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8話 気に入らないッ!!

 「・・・ブッ殺すッ!!!」


 アインの言動に、怒髪頂点を迎えたバルザックが、剣をアインの首へ向けて振り下ろそうとした瞬間、「そこまでですッ!!」と、周囲の生徒達の一部が呼んだであろう教師が間に入る。


 間に入ると言っても、アインを保護するための結界魔法を展開し、遠くから声を掛けたのが実際のところである。


 その後、アインとバルザックとは、物理的に距離をとり、教師を伝書鳩代わりに、必要最低限の言葉を交わし、本日の放課後、決闘を行う運びとなった。


 「私が勝利をおさめた場合、貴様はこの魔剣士学園から去ってもらうッ!!」


 大きな声で、そうアインへと向けて叫んだ後、バルザックは、ハーノイン子爵家の大きな刺繍が施されたマントを、翻して立ち去る。


 そして、事の顛末等を一通り教師へと説明した後、アインは、「はぁぁぁ!」と深いため息をついて、椅子へと腰を下ろす。


 そして、「・・・たくっ、面倒くせぇ。」と、呟いた後、砕けきった姿勢で天井を見上げる。


 (バルザックは、俺を妾の子だと言った。それに能無しとも。この学園に来てから、俺がその事を口にしたことはない。そして、言葉の端々から伺える印象から推察するに、恐らくバルザックは、ジークと繋がってやがるな。でなければ、入学式翌日なんてタイミングで、決闘など吹っ掛けては来れないだろう。)


 ジークとはこの場合、ジーク・クロスフォードを指しており、アインの異母兄弟であり、アインの上にいる双子の、弟に該当する人物である。


 ちなみに双子の兄に当たる人物は、名をジュリウス・クロスフォードという。


 共に、アインの1つ上である。


 (まぁ、俺と違って上の2人は、誇りだのプライドだのを、後生大事にしてやがるからな。まぁ、とはいえ、バルザックがこんなに早く事を起こしたのは、あのかまとと女とジークの思惑が絡み合った結果、付け加えるなら俺の振る舞いが余程気に食わなかったのか・・・。俺としては、決闘に負けて退学したとしても、自由の身になれるなら何の問題もないのだが、いかんせん、父上の思惑が分かっていない。)


 「となると、一先ず今回は、勝利を目指すべき・・・か。ったく、面倒くせぇ。」






ーー 約5年前 ーー




 「御初に御目に掛かります。私、バルザック・ハーノインと申します。ジュリウス・クロスフォード様、並びにジーク・クロスフォード様。今回は、私の披露会に足を運んで頂いた事に対して、心よりの感謝を申し上げます。」


 バルザックは、この時、この瞬間をずっと心待ちにしており、前日の夜遅くまで、何度もこの台詞を練習し、今日という日に備えていた。


 「バルザック・ハーノイン殿。こちらそこお招き頂き、感謝する。しかし、10になったばかりにしてはなかなかに、しっかりとしている。さすがは、ハーノイン子爵家、次期当主候補殿だな!」


 それこそ、"さすが"と言って貰いたかった、が故に。


 「まずは、10歳を迎えた事を祝わせて貰う。その上で、不躾では有るが、貴殿の望みは、我等2人からの剣術指南と聞き及んでいる。挨拶も早々では有るが、どうだろう??この後すぐで良ければ、我等二人共で、貴殿の相手を順に勤めようではないか。」


 と、ジーク、ジュリウスの順番で握手と挨拶を進め、剣術の指南を申し出た。


 「それはっ!!願っても無いことですっ!!是非っ!!御指導、御鞭撻の程、宜しくお願い申し上げますっ!!」


 切っ掛けは、バルザックが9歳の頃、ある剣術大会にて、2人の試合を観戦した事だ。


 齢10歳であるにも関わらず、2人は名だたる大人の魔剣士達を退け、ジュリウスは優勝、ジークは準優勝と、双子揃って栄冠を勝ち取る、まさにその瞬間を目撃したバルザックは、以降、ずっと二人のファンであった。


 そんな憧れの二人から剣術の指南を受けたバルザックは、剣を交えたからこそ、痛感した、いや、痛感できた事があった。


 それは2人が、憧れたよりも、遥か高みに居たのだと言うことだ。


 2人は正に、誇り高く、気高い、そして何より力強さを兼ね備えた、大空を舞う白銀の大鷲であり、バルザック自身を含めた他の有象無象とは、格が違うと、そう周囲の者達に認めさせる程である。


 たった1歳しか違わないと言うのに、彼らの全てが、何もかもが、輝いているかの如く見えた。


 「まだ拙いが、才はある。」


 「また機会があれば、指南をしてやろう。」


 そう言われた事こそが、バルザックにとっての誇りであり、その日より、血の滲む様な鍛練を繰り返し、自身もまた、2人の様にと、その背を必死に追いかけたのであった。



ーー 現在 ーー



 目を閉じ、尊敬して止まない2人との、その僅かな思い出を呼び起こしていたバルザックは、それ故に、眼前に立ちはだかるクロスフォードを名乗る男に対して、怒りと憤りを禁じ得なかった。


 (気に入らないッ!!何故、彼らの背中を見て育った貴様がッ!!その様な態度をとるのだッ!!)


 「なぁ~、バルザックくーんっ!!土下座とかならいくらでもするからさぁ、こんな勝敗の見え透いた不毛な争いなんて辞めようぜ??お前がしようとしてるのは、ただの弱い者いじめ以外の何者でもないじゃんかよぉ~!貴族として恥ずかしくないんですかッ!?俺、本ッ当に、痛いのとか、マジ無理なんだよね~!」


 軽薄な態度、ペラッペラな発言、恥も外聞も無いその全てが、バルザックにとって、神にも等しき2人をすら貶めるような一切合切が、ただただ腹立たしくて、仕方がなかった。


 「その臭い口を閉じろッ!!貴様にッ!!栄えあるクロスフォードの家名を名乗る資格はないッ!!ここで、私がッ!!貴様にッ!!引導を渡してやるッ!!」

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