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【書籍発売中・ESN受賞】虐げられた精霊の愛し子は、隣国で魔石屋を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中
第三章 王国編

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【書籍発売記念SS】 リネットと楽しい街巡り?!

3/2書籍発売を記念しての投稿です!

「さて、大体は掃除ができたかしら……?」

 

 私は顔を上げて、額から流れ落ちそうになる汗を拭う。


 遡ること一日。ルイゾン様に提供していただいた魔石屋の店舗兼住居に入った私。まず一番にしたことは、掃除だった。

 借家であるこの家は元々、ジェイクさんの管理下に置かれていたらしい。家を維持するために、数ヶ月に一度は清掃に入っていたのだそう。ホウキと雑巾はその時に使っているものを、ジェイクさんの好意で戴けることになった。

 これからお世話になる家なので、宜しくね、という気持ちを込めて休憩した私はすぐに掃除を始める。

 

 まずは住居部分に取り掛かった。

 昔、公爵家にいた時……爺が掃除をするのを見たことがあったので、それを思い出しながらホウキと雑巾を手に取る。


 記憶にある爺の見よう見まねで、清掃用具を使う。ホウキでゴミを集めるのは難しくなかったけれど、雑巾の水拭きが苦労した。

 なかなか水を絞りきれず、どうしても水滴が垂れてしまうのよね……。

 水気を取るために、繰り返し布を固く締め上げたのは大変で、手が赤くなってしまったくらい。そんな四苦八苦する私を見て、風の精霊さんが気遣わしげに寄り添ってくれた。

 ちなみに火の精霊さんはバケツの水に興味津々なのか、縁に座って水面に映る自分の顔を見ていたし、水の精霊さんと土の精霊さんは奥でのんびりとしていたようだ。

 慣れないことをしたからだろうか。やっとのことで住居の掃除を終えると、私は疲れからかそのまま寝入っていたらしい。

 次に目を開けたのは、朝日が昇り始めた頃だった。


 今朝からは店舗の掃除を主に行なっていた。

 精霊さんたちが自由に飛び交う中、私は特に雑巾で埃が積もっていた角の部分を丁寧に掃除する。爺の言う通り、埃は角や隅に溜まるのだ。その言葉を思い出しながら、ひとつずつ綺麗に拭いては雑巾を洗い、絞ってまた新たな場所を掃除する。それを繰り返し行なっていた。

 だからだろうか。いつの間にか窓から差し込む陽の光が白い。窓から外を見てみると人通りが少しずつ増えているので、そろそろお昼に差し掛かる頃か。

 そんな時……私の思考に呼応するよう、お腹がぐぅ、と音を立てて鳴る。


「そういえば、朝は軽くしか食べてなかったわ」


 ぽつりと呟くと、眉間に皺を寄せてこちらを見ている風の精霊さんと土の精霊さん。私に向けて「食事を摂るように」と言いたげな表情をしている。食べないと、と考えて立ち上がるけれどハッと気づく。この家には今食料がないことに。

 昨日ジェイクさんが私の荷物を宿から持ってきてくれた時に、軽食も差し入れて下さったのだ。少し量が多かったので、朝の分として起きた後に食べたのだが、よく動いたからだろう。私のお腹は空腹を訴えている。


「何か外で軽く買ってこようかしら?」


 頬に手を触れながら言葉を漏らすと、精霊さんたちの目がキラリ、と光った。何かを期待するかのような眼差しで皆が私を見ている。最初は何故そんな視線を向けられるのだろうか、と頭をひねっていた私。けれども、思い当たる点が頭に浮かび上がり「あ」と声が出た。


「もしかして、果物が食べたいのかしら?」


 そう訊ねると、全員が私に顔を近づけて嬉しそうに目を輝かせていた。特に火の精霊さんは首が取れそうなほど、頭を上下に振っている。これは買ってくる必要がありそうだ。

 それならば買いに行こうと、疲れた身体で立ち上がった時……コンコン、と店舗の入り口の扉を叩く音が聞こえる。

 

 誰だろうか、と扉を開けると、そこにはリネットさんがいた。以前着ていた白地の騎士服を纏っている。何故ここにリネットさんが……? と混乱していると、彼女が私に声を掛けてきた。


「いきなり訪問してすまない。シアさんはこの街に来て数日しか経っていないからな。街を案内した方が良いかと思って、見回りも兼ねて訪問させてもらった」


 それは私にとってありがたい提案だ。今から軽食と果物を買いに行きたいけれど、どの店で購入ができるのかというのは分からなかったからだ。


「ありがとうございます。ですが、見回りは宜しいのですか?」

「ああ、問題ない。この件は他の隊員には伝えてあるからな。それに、ジェイク殿からも街の案内を依頼されているので心配無用だ」

 

 どうやらジェイクさんまでもが私に気を回してくれていたようだ。拒否するのも申し訳ないので、お言葉に甘えて街を案内してもらうことにする。


「分かりました。お願いします」

 

 そうお礼を告げてから、外に出ると私は店舗の扉の鍵を閉めた。


 もうすっかりお昼時だったからか、道は人でごった返している。以前ダンさんと歩いた夜の街以上の混雑だった。

 リネットさんの後ろに付いて歩く私は、頻繁に視線を動かしていた。このような混雑を経験したことがないのだ。数歩進めば、人とぶつかりそうになり謝罪を告げてから……また歩き出せば、正面から来た人とまたぶつかりそうになる。

 しばらく歩いて先ほどよりも少しだけ人気がなくなり始めると、私はホッと胸を撫で下ろした。緊張の糸が途切れたことに気づいたのだろう、リネットさんが思案顔で私に声をかけてきた。


「シアさん、大丈夫か?」

「すみません……このような場所をあまり歩いたことがなくて……」

「ああ、昼は人通りが多くなるからな。確かに歩くのも一苦労だ」

 

 そう告げるリネットさんは全く疲れていないように見える。きっと警備隊で身体を動かしているだろうし、人通りの多い道も慣れているのでしょうね。

 その点私はどうだったか……王宮で王子妃教育を受けてから、歩くといえば王宮の廊下だ。そこはほぼ人が通らず、通っても数人くらい。しかもこの道よりも二倍ほどの広さはあったと思う。正直……人とぶつかりそうになるなんて、初めての経験だった。

 申し訳なさから頭が自然と下がっていく。この街に暮らすのであれば、少しずつ慣れていかなくてはいけないことだ。たまには人が多い時、外に出て買い物してみようかしら。

 そんなことを考えていた私の目の前に、リネットさんの手がいきなり現れる。しかもその上に小袋が乗っていた。


「このクッキーを食べるといい。軽い腹ごしらえにはなるだろう」

「え、いや申し訳──」

 

 私がお断りをしようとした瞬間、お腹の音が盛大に鳴る。

 ……これはリネットさんも聞こえたはずだ。恥ずかしさから頬が熱くなり、顔を上げることができない。リネットさんは小袋からいくつかクッキーを取り出した後、私の手の上に載せた。


「あの通りは屋台もあるから人通りが多い。食事の購入も一筋縄ではいかないと思う。一旦私が先に街の案内をしよう。少し時間が経てば、人通りは落ち着くと思うからな。このクッキーを数枚食べれば、少しくらい空腹が紛れると思うが、どうだろうか?」

「……ありがとうございます。いただきます」

 

 少しだけ顔を上げて彼女と視線を合わせてから、私は軽く頭を下げる。そしてその後クッキーをありがたくいただいた。



 

 リネットさんには冒険者ギルドや郵便局、雑貨屋など重要な店舗をいくつか教えてもらう。大体のお店は大通り沿いにあったので、問題なさそうだ。主な店舗の案内を終えた後、私たちは人通りの多かった通りを歩く。ここは持ち帰りができるお店や食堂がひしめき合っている場所なので、昼時には行き交う人が多くなるのだ。

 

 先ほどよりも大分人の減った道を進んでいくと、いきなり目の前に何かが現れる。

 驚いた私がそちらへと顔を向けると、紙に包まれた丸い何かを両手に持ったおばさまがこちらを見て笑っていた。おばさまの手から漂うパンの香り……どうやら揚げたての揚げパンらしく、それが食欲をそそる。

 その香りに反応してか……お腹の音が鳴りそうになるところを必死に抑える私。おばさまはそんな私の攻防など露知らず、勢いよく話しかけてきた。


「お嬢ちゃん、この店は揚げパンがおすすめでね、この街で一番美味しいのよぉ! ほら、食べてちょうだい!」

 

 ぐいっと顔の目の前まで差し出される。その状況に目を白黒させて口をあんぐりと開ける私。

 貴族ではあり得ない距離感と行動に困惑するが、おばさまは遠慮などない。彼女は私の様子などお構いなしに、商品を押し付けようとする。貴族にはない(物理的な)押しの強さに逆らえず、最終的に私は揚げパンを購入することになった。


「まいどありぃ〜!」

 

 楽しそうにお金を受け取るおばさま。そして一連の行動についていけない私。おばさまが店舗へと入る背中を見送っていると、後ろからリネットさんに話しかけられた。


「大丈夫だったか?」

「……えっと、はい……」

 

 あまりの展開の早さに呆然としている私を見て、リネットさんの口から笑いが漏れ始める。

 

「もしかして、こういう買い物は初めてだったか?」

「はい、いつも他の人と一緒に行っていたので」

 

 口でそう告げながら、爺と共に街歩きをした時の記憶を思い出していた。

 王国の王都では、こんな押し売りをされた記憶がない。爺が守ってくれていたのか……と最初は考えたが、そもそもあのような売り方はしていなかったと思う。

 皆、声を張り上げて宣伝はしていたけれど、人の前に商品を差し出すなどの行動はしていなかったはずだ。

 無意識に首を傾げていたようで、リネットさんが笑って教えてくれる。

 

「このような押しの強い売り方はこの国特有なんだ。特にここの売り方は、フェルバの名物ともなっている。要らなければきちんと断ると良い。そうすれば相手はすぐに引いてくれるはずだ」

「そうでしたか……ありがとうございます」

 

 リネットさんの言葉に安堵する私。なぜなら、この店がこの通りの一番手前の店だったからだ。

 これから沢山の店舗が並ぶ。これを全て買っていたら、お金が足りなくなるのは必至だからだ。


 頑張って断らないと……そう拳に気合を入れて道を歩く私。

 けれど、この時の私は知らない。通りの半分も行かぬうちに断りきれなかった品々で両手が埋まり、途方にくれることになるなんて。

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