7話 あぁ、名前間違えてた??ごっめーん☆
「貴様に、決闘を申し込むッ!!」
「・・・は?」
ポカンとした、間の抜けた表情を浮かべる、アインの前に立ちはだかったのは、バルザック・ハーノインであった。
「聞いたぞ!アイン・クロスフォードッ!!昨日、貴様はッ!!こちらの彼女に対して、売春を強要したそうではないかッ!?」
バルザックは、そう言って、自身の背へちょこんと掴まるミーナを指す。
「ん?・・・あぁ。でっ??」
アインは、悪びれた素振り一つみせずバルザックへと問い返す。
「・・・でっ??だとッ!?貴様ッ!!」
腰に携えた剣に手を伸ばし、今にも斬りかからんとするバルザックへ、「そう、カッカすんなよ~。」と片手であしらいつつ、アインは未だに、寝惚けた様子の態度をとる。
「結局、なんもしてないだろ??ついでに言うなら、ヤってもないのに、金はくれてやったんだ。文句どころか、俺の寛大な心意気に、感謝して欲しいくらいだね。」
アインは、話ながらぬらりと立ち上がり、ジロッとバルザックの目を覗く。
「わ、私、アインさんに・・・、無理矢理、お、お金を渡されて、で、・・・でも、怖くて・・・」
ミーナは、バルザックの背へちょこんと掴まりつつ、相変わらずの上目遣いで、懸命に悪者を告発する、可哀想な被害者を演じる。
(あぁ~。成る程。つまりこの女は、俺が他の生徒にあれこれ吹聴する前に、俺を排除したい。そして、ば、ば、えーっと、バーサックくんは、俺の事が気に食わない。そんなバーサックくんをこの女が焚き付けたってところか。)
「だッ!!そうだがッ!?手を出していないという部分も、脅迫しているのではないかと疑わしくなってくるなッ!!」
アインが、欠伸交じりぼんやりと聞き流していると、告発が終わり、ギロッと、殺気の込められた視線が向けられる。
すると、ニヤリと表情を歪ませたアインは、ヒョウヒョウと地べたへ頭を擦り付け、「どうもすいませんでしたぁ~!」と、土下座をした。
あまりにも、誇りもプライドもへったくれもない唐突な行為に、バルザックとミーナは、呆気にとられる。
アインは、パッと立ち上がると、表情を歪ませたまま、言葉を続ける。
「これで満足か?じゃあ、俺はこれで・・・」
そう言って、アインは教室の出入り口側を塞ぐバルザックの隣を、サッとすり抜けようとするのだが、「待てッ!!」の台詞と共に、バルザックは、左腕でマントをなびかせ、アインの行く手を阻む。
「ハハハハッ!さすがは、#妾の子__・__#だなッ!!貴族として、最低限の誇りもプライドも無いとはッ!!まるで、栄誉ある伯爵家の名を汚す寄生虫だなぁッ!?聞けば、その伯爵家からも勘当される予定だそうではないかッ!?」
バルザックは一言目の後、アインを突飛ばし、椅子へともたれかかるアインを、更に上から見下しながら、言葉を続けていた。
アインは、表情がみえないよう、うつ向いた状態のまま、「ハハッ!あぁ、事実だ。」と答える。
「クロスフォード伯爵家の方々もさぞやお嘆きになった事だろうな!貴様の様な、魔剣士としての才能も無く、貴族としての誇りやプライドも無い、文字通りの#能無し__・__#など、身受けするのではなかったとなぁ!!」
アインは、相変わらず、椅子へともたれた状態から動こうとせず、「ククッ」と短く笑い、顔だけをバルザックへと向けて、口を開く。
「たった、1日でよく調べたものだな。そーだよ。お前が言ったことは全部事実だ。でもさぁ仕方ないだろ??俺は何の取柄もないんだ。そんな事、自分が一番良く理解しているぜ?だから、土下座したろ??許してくれよ~!大体、今、バーサックくんのやってることは、弱い者いじめじゃねえのかよ、あぁん??貴族として、恥ずかしくないんでーーーッ!?」
バルザックが、アインを上から見下すなら、アインは、バルザックを下から見下すといった姿勢を見せつける。
だが、アインの台詞は、バルザックの逆鱗に触れてしまい、言葉途中で顔面に、ぺしんっと手袋が投げ付けられる。
そして、パサッとアインの顔面から地面に落ちると、「拾えッ!!」と言い、顔をゆでダコの様に真っ赤にするバルザックが、抜き身の剣先をアインへと向けていた。
「我が名まで侮辱するとはッ!もう我慢の限界だッ!ここで、その首を跳ねられたくなければッ!!さっさと拾えッ!!」
アインは、ため息を一つ「はぁ。」とついて、手袋を拾う。
「ねぇ俺、痛いの嫌いだからさぁ~!降参とか認めてくんない?バーサックく~ん!」
すると、アインの顔のすぐ隣を、バルザックの一突きがかすめる。
「我が名は、バルザックだッ!!」
「あぁ、名前間違えてた??ごっめーん☆」
「・・・ブッ殺すッ!!!」