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4話 最低ッ!!

 「あっ、あのっ!!アイン・クロスフォード・・・さん。私の事・・・、覚えてます・・・か??」


 食堂から出てきたアインに対して、待ち構えていたかのように、声を掛けて来た女性が居た。


 彼女は、無駄に前傾姿勢で胸元を強調し、むやみに間を空けて言葉を発し、やたらと上目遣いでチラチラとした視線を、アインへ向けていた。


 「えっと・・・。」


 (はて、なんとなく見覚えがなきにしもあらずだが・・・。)


 「パッチリとした大きな青い瞳に、絹の様に滑らかな金色の髪。出るとこは出て、締まる所はキュッと締まったスタイル・・・。」


 「あっ、あのっ、そんな風にストレートに言われちゃうと私っ、てれっ、てれまちゃいまふぅ~!!」


 彼女は、頬を赤く染め、体をやたらともじもじさせながら、上目遣いでアインの瞳を覗き込む。


 が、しかし、アインの濁りきった黒い瞳には、それら一連の言動が、ひどく胡散臭く映っていた。


 「あぁっ!今朝の街行く美女さんではないかッ!!」


 「あのあのっ!私、ミーナ・・・、って言います。今朝の・・・、あの時私、びっくりしちゃってて・・・。だから、その・・・、そのっ、おお、お礼とかって、えっと、えへへっ♪」


 (たらたらたらたら喋りやがって、えへへっ♪じゃねぇわッ!!この女、頭にお花でも咲いてやがんのか!?)


 ミーナが喋っている間、眉をピクピク動かしながら、そんな事を考えていたアインだが、とうとう辛抱溜まらず、「あぁ、お礼とか良いから」と、やや雑なの口調で切り込む。





 「今朝の小袋返してくんないっ!?」





 「・・・えぇっ??」


 アインの問い掛けに対して、ミーナは、先程までのキャラが崩壊してしまいそうな程、低い声を漏らてしまう。


 「いやぁ~、銀貨5枚の入った小袋と間違えて渡しちゃったみたいでさぁ~!俺、伯爵家の三男だけど、勘当される予定だし、それないと実家から追加資金なんて貰えないからさぁ~!あの金貨5枚って、俺の3年間の食費な訳よ~!あぁっ!もちろん代わりに、ちゃんと銀貨はあげるよ~?なんなら、5枚じゃなくて6、いや7枚あげるから・・・」


 アインが、食費を取り戻す為、身振り手振りを交えて、懇願していると、ミーナは突然、「チッ!!」と舌打ちをして、態度を豹変させた。


 「使えないわね~!ってか、返せって言われて、はいっ!分かりましたっ!って、返す馬鹿がいると思うの!?あんた馬鹿じゃないのっ!?」


 「・・・えっ?あぁ~!そういう感じ?」


 「はぁ~!?何がそういう感じ?なのかしらっ!?たくっ、伯爵家の三男だから御近づきになっておこうと思ってたのに、勘当される予定とか計算外よ!計算外っ!!はぁ~!外れだわぁ外れ~!」


 「まぁ、この学園来れる位、学力、剣術、魔力に優れた平民ってなると、こんなもんだよなぁ~!あ~~やだやだ!腹黒くて性格ひねくれてるとかっ!見た目が良くても、中身がこんなじゃあ、愛人にだってしたくねぇわっ!」


 互いに互いを罵り合い、バチバチと視線で火花を散らす両者。


 「「あぁっ??」」


 「「チッ!!」」と、舌打ちをする所までシンクロする両者は、案外、似た者同士なのかもしれないと、周囲に人が居れば、そう感じた者も多かったのだろう。


 「安心しなさいよっ!あんたから#貰った__・__#金貨は、私が他の将来有望な貴族様と御近づきになるための軍資金にしてあげるからっ!!お馬鹿なあなたに良いことを教えてあげるわっ!お金って言うのわね、増やすために使うものなのよ??良かったわね!あなたもこれで少し賢くなれたじゃない。ふんっ!!」


 「おいっ!ふざけんなっ!!俺の食費を何だと思ってやがるっ!!言ったろ!?俺は勘当予定だから、追加で資金貰える他の貴族のボンボン共とは違げえんだっつのっ!!大体、そんな金金金金言ってて虚しくねえのかよっ!!たくっ、これだから卑しい平民わっ!」


 「・・・うっさいわねっ!!」


 アインの言葉のどれかが、ミーナの癇に触ったのだろう。


 先程までとは、明らかに雰囲気が変わり、思わず、(あっ、やべっ!)と、アインが思ってしまうぐらい、ミーナの表情は、怒りに満ちていた。


 「・・・あんたら貴族は、今までお金で困った事なんてないんでしょッ!?だから、3年間の食費が~!とか喚けるのよッ!!良い気味だわぁっ!!」


 「・・・。」


 アインは、何も言えなかった。


 確かに、#お金で__・__#困った事なんて、今まで1度も無かったからだ。


 「ほらっ!何も言い返せないでしょっ!?私はっ!このお金使って、金払いの良い貴族様の愛人にでもなって、一生左団扇の贅沢三昧で、幸せになってやるんだからッ!!」





 「・・・、幸せ・・・、ねぇ。」





 興奮し過ぎたのか、涙ぐんだ目をしているミーナとは対照的に、静かで、ここではない何処かを眺める様なアインの瞳は、まるで、瞳から輝きがどんどんと失われていくようにすら見受けられた。


 ミーナは、指で目元をそっと擦りながら、その一部始終を目撃していた。


 (なんで、あんたがッ!そんな瞳してんのよッ!?)


 「・・・もう、いいわ。好きにしろよ。」


 すれ違い様に、アインがポツンと言葉を掛けた。


 「・・・、えぇ。言われなくてもッ!!」


 そして、そのまま両者は言葉を交わすことなく・・・






 「あぁそうだっ!金貨5枚もくれてやるんだから、1発位ヤらせろよっ!」


 




 両者は、言葉を交わすことなくその場が過ぎていくかに思えたが、アインは、爽やかな笑顔で発したこの台詞に対して、ミーナもまた、爽やかな笑顔で、平手打ちをアインの顔面へと見舞う。


 「あんたって、本ッ当に、最低ッ!!」


 ミーナは、まるで生ゴミでも見るような冷たい視線で、アインへと大きな声で怒鳴り付け、早足でその場を去っていった。

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