私をここから出して
夏の足音間近に迫る新緑の季節。王城にて貴族の若者ばかりを集めたパーティが開かれていた。
「ロクサーヌ!! この穢れきった下衆め!! 貴様との婚約なぞ破棄してくれるわ!!」
王太子が気の強い自らの婚約者、ロクサーヌ嬢に婚約破棄を告げた。
王太子の左腕には眉を困らせたクラリス嬢が縋って居る。そこは本来、婚約者であるロクサーヌ嬢の立ち位置の筈だ。
「っ!!」
ロクサーヌ嬢が反論しようと一歩踏み出せば、何処から湧いたか近衛が現れ、彼女を一瞬で拘束し跪かせた。
「ロクサーヌ嬢、クラリス嬢に対する貴方の罪は多岐に渡ります」
王太子の副官が罪状を読み上げていく。
身に覚えの無い内容にロクサーヌ嬢が声を荒げて反論するが、拘束を強めた近衛に肩の関節を極められてしまう。
初めて感じる類いの痛みに言葉を失い、口から漏れるのは意図せぬ呻きだけだ。
「ふん! もういい! さっさとそいつを連れて行け! この俺に盾突き、俺の真の婚約者を苛めた罪、死刑以外にあり得ない!! 明朝にでも即刻処刑だ!!」
ロクサーヌ嬢は痛みに負けず反論しようと抵抗するが、近衛には敵わず地下牢に引きずられて行った。
「ふん! さあ! 邪魔者は去った! パーティを続けよう!」
こんな空気の中でもパーティを楽しめる剛の者はこの場には居なかった。そして若輩者ばかりを集めた今パーティには王太子に逆らえる者も居らず、綱渡りのような雰囲気のパーティは、王太子が新たな婚約者クラリス嬢と私室に帰るまで続いた。
その後王太子の私室でたっぷりと愛し合った二人。閨の中、女は男に絡みつきながら甘えた声で願いを話す。
「ねぇ殿下、ロクサーヌ様の処刑、明後日にして?」
「何故だ、慈悲なら必要無いぞ?」
「違うわ、私、ロクサーヌ様ときちんとお話ししたことないの。最後にしてみたいわ」
「それなら朝で良いだろう?」
「だって、今朝はきっとお寝坊さんだもの」
艶めかしい手つき足つきで、男をその気にさせていく女。
夜明け近くどちらとも無く眠りにつくまで二人の愛の儀式は続いた。
昼近くになって起きたクラリス嬢が確認すると、ロクサーヌ嬢の処刑は確かに明朝に延期されていた。
「ごきげんよう」
城の外れに高貴な身分の罪人を捉えておく地下牢が在る。クラリスはロクサーヌに会うため、其処を訪ねていた。
「これはクラリス様! この様な場所にどういった御用でしょうか」
「あの方、ロクサーヌ様とお話ししたいの。良いかしら?」
「しかし、」
「殿下の許可は頂いているわ」
「ではお通りを。くれぐれもお気を付け下さい。貴人と言えど罪人ですから」
突然謂れ無い罪での婚約破棄から投獄までされたロクサーヌ、彼女はむしろ被害者である。だが守衛がそれを知る術は無い。
クラリスは暗い階段をカンテラを頼りに降りていく。明り取りの窓は最低限の機能すらしていないようだ。
「ロクサーヌ様」
「…………………」
「ロクサーヌ様」
「…………………」
「ロクサーヌ様」
「…………………」
「ロクサーヌ様」
幾度も重ねられるクラリスの呼びかけに、ロクサーヌは牢の鉄格子を思い切り蹴りつけた。自分を貶めた男の片割れが何の用だと言うのだ、と。
「守衛!! このアバズレを連れて行きなさい!!」
「落ち着いて下さいロクサーヌ様。呼んでも誰も来ませんわ」
クラリスは懐から小さな呼び鈴を出して見せた。遮音結界を張る魔導具だ。
「ふん! そんな物まで用意して私を笑いに来たって言うの? 良いわ、笑いなさいよ! その醜い本性を曝け出して笑いなさいよ!!」
「……はい。ロクサーヌ様には私の本性を知って頂きます。その上でお願いが有るのです」
「いいえ! 無理よ! お前もあの男も決して許したりしない!! 呪われろ! 死ね! お前らも道連れだ! お前らも死ね!」
「……はい、死ぬのは私だけにございます」
「そうよ! あんたが死ね! 私の代わりにあんたが死ね!!」
「……はい、そのつもりでございます。話が速くて助かります」
クラリスのおかしな発言に、ロクサーヌは気勢が削がれてしまった。
「…………どう言う事かしら?」
「ロクサーヌ様には私と入れ替わって頂きたいのです」
「ハッ! 替え玉処刑って事? できる訳が無い! やっぱりバカにしに来たんじゃない!! 消えなさいアバズレ!!」
「出来るのでございます、私の力を使えば」
その力は、クラリスが話そうとしていた彼女の本性に関わっている。
「実は私はクラリスお嬢様、本物のクラリス・レドルボでは無いのです」
「……何を言っているのかしら?」
「私はレドルボ男爵家に使える、使用人のアンにございます」
アンはレドルボ家に使える使用人夫婦の一人娘として産まれた。年同じくしてレドルボ家に女児が産まれる、それが本物のクラリスだった。
アンはクラリスの遊び相手兼使用人としてレドルボ家に仕えていた。そんなある日、彼女は自身の持つ力に気づいた。
それは入れ替りの能力。己と他者の魂を入れ替える事が出来る能力であった。
以来二人は時々入れ替ってきた。それは屋敷の敷地から出してもらえないクラリスの、何よりの慰めとなっていた。
「そんなある日の事でございます。何時もの様に入れ替り街歩きを楽しまれている筈のお嬢様が、約束の時間になってもお戻りになられなかったのです」
「フッ! 逃げられたわね」
「お嬢様は事故に遭われ戻られました」
「……そう、自力で戻れる程度なら良かったじゃない」
「ご存知でしょうか、10年前、隣国が攻めて来た日の事を」
「そんな事も合ったわね。でもそれが何? 今の話しに何の関係があるのよ」
「その辺境伯が急いで領地へ戻る際、平民の子供が馬車に轢かれたのでございます。ご存知でしょうか?」
「確かそんな事もあったわね。……もしかして」
「はい、お察しの通りでございます。その平民の子供が、私と入れ替わり中だった本物のクラリスお嬢様です」
「!!!!」
戦争の指揮を取るため街道を飛ばす馬車。8歳の子供が轢かれて無事な訳がない。幼きアンは自分の足で屋敷に戻ったのでは無く、誰かに亡骸を運ばれて戻ったのだ。
ロクサーヌは言葉を失った。
「以来私はクラリスお嬢様を演じて生きて来ました。私はお嬢様の死に償わなければなりません! お願い致しますロクサーヌ様! どうか私と入れ替わって下さい!」
アンは大粒の涙を流しロクサーヌに懇願していた。
「…………あなた、死ぬつもり?」
「はい! それしか、それでしか償えません! どうか!」
ロクサーヌの足下に縋り付き、額突き懇願するアン。
「私は、構わないけど、本当に良いの? バカ王子が言ってたわ、広場で衆人環視の中、首を落とすって」
「馬車に轢かれ三つに割かれたお嬢様の苦しみに比べれば斬首なぞ!!」
「…………分かった。入れ替わってあげる。如何すれば良いの?」
「ありがとうございます、ロクサーヌ様」
アンは懐から便箋を取り出した。
「ロクサーヌ様の肉体は喪われますので、ご家族に遺書をお書き下さい」
やがてロクサーヌの遺書は書き上がり、アンはそれを懐に納めた。
「ではロクサーヌ様、私とキスを致しましょう」
「は?…………は?」
「キスをすれば入れ替われます。さあ」
「な! 無理よ! 無理無理無理! だってそんな恋人でもないのに! それにそう言うのは結婚してからじゃないと!」
「では処刑されますか?」
「でも…………」
「分かりました。では目を閉じて格子いっぱいに近づいてくださるだけで結構です。時間は掛かりますが、額を合わせるだけでも出来ますので」
「!! 最初からそっちにしなさいよ! バカ!」
意外と純情なロクサーヌはすっかり騙され、アンの言うとおり目を閉じ鉄格子に近づいた。
「!!!! んんん!! バカ!! 嘘つき!!」
「無事入れ替わりましたね」
「!!!!」
ロクサーヌは鉄格子の外に居た。中には自分の姿のアンが居る。
「……本当? 本当に入れ替わったの?」
「はい、残念ながらこれ以上の証拠は用意できませんが、入れ替わっております」
「凄い!! 凄いわ!! うっ!」
奇跡の様な出来事に飛び跳ねてはしゃぐロクサーヌ。しかしそれを阻害する物が今の彼女の身体には着いていた。
「巨乳ってホントにこんなに重いのね。自虐風の自慢かと思ってたわ」
「本当に肩が凝って仕方ありませんでした。その点、ロクサーヌ様のお身体はとても軽いですね」
「うるさいわね! …………ちょっと横向いてもらえる?」
「はい、こうでしょうか」
ロクサーヌは自身の薄い胸板を何とか少しでも盛り上げようと、コルセットをかなりきつく締めていた。そうして出来た胸を自分では「何とか及第点」だと思っていた。
だが今客観的に見ると、無駄な抵抗であった事に気付いた。
「ごめんね、コルセットきついわよね。緩めてあげる」
「助かります。むしろ外してもらってもいいでしょうか?」
「ええ」
ドレスを脱いだアンの背中。ロクサーヌは拙い手でコルセットの紐を緩めていく。
「はあぁ。ロクサーヌ様はこの解放感を味わう為に着けておられるのですね」
「そんな訳ないでしょ! それより速く服着てよ、誰か来たら恥ずかしいじゃない!」
悪い予感とは当たる物で、ロクサーヌがドレスを着終えると王太子が地下牢へと降りてきた。
「ーーーーーーーーーーーーー!!」
遮音結界のおかげで何を言っているのかさっぱりだ。クラリスは鈴を鳴らし結界を解除する。
「すみません殿下、遮音結界を使っていましたので聞こえませんでしたわ」
現在クラリスの中身はロクサーヌだが、散々二人がいちゃつく場面を見せられてきたのだ、今更真似る事など造作も無い。
「そうだったのか。大丈夫か? この女にいじめられなかったか?」
「ええ、遺書を書いてもらっていただけですから」
「それなら遮音結界なぞ必要無いではないか」
「慟哭なぞ誰にも聞かれたく無いと思いまして。殿下、女心ですわ」
ロクサーヌの良く回る舌に、王太子は言いくるめられてしまう。そもそもこの男、他の男への嫉妬が絡まねば、クラリスの言葉を疑ったりなどしないだろう。
「そうか。しかし同じ事を考えていたとはな。俺も遺書くらいは遺させてやろうと思ってな」
「流石ですわ殿下。なんて慈悲深き御方」
クラリスがその豊満な胸でそっと腕に縋りつくと、昨晩を思い出し王太子の鼻の下が伸びた。それを見逃すロクサーヌではない。
「…………殿下、牢の鍵をお持ちください」
「ん? 何故だ?」
「うふふ、直ぐに分かりますわ」
怪しく微笑むクラリスにゾクリとした色気を感じ、王太子は何も考えず鍵を持ってきた。
「如何するんだい、クラリス」
「先ずは牢の中へ参りましょう。さぁ殿下も」
王太子から受け取った鍵で錠を開け、さっと中へ入るロクサーヌ。クラリスの姿で誘われた王太子もいそいそと中へやって来た。
「殿下、残念ながらこの方はロクサーヌ様ではありません」
「何だって!? 逃げられたか! 守衛は何をしている!」
「お待ちください殿下」
アンは突然の事態に着いて行けずにいた。アンとロクサーヌは利害関係にあった筈だ。ここで入れ替り計画をバラす理由など無い筈なのだ。
「実は彼女、ロクサーヌ様のメイドのアンと申します。彼女の特異魔法『入れ替り』を使い、ロクサーヌ様の身体の中にアンさんが居るのです」
「!! それはつまり、あの女は今頃メイドの身体で逃亡中と言う事か!! おのれ、こしゃくな!!」
アンにはもう希望も何も残っていない。ここで処刑されるのが唯一の贖罪、罰なのだと信じていた。もう少しで全て上手くいったのに。もう少しでお嬢様のところへ行けたのに。
アンは項垂れ、心の中、ひたすらクラリスに赦しを乞う。
「もういいではありませんか、あんな女の事なんて」
「しかし、このまま放って置くわけには」
「私あの方嫌いです。いつまでも殿下のお心に居座るなんて」
クラリスがちょっといじけて見せると王太子は意見をコロリと変え、ロクサーヌなんて女なぞ最初から知らんとでも言う顔をして見せた。
「妬いているのかいクラリス。大丈夫、俺の心は君だけの物だ」
「あぁ殿下、うれしい。それでは私のわがままを聞いてくださいますか?」
「勿論だとも! 何でも言ってごらん?」
「ではあの女を殿下のお側に置いてください」
「ん? どう言う事だい?」
「そのままの意味ですわ? だってあの方の魔法、すごく便利ですわよ?」
ロクサーヌは入れ替りの魔法についてあらん限り話した。自分だってつい今しがた知ったばかりだと言うのに。
「なるほど。確かにそのメイドの力があれば君とのデートもしやすくなるな。だが君以外とキスをするのはやはり抵抗が」
「……殿下、昨晩の私は如何でした?」
「すごく、すごく良かったよ」
「殿下にも是非味わってもらいたいのです、女の快楽を」
声を潜め耳元で囁かれた言葉に、王太子はすっかりまいってしまった。そうなると王太子が出す答えは一つしかない。
「分かった。そのメイドを側に置こう。だがこれは決して浮気では無い、分かってくれるねクラリス?」
「勿論です! ではさっそく入れ替わってみてください!」
「今!? ここで!?」
「はい! そのメイドに男の快楽を教える事で殿下に忠誠を誓わせなくては!」
「そうだね、でも少し怖いな」
「そんな弱気な殿下見たくありません」
クラリスが頬を膨らませプイっと横を向けば、それだけで単純な王太子は直ぐにその気になった。
「よし! おいメイド! 入れ替わるぞ!」
急に顔を掴まれ無理やり目線を合わせられたアン。一人自分の殻に閉じこもっていたアンは状況についていけていない。
「アンさん、殿下と入れ替わりなさい」
王太子の背中越しにゆっくりと頷いて見せるロクサーヌ。
アンはロクサーヌに考えがあるのは分かったが、自分の計画を壊したのは彼女だ。アンはロクサーヌに委ねるかを決めかねていた。
ロクサーヌは王太子の背中越しに、口の動きだけで「任せて」とアンに伝えた。
「………………失礼致します」
アンはロクサーヌを信じ、王太子と入れ替りのキスをした。
「!!!! っハァ! クラリス! 目の前に俺が居る! 俺は今誰になってる?」
「ふふふ、殿下は今ロクサーヌ様に見えますわ。どうですか、ご気分は?」
「分からん! だがこんなにワクワクしたのは本当に久しぶりだ!」
「さぁ殿下、ドレスをお脱ぎになって?」
脱がすのは得意だが、脱ぐのは初めての王太子。色気も何も無いガサツな脱ぎ方になってしまうのはしょうがない事であった。見かねたクラリスが手伝いを申し出た。
「ふふふ、私にお任せください、殿下」
「ああ、頼む」
クラリスによりドレスも下着も全て脱がされていく。遂にロクサーヌは一糸纏わぬ姿となった。
「なるほど、これがロクサーヌの身体か。胸が無い以外は均整の取れたそそる、いや違うぞクラリス! これはその、」
「ふふふ、本当に見惚れるほどキレイですね、ロクサーヌ様の身体は」
ロクサーヌは王太子の入った自分の身体をさらりと撫でていく。
「クラリス、っハァ、ダメだ、あ、」
「ふふふ、ここが弱いのは殿下ですか? それともロクサーヌ様かしら?」
「分からん、分からん! だが!」
「どうですか、女の身体は」
「っハァっハァ、素晴らしい! 素晴らしく敏感だ!」
「ふふふ、それでは本番ですわ」
「あぁ、だがやはり少し怖いな」
「ふふふ、それなら後ろをお向きになって?」
「あぁ、こうか?」
「あぁ、素敵ですわ殿下。さあアンさんの出番ですわ」
ロクサーヌは言いつつ牢の外に視線をやり、アンに向け手を伸ばした。アンはその瞬間全てを理解した。牢の扉は開いている。
王太子はクラリスの手を引き抱き寄せると、一足飛びに牢の外へ脱出した。そしてロクサーヌは扉を閉め鍵を掛ける。
王太子が錠の閉まる音に振り向いた時には全てが終わっていた。
「さあ行きましょう殿下」
「……ロクサーヌ様はずっとこれを狙っていたのですか? 一体いつから」
「おい!! どう言う事だメイド!! 何故クラリスをロクサーヌと呼ぶ!!」
「ふふふ、愚かな殿下。少しは自分でお考えになったら?」
「クラリス!? どう言う、!!!! そうか!! そう言う事か!! ふざけるな!! 出せ!! おい!! ここから出せー!!」
突然騒ぎ始めた罪人の様子を見に守衛が降りてくる。
「殿下、一体何があったんですか?」
「気にするな、女が一人壊れただけだ。ずっと夢の中で生きてきたのだろう、夢から覚してやったらああなってしまった」
「そうですか、可哀想に」
「同情はするな。事情が有れど罪は罪、あやつは立派な罪人だ。何を言われようと決して牢を開けるな。耳を貸してはならん」
「了解しました」
王太子とクラリスは地下牢の階段を登りきった。
抜けるような晴天。地下牢に居たのはたった一晩だけなのだが、ロクサーヌにとっては久しぶりの太陽であった。
「アン、入れ替わるわよ」
「はい」
人前で有るにも関わらず、王太子とクラリスはキスをした。もっとも今に始まった事ではない故、誰も気に留めない。
「アン、貴方に罪は無いわ。罪も罰も辺境伯のものよ」
王太子となったロクサーヌが言う。
「いいえ! あの日は私からお誘いしたんです! いつもはお嬢様からだったのに! あの日に限って!」
「それでも貴方に罪は無いわ。それに今更その子の所に行ってどうするの。どうせ今更なんだから仇くらい取ってからでも遅くはないでしょ」
「ですが、私にはもう耐えられません。お嬢様を演じるのも、皆様を騙し続けるのも」
「だから仇を取るのでしょう? 辺境伯の首を手土産に、いつか全てを話に行きましょう。私も一緒に行くわ、私も家族に説明しないといけないもの」
気付くとアンは大粒の涙を流していた。よく泣く日だ。ロクサーヌはアンを抱きしめ、アンが落ち着くまでそうしていた。
「すみません、ありがとうございますロクサーヌ様」
「いつか全てを明かせる日まで、私の事は殿下とお呼びなさい。そして、貴方ももう少しだけクラリスで居なさい」
「はい、殿下」
アンの身勝手な贖罪の為、ロクサーヌは身体を失ってしまった。
いつか復讐を遂げたとしても、誰の何も戻ったりはしない。アンの罪の意識は膨れるばかりだ。
それでもアンは復讐を選んだ。
クラリスの仇を討つ為、いつか全てを打ち明ける為、そしてロクサーヌの犠牲に報いる為に。
いつか復讐を遂げるべく、アンはこれからも暗躍し、その手を汚し続けるのだろう。
クラリス嬢とは二度と会えぬと、死後ですら同じ所へは行けぬのだ、と知りながらも。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悪役令嬢モノで入れ替りネタの作品をあまり見かけないので書いてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。