食事の邪魔をするのはクズだけだ
ガタンゴトンガタンゴトン
と、揺れる平日の昼頃の電車内
車両の座席に恥ずかしげもなく、足を組んで偉そうに座っている男が一人、数少ない乗客から男は冷ややかな視線を浴びせられていた。
その男は、黒いズボンとクシャクシャになってる白いワイシャツを着て、どこの軍かも誰も知るすべがないのミリタリージャケットを羽織り、色が剥げた革靴を履いてる。
揺れるたびにガチャガチャとベルトからなるクリップに纏められた使い道が無さそうなキーホルダーとカギ
その右脇にはリーフパターン柄のショルダーバッグ、我が物顔でスマホをイジる姿
(そう、私だ)
私、2週間半振りの外出、電車に乗るのは2ヶ月振りである。
『次はー○○○、次はー○○○です、お出口は左側になっております……』
と、車内のスピーカーから音声がなると、周りは冷ややかな視線を辞めてそそくさと降りる準備を始めた。
「もう、付いたのか」
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電車から降り、人が右往左往しているダンジョンの様な階段や通路を進み、自動改札に特権を推し当て通過したら目的地に到着だ。
(立ち並ぶガラス張りのビルやきれいに整備された道路を見ると都会って感じになるな‥‥)
と、思いながら歩道を進む
目的の中華屋まで歩いて数分、タクシーを使うまでもない。
(過去に同じような場所に来たが、立ってるビルも店もまるで違う。改めて別世界だと気付かされるよ‥‥)
周囲を流し目で見ながら、過去の薄れた記憶と照らし合わせる。
電子掲示板には『魔法少女』らしきアイドルが清涼飲料を宣伝してる、これも国民からの不信感や不安を取り除く懐柔手段なのだろう。
誰かのやり取りや話し声を聞き流し、チラシとポケットティシュを避けつつ、ひたすら目的地に足を進める。
そう思っているうちに、思いのほか早く目的の場所に到着した。
以下にも、中華料理店とわかるような看板と紅く塗られた窓枠、店内は思ったより混んでないが、決して空いてもいない。
俺は店の列に並び、このしばしの時間をスマホに費やすのであった………
_______
「しゃーらっせぇー、一名様ごあんないー」
と、明らかに疲れてダルそうなバイトが席に案内をする
「ご注文をお決まりになられましたらーこちらの呼び鈴をおしてくださいー」
お冷が入ったコップを机に置かれ、俺は席につく。
メニュー表を見開く、
(焼きそばはもちろん食べるだろう、エビチリも良いフカヒレスープも餃子も麻婆豆腐も良いぞ、小籠包も有るのかこれもだな)
意思が決まり呼び鈴を押すと、店員がそそくさと席に来る。
「ご注文はー」
「五目焼きそばと大皿エビチリとフカヒレスープと餃子と小籠包と麻婆豆腐を、後ジンジャーエールを」
店員はそんなに金持ってるのか?食い切れるのかと、目をしかめて俺を見る
無論食えるし金なら有る、一日何も食べてないのだ、何なら担々麺も注文したいぐらいだ
店員はオーダーを繰り返し厨房ヘ向かう、またしばしの待ち時間だ。
『本日のゲスト、国防省特異災害対策課の魔法少女!平門松さんの起こしでーす』
二人組の芸人がそう言うと派手なSEと紹介VTRの共に出てきた、長髪の黒髪と整った顔立ちに青い瞳、そして幼い身長とデカい胸‥‥
(人気取りも大変だな、あんな子供までメディアに担ぎ上げて‥‥)
哀れみを感じつつ、頼んだ料理が来る間の暇な時間を天井に吊るされたテレビを見て潰す。
『本日はこんなしょうもなーい、ワイドショーにお越しいただきありがとうございます』
『いえいえ、いつも拝見してます、本日はお呼びを頂いてありがとうございます』
『いやいや、そんなに律儀に返さんといてなぁーでも嬉しいわーこんな子供もこの番組見てくれるなんてなぁー最近視聴率落ち込んでるらしいのにー』
『そうそう、こんな視聴率が低迷してるたいしておもろないこの番組をってやかましいわ!』
と、ノリッコミをしてスタジオ内に笑いが走る。
「おまたせしましたーこちら五目焼きそばとエビチリと麻婆豆腐と
ジンジャーエールでーす、他の注文の品は少々お待ち下さいー」
テレビを見てる際中に店員が視界を遮って、料理を机に置く
(早いな、素早いのは好きだ。)
机には想像より多めの五目焼きそばや麻婆豆腐と瓶に入ったジンジャーエールが置かれた、
(おおぉ、多いな思ったより、食いきれないことはないが)
戸惑いを隠しつつ、先にジンジャーエールを開けようとする。
(机に栓抜きがない??なんという事だ手で開けろということか?仕方ない‥‥‥)
俺はおもむろに呑み口を握り、塞ぐ王冠の下に親指の爪を引っ掛けて
「ッポーン」
コインを弾くように王冠を開け、炭酸が吹き抜ける音と共に王冠が机に落ちる音がした。
「失礼しました、栓抜き‥‥」
「問題ない、既に開けた。」
後から遅れて忘れていた栓抜きを届けにきた店員を見つめ、ジンジャーエールが入った瓶を握り、開いてることをジェスチャーするのうに動く。
「そっ、そうでしたか、失礼しました」
と、引きつった笑顔をしながら店員が厨房に戻っていった
(スゲーって顔をしてくれてもいいのに、まあよい、早く食べよう)
箸入れから割り箸を出し、綺麗に割る。
『戦うことについての恐怖ですか?ありません、戦いで痛いのも辛いのも我慢できますが、悲しい事、仲間や市民の皆さまが傷ついたり死んでしまう事の方が怖いです』
俺はズズズッと焼きそばを啜る。
『私は、そんな事をそんな悲しみを味あわせたくありません、だから戦うことに恐れは有りません覚悟をしています、私は‥‥怖くなんてありません』
「嘘だね、」
俺は食べてるのを辞め呟く、
(君は敵を目の前に恐怖で強張る兵士でも武者震いをする戦士でもない、恐怖に怯え、震えて膝を抱えてうずくまる子供さ)
「君はそういう顔をしている‥‥‥」
そう、呟くと再び啜り始める。
「注文の小籠包、フカヒレスープと餃子でーす、領収書でーす」
店員が最後の品を置く、
その時‥‥
ヴゥーゥーーーゥーーーヴゥーゥーーーゥーーー
低く鳴り警戒感を掻き立てるサイレンが、テレビやスマホや外から聞こえてくる。
テレビに目を向けると機械音声で、
【 緊急速報 国民保護に関する情報。 】
特異災害が発生しました、直ちに指定の避難所、国家認定の社、頑丈な建物や家屋に避難してください。
窓を開けたり見る行為をしないでください、『アニマ』に接近や接触をしないでください。
【 対象地域:武蔵ノ府○○○市○○○市・下総県○○○市・土佐県○○○市・陸奥県○○○市 】
店内あわだしくザワつく、無理もない
ここがあの『バケモノ』達の発生地点になるからだ。
「やべーぞ!逃げねぇーと!」「避難場所はここからどのぐらいだっけ」「1キロ先の駅と、こっから1キロ半のデパートの地下が避難場所だっ!」「あいつに連絡しないと…」「飯食ってる場合じゃねぇっ!」「バケモンが来る前に行かないとっ!」
脇目も振らず、我先にと会計もせずに食べてる料理を放っといて店内から出ていく客や店員たち、砂ぼこりが料理に付くから慌てずに避難してほしいものだ。
そう、呑気に焼きそばをすすっていると、「なにしてんだっ!食ってる場合じゃねぇだろ!早く逃げなっ!」
この店の大将らしき人物が、声を荒らげて腕を引っ張り席から立たせようとする
この世界も私の食事を邪魔するのか……
「なにぐずぐずしてるんだっ!!死にたいのか!ほらっ」
そう言って立たせようとする店主に
「私の眼を見ろ、」
「なんだよっ!!早くっ……」
その眼は過剰なまでに赤く血走り、眼角はブラックコーヒーにミルクが混ざり合うようにうごめいて、水晶体は宇宙のような色をしていた。
「なっ‥‥」
「『私は、問題ない。』『私は、そこに居ない。』早く避難したまえ。」
そう告げる、
「あれっ?‥‥‥なにしてっ、やべぇ!さっさと逃げんとっ!殺されちまうっ!!」
店主は、さっきの喧噪はなかったかのように、席に座ってる私を気にせず、店を足早に後にする。
店の中はテレビから発せられる警告音と外から聞こえる足音しか聞こえなくなった
「これを使うとつかれるんだよね、だが。」
これでやっと静かに食事を楽しめる。