件はウチとSATOの合同捜査になるわ。テリィたん、彼女と会ったコトは?まさか、また元カノのお1人とか?」

「失礼な。実は、未だデートしたコトもナイのに」

「では、コチラの彼女は?少額訴訟専門の弁護士デモラ・イスク」


意外な変化球が飛んで来る。誰?


「あいにくベストセラー作家になって以来、僕に群がって来るのは高額訴訟専門の弁護士だけだ。今回の事件と何か関係が?」

「2週間前に殺された。でも、全く気にしてなかった。昨夜読み返すまでは…」

「え。"蒼穹のヲタッキーズ"を読み返したの?」


僕の…佳作だ。余り自慢出来る作品ではナイ。

作者の僕ですら、読み返すコトはナイのだがw


「この殺し方に覚えがアルでしょ?ホラ、魔法陣の中に誘き出してボウガンで殺しちゃう奴」


女子が魔法陣の中で倒れてる画像を見せられる。

あれ?胸にはボウガンが刺さってるょ迷惑だなw


「げ。僕のファンの犯行ってコト?」

「YES。しかも、かなり偏執狂的なファンね」

「君は違うだろうな?しかし、まさかラギィが"蒼穹"を読んでるとは」


プイと横を向くラギィ。"新橋鮫"も意外に可愛いw


「何ょ?どーゆー意味?」

「アレは、魔術崇拝の物語だ。僕のファンの中でもイカレたファンしか読まない本だょ」

「そんなファンからもお手紙が来るの?最近妙な手紙とかもらってない?」


僕は腕組みして唸る。


「ファンレターって全部妙だょ」←

「この種の人間は、執着の対象に憧れの作品を据える傾向にアルんだって」

「実は、そーゆー人達に接触を試みたコトがある。コレでも、精神病質には詳しいんだ。いわば職業病だ。やれやれ。今日も素敵な1日になりそうだ」


僕は大きくノビをスル。


「じゃ怪しいファンレターを見せてね。ウチで読み込むから」

「喜んで。ところで、その画像もらえないかな?今宵、SF作家仲間と町中華を食べルンだ。その時、見せびらかしたいンだけど」

「え。何を見せびらかすの?」


あれ?地雷を踏んだかなw


「熱烈なファンの所作だろ?SF作家にとっては勲章みたいなモンだ」

「テリィたん!人が死んだのょ?」

「だから、遺体はいらないょ画像だけだ」←

「話は以上ょ」


プイと取調室を出て逝くラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


どーやら、ラギィに嫌われてしまったようで(当たり前だw)、何となく肩を落とし"潜り酒場"に御帰宅スルと…

見知らぬイケメンが弾くピアノに合わせ、スク水に着物を羽織っただけのスピアがクルクルと回りながら踊ってるw


「あ。テリィたん、おかえり。私が演じたミュージカルのナンバーを披露していたのょ」

「披露してたのは、私生活だろ?」

「スピア、続けよう。ファイブ、シックス、セブン、エイト!」


元気なイケメンに急かされ踊るスピア。放っておこう←


「ミユリさんはミュージカルナンバーショーは見ないの?」

「もう見ましたけど」

「新顔だね」


カウンターの中のミユリさんに話しかける。ミユリさんは、スーパーヒロインに変身しない時はココのメイド長ナンだ。


「手品がお上手でした」

「その手品で朝までに自分を消して欲しいな。"ブラックパンダーアイス"を買って来たけど?」

「寝る前のアイス?ヤメておきます」


とか逝いながら、結局食べてる←


「ラギィは何ですって?」

「僕のSF小説と同じ方法でスーパーヒロインが殺されてるらしいんだ」

「ええっ。何人?」←


ヒドい質問だw


「今のところ2人」

「テリィ様、大丈夫ですか?」

「うん。でも、意味がワカラナイんだ」


メイド長、僕の真正面に移動。ブラボー←


「スーパーヒロイン殺しって、いつもそうでしょ?」

「もっと激情や欲望といった背景がアルべきだ。謎なのは、あの2冊を選んだ意味さ。ハッキリ逝って、どちらも傑作とは言い難い。なのに、なぜ敢えて選んだのだろう」

「異常だから?…ねぇもう寝ましょ、テリィ様」


ソンな大声で誘うなw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日。万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「姉様。その本は?」

「全部テリィ様の著書ょ。さぁテリィ様が描いたスーパーヒロイン殺しの手口を学びましょ」

「イケメンによる朗読版はありませんか?」


ヲタッキーズのエアリ&マリレの儚い抵抗w


「最初は弁護士。2人目はソーシャルワーカー。きっと共通項があるハズょ」

「見てょ。本の背表紙に"ムーンライトセレナーダー文庫 所蔵本"ってスタンプがアルわw」

「貴女達、読書は嫌いなの?心の糧ょ?」


鼻白らむヲタッキーズw


「姉様はテリィたんの小説のファン、いいえ、マニアだモノね」

「私はSF小説全体のファンなのょ」

「だったらなぜテレるの?あ、まさか昨夜、久しぶりに…」


真っ赤になるムーンライトセレナーダー←


「久しぶりに何ょ?OK、聞きなさい。プロファイリングによれば、犯人は著者であるテリィ様と親しいと勝手に思い込んでるスーパーヒロインらしいわ。そーゆー人、困るの。絶対に突き止めなきゃ!」←


ウムを逝わさズにエアリとマリレに"所蔵本"を押しつけるムーンライトセレナーダー。観念しマリレは読み始めるが…


「何?どーしたのょエアリ?」

「姉様。毎日現場でスーパーヒロインの死体を見てるのょ?小説まで読みたく無いンですけど」

「あのね。エアリは気にならないの?」

「何がですか?」

「どんな心理の人がスーパーヒロインにこーゆー行為をスルのか」


黒い花びらに覆われたヒロインの死体画像を見せる。


「犯人が誰にせよ、事件の鍵は本の中にあるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


段ボール箱を抱えた制服警官が続々と現れる。


「今どきファンレター?」

「テリィたんのファンって相当熱烈みたいね」

「字が描けルンだ」←


運び込まれる段ボール箱の山に溜め息つくヲタッキーズw


「鑑識の結果は?」

「現場からはDNAも指紋も出なかった。慎重な犯人ね」

「2人の被害者に何か共通項は?」


1番軽い段ボール箱を手に現れた僕を指差すエアリ。


「テリィたん以外に?ナイわ」

「なぜCEO(テリィたん)がいるの?現場は任せて欲しいな」

「経営者感覚の欠如ょね…警部!」


エアリの呼ぶ声に振り向くラギィ警部。


「何か?1市民から協力の申し出があったまでょ」

「1市民って…」

「愛するアキバのためだ。1汗かくょ」


僕は、オデコの汗を爽やかに拭う←


「警察としても歓迎すべき話だわ」

「姉様、テリィたん抜きで話せますか?」

「ダメ」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


会議室でファンレターを読み込む僕達。それぞれのコスプレでパワーを使って速読するヒロイン達を眺める僕。眼福だ。


「何ですか?テリィ様」

「別に。考える時に眉間にシワを寄せるね。チャーミングだ。ババ抜きには向かないけど」

「…テリィ様。お尋ねしても?」


コチラを向く。ムーンライトセレナーダーのコスプレは、セパレートのメイド服。アラサーにしてはギリギリの露出系w


「どうぞ(コレ見よがしに脚を組み直すなw)」

「テリィ様は何が目的なの?被害者には興味がない。自分の小説がマネられたコトも気になってない。なぜ?」

「僕は"事件の世界観"が知りたいんだ」

「"事件の世界観"?」

「あんな風に殺した背景だょ」

「背景って…犯人が異常なだけかもしれナイのに」

「ソレは違う。何事も、その人にとって合理的な世界観が必ず存在スル。ミユリさんにもアキバに来た背景があるだろ?聡明な人なら社会人になる。でも、ミユリさんはヲタクになった。なぜだ?」

「坊やだから?」

「アクセントから考えて、ミユリさんは東京育ちだ。お嬢様大学を出て就職先ならいくらでもあった。良い仕事にもつけたのに、アキバでメイドになる道を選んだ。つまり、何かが起きた。でも、ソレはミユリさんの身にじゃナイ。なぜなら、傷は、そこまで深くナイから」


笑顔が消えて逝くミユリさん。見るのが辛い。


「きっと親しい誰かだ。愛する誰かカモしれない。しかも、未だに真相はわからズ、犯人は捕まっていない」


ミユリさんは、もはや笑ってない。


「そして、スーパーヒロインに覚醒した」

「さすがです、テリィ様。でも、ヲタクってもっと複雑だと思うの」

「モチロンさ。僕は何事にも"背景"があり、誰にでも"世界観"がアルと言う話をしたまでだ。見てょ"蒼穹のヲタッキーズ"で描いた"スーパーヒロインの殺し方"にソックリさ」


黒い花びらに覆われた死体の画像を示す。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ありがとう…みんな、手紙に指紋が出たわ!」


電話を切りながらラギィが叫ぶ。


「誰のだょラギィ」

「ワカラナイ。調べるのに1週間かかるわ」

「1週間?マジかょ?」


呆れる僕にラギィが囁く。


「コレが現実ってモノょ。縦割り組織にようこそ」

「おいおい。ホンキかょ?リアルと御対面ナンて真っ平さ。ココはアキバだぜ?…もしもし?エリゼ?」

「え。誰に電話してるの?」


秋葉原D.A.(特別区)の大統領(で元カノw)だ←


「やぁエリゼ。ラッツ(昔のネーム)だょ。元気さ!え?ウクライダがSATOに加入したがってる?難しい問題だな…ソンなコトより、この間はどこへ消えた?探したのに」

「大統領が短縮ダイアルに入ってるの?」

「"新橋鮫"の手に余るヲタクとは最高の見モノだな」


僕はスマホを切って晴れやかに報告←


「1時間で結果が出るって」

「テリィたん!みんなが待ってるの。割り込みはダメょ!」

「コネを使っただけだ。エリゼはミユリさんの前の推しで…」

「その話、前に聞いたから!何で前推しが大統領なの?!…とにかく!世の中にはルールがアル。ルールを守って」

「ソレなら、君は赤信号で必ず止まるのか?」

「止まらないの?!」


しまった…ココで救いの声w


「ラギィ警部!またもや"スーパーヒロイン殺し"発生!現場は東秋葉原の和泉パーク!」


一斉に背広を手に飛び出して逝く刑事達。夏なのにw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原にある和泉パーク。中小の雑居ビルに囲まれた、ちょっとしたセントラルパークって感じ。

木陰にキッズが遊ぶ"じゃぶじゃぶ池"みたいな水たまりに水死体が浮いている。背中にはナイフ。


「"沃土のヲタッキーズ"と同じシチュエーションだ。また僕の作品かょ」

「公園の保守係が見つけました。被害者はケンラ・ピット」

「遺体の引き上げを。テリィたんはソコから動かないで。何も触らないで!」


ラギィは、僕を指差す。構わズにスピアに声をかける。


「スピア。どんな感じ?自殺じゃなさそうだね」

「当たり前。ナイフが刺さってるでしょ見えないの?」

「口から泡が出ていないから、溺死でもナイな」


スピアは超天才ルイナの助手。車椅子で何かと不自由なルイナの代わりに現場に出るコトの多いハッカー。

ルイナは、史上最年少でアキバD.A.大統領補佐官を務める超天才でSATOの科学顧問ナンだけど…腐女子w


「となると、誰かが殺した後で遺体を動かしたんだね」

「そうカモね…テリィたん、ちょっと来て」

「え。何だょラギィ。推理が進んでるのに」


物陰に引っ張り込まれる。


「あのね。殺人現場では、私の命令には従って。どうして動いたの?」

「寂しかったから。ラギィ警部に意見具申!僕の小説では、ドレスは青ナンだ」

「え。何の話?」

「だから"沃土のヲタッキーズ"では殺されてるスーパーヒロインは青いドレスを着てる。でも彼女(死体w)は赤いドレスだ」

「だから何なの?」

「以前の被害者2人は何か接点があった?」

「捜査中」

「せめて動機だけでも?」


腕組みして唸るラギィ。


「あのね。連続殺人の場合だと動機は無いの…あ、ラギィです。了解。指紋が出たわ!神田練塀町在住のFJ(腐女子)!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


覆面パトが急停車!警官達が次々と降り立つ。


「テリィたん。今度こそ動かないで!」

「神田明神に誓うょ」

「2班は裏に回って。1班、正面から行くわょ」


車に取り残される。ラギィ達は防弾チョッキを着ながらアパートの中を拳銃を構え進む。別階段から警官が降りてくる。


ラギィがドアをノック。


「カエル・キャボ、万世橋警察署(アキバP.D.)!」


ラギィ、ドアを蹴破るw


「アキバP.D.!アキバP.D.!…クリア!」

「全室クリア!誰もいません!」

「警部、コレを見てください」


部屋の隅に、殺されたケースワーカーの写真、女弁護士の写真、僕の本("蒼穹"と"沃土")、黒薔薇の花束の写真…


「やれやれ。本の好みが僕と一緒じゃナイか」

「テリィたん!動くなと言ったでしょ!」

「確かにそうだけど…コレを見てょ」


"蒼穹"背表紙の"著者近影"が黒く塗り潰されてるw


「警部!凶器が出ました!22口径」

「アリソを撃った音波銃ね?」

「戦利品としてとってアルんだ」


若い刑事が銃口がラッパ型に開いた音波銃を摘みあげる。その時、キッチンから何かを叩く物音。

全員が瞬時に拳銃を目線で構えて、キッチンに殺到スル。シンク下の収納キャビネットを指差す。


「ココだわ」


ラギィがキャビを開けると…女が頭を打ちつけている。


第3章 僕が逮捕された顛末


万世橋(アキバポリス)の取調室の隣室。つまりマジックミラーのコチラ側。


「カエル・キャボは、黙秘してます。彼女は"blood type BLUE"。スーパーヒロイン基本法の登録に拠れば、微弱なテレパス。広範性発達障害(PDD)を患ってるらしい」

「なるほど納得だ。PDDは執着心が強い」

「妄想症の病歴もアル。抗精神病薬を常用…うーんプロファイルと見事に一致…し過ぎてるw捜査を終了スルのを躊躇っちゃうわ」

「証拠が出て、被害者との接点もわかった。他の2人は勤め先の客だし。地方検事に連絡しましょう警部」


僕がSTOPをかける。


「待ってょ。事実が単純過ぎナイか?」

「テリィたんのSF小説と現実は違う。実際には意外と単純な事件だって多いわ」

「でも、ソレじゃ読者が納得しないょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)。解散が決まった捜査本部。


「カエル・キャボは、長年PDDの治療を受けていたのに、最近になって急に改善して連続殺人が行えるようになったワケ?ウェイターの仕事をしながら彼女の世話をしてたのはアリソなのょ?」

「ラギィ警部。後は、検察局刑事課の仕事です。警察の仕事じゃありませんょ」

「そうね。あ、その箱は置いといて。私が片付けるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SF作家同士の街中華メシ会。


「ヲタッキーズが死んで、腐女子向けSFのライバルヒロインが減った。あ、青椒肉絲を取って」

「その海鮮ヤキソバはコッチだ…まさに出版界を席巻するヒロインだったからな。テリィ、新作が描けないらしいが、大丈夫か?」

「なぜヲタッキーズを殺した?大失敗だぞ。大金のなる木だったのに。愚かなコトをしたモンだ。税金対策?」


散々だ。せっかくの中華メシが不味くナルw


「ヲタッキーズが忘れられても、我がヒロイン達は稼ぎ続ける。しばらく稼がせてもらうょテリィ」

「暴言だ。次作の中でアンタを殺してやる」

「何か悩んでるな?何だ?」


人の気も知らズ、心の中にドカドカ踏み込む連中だw


「ある人気SF作家の小説をマネて、精神を病んだ女が殺人を計画スル」

「その人気SF作家はテリィたん自身か?」

「どーもそうみたいだな」


僕は、強力な咳払いを発出。


「とにかく!現場からは、指紋もDNAも出ない。だが、女は作家に指紋まみれのファンレターを送っていた」


一斉に呆れ、仰け反るSF作家達。


「何だソレ?で?」

「以上。終わり」

「終わり?ソレで終わりなのか?」


一同は絶句し言葉もナイw


「YES。逮捕されルンだ」

「ひどいな。話にならん。書評も読者もドン引きだ」

「担当の編集者は首を吊るな」


だろうなw


「そもそも現場に何も残さなかった犯人が手紙に指紋を残すか?何のヒネリもない。もはや矛盾と呼びたいレベルだ」

「しかし…誰かが彼女をハメようとしてれば?」

「ソレならストーリー成立だ。彼女の無実を信じる人物に真相を追求させれば良い」


なるほど。


「適任がいるょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜。朝焼けに染まる万世橋警察署。


「テリィたん?どーしたの?朝帰り?」

「ラギィ。SF作家の悪い癖だ。他人の手紙を無性に読みたくなる時がアル」

「で、何の用?」


事件資料を読み込んでたラギィが顔を上げる。

徹夜なのか目にクマだ。事件は終わったのに。


「コレを届けに来た。僕達は新橋以来の相棒だからね…そんな顔しないで開けてくれよ」


リボンのついたヒラペッタイ箱を渡す。


「発売前の新刊だ。一応、サインもしといた」

「ありがとう。なんていうか、嬉しいわ」

「じゃコレで」


僕はラギィのデスクに近寄り、ラギィの頬にキス。

突然のキスにラギィは唖然。ポカンと口を開ける。


僕が去った後…


「まさか?テリィたん?!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"マチガイダ・サンドウィッチズ"は、僕達の溜まり場(アドレス)

ココのチリドッグは、セネガル風で最高に美味しいのだ。


最後の1口を頬張っていたら…


「テリィたん!窃盗と司法妨害の容疑で逮捕ょ!」

「あれ?侮辱罪は良いのか?」

「一瞬だけど、良い人かと思って損しちゃったわ」


ガチャリと手錠がハマるw


「SMプレイ?気が合うな。なぜココが?」

「私は警察。探すのが仕事ょ」

「ミユリさんに聞いたろ?ところで、黒薔薇の種類の確認をしたかい?僕が描いたのと違うぞ」


僕は連行されて逝く。


「よーく覚えとくわ」

「カエルが無実でアル証左だ」

「御丁寧にどーも!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署。身元引受人のムーンライトセレナーダーが迎えに来て、僕は晴れて?保釈とナル。保釈金はいくらかな?


「ラギィ、お手数おかけしました。私のせいなの。TO(トップヲタク)に十分な特典を与えなかったから」

推し(ミユリさん)の代わりに特典をくれるアイドルは大勢いたょ」

「テリィ様!約束を守れば、ラギィは告訴はしないって」


上から目線で説教を垂れるラギィ。


「ただし、もう事件に首を突っ込むのは遠慮してね」

「でもさ、ラギィ。カエル・キャボは無実だ」

「ゴメンね、ラギィ。冗談ょテリィ様、今だけ口を閉じて」


ミユリさんは何とキスで僕の口を塞ぐ←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


あらかた片付いてる捜査本部。


「警部。テリィたんに惑わされちゃダメょ」

「大丈夫。だって、惑わしてるのは彼女だモノ」

「アリソ・テスデ?」


ヲタッキーズのエアリ&マリレがラギィを囲む。


「最初の被害者、弁護士のデモラ・イスクは勤め先の客で、2人目の彼女はソーシャルワーカー。3人目で、また客に戻ってる」

「だから?」

「先ず手近な客を殺し、次に親しい人間に手を出す。その後で再び手近な客に戻るなんて変ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の帰り道。中央通りのノンキホーテ界隈。


「カエルの僕への執着を知っている誰かが、彼女をハメたんだ。つまり、コレは連続殺人じゃない。動機のある普通の殺人だょ」

「被害者同士に何か接点は?」

「ソレはラギィが調べるさ。でも、コレが僕のSF小説なら、真犯人の狙いは1人。残る2人は囮だね」


ミユリさんは小首を傾げる。萌え←


「なぜ囮が2人も必要なのでしょう?」

「3人なら動機でも関連でもなく、異常性に目が逝く。連続殺人なら大抵動機は詮索されナイからな」

「ナンセンス。警察学校の答案なら零点ですね」


ミユリさんは、楽しげに微笑む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「実は…テリィたんの言ってるコト、当たってる。もし、ホントにカエルが犯人なら、厳密にテリィたんの本を真似るハズょ。デモラ・イスクもビニール袋で窒息させるし、ケンラ・ピットのドレスも青にする。細部にまでこだわるハズだわ」

「では、真犯人は誰?」

「真の標的とカエル・キャボの双方に近い人物ね。一方、カエルの執着の対象を知っている被害者は、アリソ・テスデだけ」


ラギィのデスクを囲んで話し込むヲタッキーズ。


「やっぱり鍵を握るのはアリソ・テスデか」

「他にも誰かいるハズょ必ずね」

「犯人がアリソ経由でカエルをそそのかしたとしたら…実は狙いはアリソだったりして。でも、理由は何かしら?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


電気街口の摩天楼。その1角にあるオフィス。


「僕は今や国民的人気のSF作家テリィたんだけど、リチマ氏と15時のアポだ」

「はい、テリィ様。お待ちしてました…」

「あらホント?」


物陰にいたラギィ警部がバッジを見せながら入って逝く。


「テリィたん、来ないの?」

「いや、待て!ねぇ説明を聞いてくれ…」

「テリィ様。貴方は出禁ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


リチマ・テスデ氏は警察との接見に応じるw


「お嬢さんのアリソ・テスデさんに敵がいた可能性は?」

「娘は、誰からも愛されてた。別の方に、もう十分に話しましたが?」

「確認が必要です。彼女の死で得をしたのは誰ですか?」


ラギィは食い下がる。


「娘は、決して裕福ではありません。少しでも余裕があれば寄付をしていたから」

「すみませんが、貴方の総資産は100億円近いそうですね」

「どうかな」


フト考え込む。羨ましい。


「おおよそで結構です」

「では、その程度です」

「お邪魔しました」


突然切り上げるラギィ。僕は慌てる。


「リチマさん!万が一の場合、遺産は誰が?」

「息子です。半分は慈善団体で、残り半分は子供達が。つまり、息子です」

「お邪魔しました」


高層タワーの角部屋に1人たたずむリチマ氏。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕とラギィは万世橋を歩いて渡る。


「ラギィ。リチマさん、そう長くはなさそうだ」

「ええっ?!今、会ったばかりのリチマ・テスデ氏が?」

「YES…ホットドックはどう?トッピングは?」


渡り切ったトコロのコンビニに入る。


「なぜ彼が死ぬと思うの?」

「過去画像を見たら、病的な痩せ方をしてた」

「だって、娘が殺されたのょ?」


冷凍庫の方のホットドッグを物色スル。


「髪を気にしてた。化学療法を受けたに違いない。メイクも濃かったな」

「…なぜ隠すの?」

「株主には秘密ナンだ。CEOの健康は株価に直結スル」


急に声を顰めるラギィ。


「でも、末期とは限らないわ」

「理屈には合うだろ?もう氏の息子さんには会った?」

「未だょ。だって、会う理由がナイじゃない」


ラギィにウィンク。


「コレで出来たろ…あ!レンチンは25秒で!」


レジのアジアンにもウィンク←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


佐久間河岸町。江戸時代から続く物揚場。

荷役労働者達の監督に声をかけるラギィ。


「ハリナ・テスデさん?」

「えぇ。ねぇ!荷台をトラックにお願いね!」

「万世橋(アキバP.D.)です。妹さんのコトでお話が」


ピクリと反応し、コチラを向くハリナ。


「なんなりと。事務所で話しましょう。妹には1ヵ月ほど前に会ったけど、未だ信じられなくて」

「姉妹仲は?」

「良好ょ。妹は他人の欠点を見ない性格だから。あの女のコトも精一杯助けようとしていた。事務員で雇ってくれと言って来たコトもアル」


神田リバー沿いに建つプレハブの事務所。蒸し暑いw


「雇ったンですか?」

「断ったわ。当然でしょ?何かあれば信用を失うのはコッチだから。しかし、断らなければ、こんな事態も避けられたのカモと思うと…」


切り口を変えるラギィ。


「お父様は重病だとか?」

「…最初は、私も妹も動転したモノょ」

「だが、妹さんの死でアンタの相続分は倍増だ」


苦手な役を買って出る僕w


「何?ねぇ!誰なの、こいつ?ソレに犯人は捕まったんでしょ?」

「ハリナさん。弁護士は、常に別の容疑者を探すモノです。捜査が不十分では、陪審員に疑いを持たれますし。ソレは避けたいので」

「なるほど。ソレもそーね」


気を取り直すハリナ・テスデ。


「では、事件当日の行動を教えてください」

「旅行中だった。いえ、出張ょ。ついでに、先に言っとくけど、他の2件の時も出張中だった…あったわ。日付を見て」

「パスポート?」


引き出しから出した赤い旅券を投げて寄越す。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕とラギィは、再び万世橋を歩いて渡る。


「パスポートか。ヤラれたな」

「鉄壁のアルバイね」

「絶対に怪しいのになぁ」


世の無常に、橋の上で溜め息つく僕達。


「気にしないで。テリィたん、貴方はSF作家だわ。骨の髄までね」

「何だょ急に」

「別に」


新幹線ガードの上を東北新幹線が通過して逝く。


「話せょラギィ」

「あのね、テリィたん。良く考えて。彼は嘘つきだわ。妹が殺された日の行動は覚えていて当然ょ。でもね。他の2人の事件当日にまでアリバイを用意してた。ソレはね、ヤリ過ぎなの。ホントに無実なら、そんなコトはしない」

「つまり…賭けは僕の勝ちってコト?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)は、捜査本部を再呼集!


「ラギィ!なぜ僕の勝ちを認めない?」

「だって奴のアリバイを信じかけたでしょ?航空券はどう?」

「警部。残念ですがハリナ・テスデは確かに航空券を購入しています。完璧なアリバイだ」


唇を噛むラギィを見て僕は失笑。


「何処が完璧なアリバイだょ。旅券ナンか改竄したに決まってる」

「そっか!神田リバー水上空港の出入国審査に確認を!」

「だから、ラギィ。ソレが違うンだって」


ラギィは僕の方を向く。


「他に旅券改竄のテクが?」

「アルょ。最も古典的な方法さ。別の旅券を使う」←

「…な、何ですって?"別の旅券"ナンて何処にアルの?」


僕は肩をスボめてみせる。


「ソンなの、金を積めばリトル広東(新幹線ガード下)のコピータウンでいくらでも手に入る」

「つまり…最初は自分の旅券で出国し、別の旅券で帰国して殺人を犯し、その旅券で出国した?」

「そして、最後に自分の旅券で帰国すれば、ラギィが逝うトコロの"鉄壁のアリバイ"は完成だ。実は、抜け穴だらけナンだけど」


ますます唇を噛むラギィ。破れて血が出そうw


「でも…証拠がナイわ」

「とにかく、ハリナを見張らせよう。マリレとスピアに逝ってもらってるけど…あのプレハブ事務所にもガサ入れかけた方が良いと思うな」

「わかった。無関係のスーパーヒロインを2人も殺してる。財産以上の何か深い事情がアルのカモ。捜査令状をとりましょう。テリィたん、付き合って」


また元カノかょw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


最高検察庁の廊下を忙しなく歩く僕達。黒い法衣を羽織ったミクス次長検事を左右からガッチリ挟んで歩く僕とラギィ。


「検事、急いでまして」

「ラギィ、今度は何が欲しいの?あれ?貴女、確か刺されンじゃなかったっけ?」

「捜査令状くれ。ミクス」←


ミクスとラギィが同時に僕を睨むw


「今度は誰なの?」

「ハリナ・テスデです、ミクス検事」

「テスデさんのトコロのハリナお嬢さん?」


足が止まりかけるミクス。


「自分の妹を含めスーパーヒロインばかり3人も殺してる」

「あのねぇハリナをガサ入れ?ミスは許されナイわょ?」

「父親が病気で長くない」


アッパーを入れると棒立ちになるミクス←


「待ってょ。最近会ったばかりだけど」

「画像で確認しろ。末期だ」

「万一の場合、ハリナが妹の分も相続するコトになります…

失礼。ラギィだけど」


スマホでラギィが外した隙に、僕は畳み掛ける。

元カノの扱いなら任せとけ。誰より苦労してる←


「歪んだ家族の愛憎劇さ。まるで、いつか2人で見に逝ったシェイクスピアの英語劇みたいだ」

「あの日、ラッツはピザ屋のバイト娘とダブルブッキングして来なかった。私、2時間も待ったわ」

「検事、現場でハリナが動きました。ヲタッキーズが尾行中」

「証拠隠滅に動き出したな。どーするミクス?」


ミクスは儚い抵抗を試みる。


「なぜ無関係な2人まで殺人を?」

「疑惑から逃れるためです」

「一刻を争うぞ、ミクス」


すると、ミクスは溜め息をついて、僕…ではなくて、ラギィの方を向いて、ヤタラとユックリ微笑んでみせる。遠い目。


「こんな日は、ラッツの彼女に戻りたくなるわ。ラギィ、私の元カレをよろしくね。ソレから病み上がりの貴女は現場に出ないで。また傷口が開いたらどーするの?難しい現場は、今カノさんに任せましょ…ラッツ!背中!」


僕の背中で令状にサインするミクス。


「"blood type BLUE"案件です。逮捕はSATOのPMCに任せるコト」

「了解しました。感謝します」

「ミクス。近いうちに」


僕は、満面の営業スマイルで苦手なパターゴルフのポーズ←


微笑みパターの仕草を返すミクス。次の瞬間まるで何事もなかったかのように、僕達はド真面目な顔に戻ってスレ違う。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の全パトカーが一斉にサイレンを鳴らしターンする直前に神田リバー沿いのプレハブにタクシーで乗り付ける女。

デスクの引き出しを鍵で開けて、中に入っていた見慣れない青いパスポートをオフィスの小さなシュレッダーにかける。


22口径の音波銃を掴む。パトカーのサイレンが近づく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


現場にパトカーが続々到着。ドアがバタバタ開き、警官隊が飛び出す。ヲタッキーズのメイド達も次々"舞い降りる"。


「ハリナ・テスデには数億円の負債がある。でも、妹の相続分があれば十分に返済出来るわ」

「テリィたん、一緒に来るならパトカーのダッシュボードに小型の音波銃が入ってるけど」

「え。見当たらないけど」


ヲタッキーズのマリレが僕に手錠をかけ車とつなぐw


「テリィ様はココにいて」

「ムーンライトセレナーダー?グルなのか?面白いぞ。冗談はよせ。僕はCEO…」

「全員、突入!」


プレハブに飛び込んで逝く。僕はパトカーに繋がれたママ。

ダッシュボードを開けて予備の鍵を出すが…地面にポトリw


「アキバP.D.!開けなさい!」

「今、開ける!待ってょ。おトイレなの」

「ムーンライトセレナーダー、裏窓から逃げる!」


見ると、トイレの小さな裏窓から、まるで軟体動物みたいになったハリナが出て来る。コレが彼女のスーパーパワーか?


「ハリナ・テスデ!もう逃げられないぞ!」

「ホントだわ!じゃアンタが人質ょ!」

「テリィ様!逃げて!」


あっさり頭に音波銃を突きつけられる僕w


「やめて!ハリナ、音波銃を置いて!テリィ様?」

「僕は大丈夫だ。任せろ、ムーンライトセレナーダー」

「ソレ以上近づかないで!動くんじゃナイ」


パトカーを背に僕に音波銃を向けるハリナ。

音波銃、短機関銃を手に半包囲スル警官隊。


「人質を離して。テリィ様、大丈夫ですか?」

「この女の口が臭いけどね」

「うるさいわね!」


OK。僕のペースだ。


「ハリナ。1つ聞きたい。なぜパパに援助を頼まなかったんだ?あ、借金のコトだけど」

「テリィ様、黙って」

「僕が思うに、君は頼んだが断られた。君のパパは叩き上げの人だ。むしろ叱られたンだろう?」


ハリナは泣き出す。


「そうょ!私がいくら頑張っても、パパは、いつも妹の心配ばかりしてたわ」

「だから、殺したのか?娘を奪うコトでパパに復讐スルつもりだったのか?ソレでパパの愛を独り占め出来ると思ったのか?」

「…素晴らしいわ、テリィたん」


思いがけない言葉が飛び出す。


「何だって?」

「ハリナ。気をつけて(何に?)。貴女は終わりょ!」

「終わりじゃないわ!ソッチこそ音波銃を捨てろ、ムーンライトセレナーダー!」


ムーンライトセレナーダーに向け音波銃を突き出すハリナ。

手錠で彼女を殴ると…アッサリと伸び足元でピクピクするw


「テリィ様、後は任せて!」

「おい!僕の手柄だぞムーンライトセレナーダー」

「はいはい…」


痙攣してるハリナのマウントをとり後ろ手に手錠。

その瞬間、ミユリさんは、両手で僕を突き飛ばすw


「テリィ様、どーゆーおつもりですか?」

「待てょ安全装置がついてたろ?」

「え?…ワザと黙ってたの?」


僕はしたり顔だ。


「最初にバラしたら読者が納得しないょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


サイキック抑制蒸気が炊かれる中、逮捕されるハリナ。

赤いランプを回転させるパトカーの横でミユリさんと。


「(変身も解いたみたいだしw)せっかくだから食事でもしないか?」

「え。私を食事に?まさか、推し変スルから元カノの1人になれと?」

「待ってょ。僕にミユリさんの元カレになれと?」


2人同時に吹き出す。


「楽しい夜になりそうです」

「最高の夜にしよう」

「きっと私は…」


必殺の角度をキメるミユリさん。


「テリィ様の想像以上ですょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"路地裏に指す影が彼女の肩に落ちる時…"


朝焼けがパーツ通りの窓を染める頃、僕は徹夜明けのシビれた頭にカフェインを注入して、生ける屍のように描き進む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の地下数100m。SATO司令部。


「リチマ・テスデ氏だけど、ラギィ達が会った日は、単なる二日酔いだったそうょ。誰?末期ガンとか言ってたのは?」

「テリィ様です!ところで、レイカ司令官。何か御用ですか?」

「ムーンライトセレナーダー。先ほど秋葉原D.A.のエリゼ大統領から電話があったわ。大統領は、貴女と貴女のTO(トップヲタク)の間の関係性を深く憂慮されてる…」


レイカ司令官は、SATOが秘密組織だった頃からの沈着冷静がウリの最高司令官だ。さすがに、僕の元カノではナイ←


「推しとTOの関係性?ソレは"誤解"でしょ?」←

「テリィたんの新シリーズだけど、タフで説教臭いスーパーヒロインが主人公らしいわ」

「ソレってホメ言葉かしら?」


実はレイカにもわからない。とりあえず牽制球。


「喜ばないで。とにかく、彼は調査(リサーチ)を希望してる」

「絶対にダメ。いつもフザケてばかりで…味覚ナンか5才児レベルなのょ?ワカルでしょレイカ?」

「でも、この街の功労者であるコトも間違いナイわ。大統領と官邸がハッピーならSATOはハッピーで私もハッピー」


無責任に両手でピースのレイカ司令官。


「で。期間は?」

「貴女のTOょ。自分で聞けば」

「はじめまして、ムーンライトセレナーダー」


ミユリさんは振り向き、僕を見て溜め息をつく。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"連続殺人鬼"をテーマに、主人公が描くSF小説そのままに次々と殺されて逝くスーパーヒロイン達、華やかなSF出版界を彩る元カノ編集者、同じく元カノの検事、同じく元カノの大統領w、セレブな金持ちにその娘達、濡れ衣を着せられるPDD患者、連続殺人鬼を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。


さらに、SF作家仲間の街中華メシ会の風景などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、今や完全に国際観光都市として復活した秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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